気に食わない男
『皆様、こんにちは!
ノイエン・フロリアンです。
本日は、次代のヒーローをご紹介します。
次の正規勇者に最も近い存在と認められた
“候補勇者”レイファス・リリーシアさんです!』
『午後のひと時、いかがお過ごしですか。
エルトフィアの皆さん、あなたのレイファスです』
『優れた力量を持ち四大国の指導者の方々から
候補勇者となる承認を受けたレイファスさんですが、
リリーシアというお名前を聞いてお気づきの方もおられるでしょう、
ジェストール騎士団団長にしてエルトフィア四騎士の一人、
“赤騎士”エデン・リリーシア様の弟さんなんですね!』
『はい。兄の七光りと思われるでしょうが、そのとおりです。
偉大すぎる兄の足元にも及びませんが、
私も人々の役に立ちたいと決意しました。
まだまだ未熟ではありますがこれから鍛錬を重ね、
皆さんの希望となれるよう精進致します』
『何と爽やかで清々しい宣言でしょうか!
ジュネート大陸に乗り込んだ正規勇者様御一行、
そしてエルトフィア大陸で国を守り続ける四騎士様たちに
劣らぬご活躍を期待しております!』
「…何、今の?」
図書館の後に食堂に立ち寄った一行は、
店の魔導テレビでその報道を見た。
不機嫌さを隠そうともせずゾルカは言ったが、
ジュナイルの反応は冷たい。
「見てのとおりだろ。候補勇者様だそうだ」
「俺がいるのに?」
「そうだな」
「いきなりテレビ出演?」
「していたな」
「贔屓だ!」
「そうひがまないでよ、デス君」
「デスって呼ぶな!」
「ごめんごめん、デス君。
しかし赤騎士さんの弟かあ、注目されるわけだね」
適当にゾルカをあしらいながらも、フィラミラは
メニューから目を離さない。
細身の割によく食べる娘らしい。
他方、ムトーが意外に大食ではなく、
なぜそんな身体になったのかとゾルカは何度も思った。
「どうせドラ打ち息子の気まぐれだろ!
有名人の弟だろうが負けられるかっ、先に大活躍しなければ!」
「勝ちも負けもありませんよ。
平和がもたらされればいいのであって、
それが誰の手によるものでもいいではありませんか」
ムトーの言うことはもっともであるが、
ゾルカとしてはそうはいかない。
今見たとおり、なぜだか世間的には候補勇者とやらが
自分よりはるかに注目される存在として報じられている。
少なくとも彼よりは大きな実績を残さなければ、
補欠勇者などというものは忘れられるだけだろう。
「すみませーん!これとこれ追加お願いしまーす!」
「…よく食うお嬢さんだな…
希代の美少女と聞いて、花の顔拝んでおかねばと
熱望していたあの頃のオレに教えてやりたいぜ。
それでゾルカ、どうする」
フィラミラの美しくも豪快な食べっぷりから目を移し、
ジュナイルは尋ねた。
ついさっき目にしたばかりの人物に対して何を怒っているのか知らないが、
ゾルカは未だにひねくれた表情を崩していない。
「あ~んなボンボンに先を越されてたまるかってんだ!
直接やってやってもいいぞ直接!」
「そうじゃねえよ、まずはどれを狙ってみるかって話だ」
ジュナイルにすれば、候補勇者が出世しようがしまいが
どうでもよい。
これから始まる旅路で楽しめさえすれば他のことは
彼にとっては瑣末なこと。
「一番有名なやつがいい」
「知名度だけでいくとグレムドだが…
いわくつきに過ぎるんじゃないか?」
「みんなに知られるようになるには
それなりの訳があると思うんだよ。
聖剣にも魔剣にもなるっていう伝承だけでなく。
やっぱりすごい威力を持っているに違いない!」
「そう言うならオレは反対しない。
ムトー、あんたのご意見は?」
「広く知られている分、情報も得やすいかもしれませんね。
魔剣であれば封印する必要がありますし、
グレムドを探すことに異論はありません」
「フィラミラ嬢は…」
と、ジュナイルは再びフィラミラに視線を巡らせたが
彼女は未だメニューから目を離していない。
返答を求めるのはやめた。
彼には、数秒後にさらに三品を追加注文する
フィラミラの姿が無駄な予知によって見えたのだった。




