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補欠勇者  作者: 吉良 善
2 仲間がほしい
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彼女の興味は

それから数日間、ゾルカたちは


フィラミラにはなかなか会えず、


会えてもろくに話を聞いてもらえなかった。


その上、学院の職員から部外者が連日敷地内を


うろうろするなと注意されてしまったのである。


そのことで、ムトーがひどく落ち込んだ。


「…私としたことが、なぜゾルカ君とジュナイルさんを


 止めなかったのだろうか…!


 力ずくでも止めるべきだった…!」


「…ムトーが力ずくとか言うとシャレにならないなあ…


 萎縮しちゃうよ俺…」


「いやはや、予想以上の美形ではあったが


 予想以上の手強さでもあったな。


 あれほど人の話を聞かないヤツは初めてだ」


怯えるゾルカに目を向けながら、ジュナイルが言った。


フィラミラは、とにかく聞く耳を持たなかった。


嫌がっているとか警戒しているとかいう空気ではなく、


心底関心がないのだと感じる。


彼女にとっては、他のいかなる事柄や事情よりも、


自らの興味が優先されるのであろう。


はっきりと断られれば諦めもつくが、


返事をするというところにまで至っていないのだった。


「ああ~もう、これじゃあ俺がいくらいいこと言っても全然意味がないよ!」


「お前は最終的に甘い物で釣ろうとしていただろう。


 そいつはともかく、あの娘は大義や金品で攻めても無駄だ。


 それらへの執着が感じられない。


 ゾルカのように活躍したいっていう野望、


 ムトーのように平和のためっていう大志、


 オレのように楽しみたいっていう欲望、どれとも違う。


 あえて言うならオレに近いのかもしれないが、


 オレの場合はこの旅自体が目的だからな」


「つまり、俺たちの旅に彼女の目的を組み入れてしまえばいいんだな!」


「可能ならな」


「フフ、俺は補欠勇者だぞ?


 フィラミラちゃんが棚から本を取った場所等を調べ、


 彼女がどの本を読んでいたのかを確かめておいたのだ」


「うむ、それとお前が補欠勇者であることとの関係はわからんが


 ヒントにはなりそうだな」


フィラミラが知ろうとしていること、欲しているもの。


それがわかれば、同行してもらうことができるかもしれない。


ゾルカは、一枚のメモを取り出した。


「わかっている限りでは、彼女が読んでいたのは


 『閉ざされた北の大地』、『五大国の王家と先住民』、


 『実現しなかった魔法たち』…」


「…組み入れにくそうな分野ばっかりだな…


 うら若き乙女がなぜそんな本ばかり読んでるんだか」


「…何とかなりそうなのは最初のやつかな…


 これミラストラ大陸のことだよね…」


エルトフィア大陸の北の海を進んでゆくと、


とてつもなく大きな溝にぶつかる。


グレート・トレンチと呼ばれるその溝は東西にどこまでも続いており、


超えて行くことはもちろん、霧がかかっていて


その向こうに何があるのかを見ることすらできない。


言い伝えによるとかつてグレート・トレンチは存在せず、


ファンディアは分断されていなかった。


そして、エルトフィア大陸の北方には


ミラストラ大陸があったと記されている。


ファンディアがいつ、どのようにして、いくつのエリアに


分けられたのかは、神話で取り上げられたりはしているものの


正確なことはわかっていない。


フィラミラはおそらく、ミラストラ大陸に


興味を持っているのだと思われる。


「…ジュナイル、ムトー。


 行けたらミラストラ大陸にも行ってみるってことでいい?」


「実在するのかもわからないんじゃ


 ちょっと寄ってみるかって目指す場所でもないが、


 オレも行けるものなら行ってみたいね。


 旅行記のミラストラ編を出せばベストセラー間違いなしだ」


「ミラストラ大陸にも困っている人はいることでしょう。


 それならば、私が行く理由になります」


「ありがとうねお二人さん!


 考えたら未知の大陸を目指すって勇者にふさわしい冒険だな。


 うまくいけば正規勇者を超える名声を得られるぞ、


 イェッヘッヘッヘ」


「…ゾルカ君、今私本気でお別れを考えましたよ」


気味の悪い笑みを浮かべるゾルカを、ムトーはジト目で見た。


現時点では、補欠勇者の中で世界平和への志と


自己顕示欲のどちらの割合が大きいのか判然としない。


結果さえ出せば、どちらも達成されることは間違いないのだが。





「フィラミラちゃん。


 キミ、行きたい所があるんじゃないかい?」


「?」


フィラミラが学院の門外に出て来たところを狙って


話しかけたゾルカら三人。


今日も一緒にいたイルマの隣で、彼女はきょとんとした。


「ほら、行きたくてもなかなか行けない所…」


「…」


「海の向こうの…」


「…」


「多少危ないとは思われるけども…」


「ジュネートには確かに行ってみたいかも」


「違う!ミラストラだよミラストラ!」


「ミラストラ?」


「俺たち、打倒魔王とミラストラ大陸上陸を


 目指しているんだよ。


 そのために、君の並外れた魔導の力を借りたい!


 ぜひ仲間に入ってくれ」


「わたし、一人で行きたいなあ」


「な、何で」


「人と合わせるの苦手だから」


「…」


さもありなんとその場の誰もが思ったわけだが、


ゾルカはめげない。


フィラミラに協調性がありそうだとは考えていない。


オニキスとイルマから人となりについては聞いていた。


しかし、ゾルカたちの目的を達成するには


優れた魔導の使い手が不可欠だ。


専門家が認める能力と名門校を卒業し自由に動ける立場を持つ


フィラミラこそ、現時点では最適の人物。


「できるだけ君の意見を採用するから!


 宿は当然一人部屋、野宿でも君だけは小型テント、


 食事のメニューも…」


「オレ、食事にはちょいとうるさいんだけど」


「少し黙っててもらえる、ジュナイルさん。


 ちょいとうるさいっていうか今まさにうるさいから。


 余計なことを言わないでいただきたい」


「へいへい」


「…とにかく、可能な限り配慮するから」


「でもなあ、ほとんど話したこともない人たちと


 いきなり旅というのはね…」


「いやここ数日大分しゃべったよ!


 君が聞いてなかっただけ!」


そう言われて驚いたような表情を見せると、


フィラミラはイルマに顔を向けた。


「…そうだった?」


「…そうだった」


その返答を聞き、フィラミラはからからと笑う。


「失敬失敬!


 全然気がつかなかったなあ」


「…それじゃあ…今日は話を…」


「今日はちょっと急いでいるので、失礼!」


「やっぱり聞かないじゃないか!どうすりゃいいんだ!」


あっという間に遠ざかるフィラミラの背中に向けて、


ゾルカの声が虚しく響いた。


立ち尽くす三人の脇を抜け、イルマはそろそろと場を脱して行った。



 

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