紅一点を探せ
三人そろって同じ宿に泊まり、翌朝。
朝食を取りながら今後について話し合った。
その中で、ゾルカが気になっていたことをきいた。
「ムトーさん、荷物の中にあったあれは…」
「ああ、ハンマーですね。
我々は刃物を武器とはしませんので…
これでも、戦える神官なのですよ」
「これでもというか見るからにというか…
神官というより回復魔法が使える戦士ですよね…」
「はっはっは、ゾルカ君、
これから苦楽をともにするのですから
年少とはいえ敬語も敬称も必要ありませんよ。
私は敬語の方が話しやすいので
このままにさせていただきますが」
「はあ、ではそうします」
「さて、次のお仲間だが」
区切りがつくのを見計らって、ジュナイルが口を開く。
彼はすっかりこの宿になじんでおり、
住み慣れた我が家のように過ごしている。
「昨日言ったとおり、後は
攻撃や援護の系統に長けた魔導士が欲しい。
剣が通じない、距離が遠い、数が多い…
戦闘において、そういう場面はあるだろうからな」
「あの~、」
うなずくムトーの横で、ゾルカが遠慮がちに手を挙げた。
「一人くらい女性に入ってもらいたんだけど。
四人目まででかい人だったら精神的な重圧が
大きいと思うんだよね…俺の」
「長旅なら男の方がいいんじゃないか?
体力的にも、生活の面でいっても」
「女性がいて助かる場面もあるって、女性相手の交渉とか情報収集とか。
世界を救う前に俺を救ってほしい!」
女性だからできることもあるという点と
ゾルカの切羽詰まった顔に説得され、ジュナイルは納得した。
しかし、実際に探すとなると容易ではないだろう。
「問題は三つだな。
最終目標が打倒魔王、補欠勇者のパーティー、男所帯。
ここに入ってくれる女がいるかってことだ」
どれひとつ取っても大きなマイナス要因だった。
それを三つクリアして同行してくれる女性などいるのだろうか。
考えてみても、ゾルカには母くらいしか思い浮かばない。
そうだ、母だ。
母と同年代の寛容な女性なら承諾してくれるかもしれない。
「外見とか年齢とかにはこだわらないから、
おばさまも大歓迎だから。
とりあえず腕がいい人がいい!」
ゾルカが言うと、ジュナイルは顎をさすりながら同意した。
「魔導の技量が高い人物となると、
確かにそこそこ年を重ねているだろうな。
幸いここは大陸一の大都市シャンデラだ、
人探しにこれ以上の土地もない。
手分けして評判の高い魔導士を探そう」
食事を終え、三人はそれぞれに情報収集を開始した。
だが、名の知れた魔導士はすでにどこかに所属していたり
指導者になっていたりで、話をしても
同行してくれる者はなかなか見つからなかった。
ただでさえ魔導士は戦士より数が少ない。
女性にこだわらなくとも、難しいのは同じことであったろう。
空振り続きで三日目。
ゾルカは初日にも訪れた魔導を教える学校に再びやって来た。
シャンデラ魔導学院はエルトフィア一の名門である。
歴史は古く、数多くの名立たる魔導士を輩出してきた。
そんな名門校の教員に無謀にも声をかけ
あえなく撃沈していたのだが、
やはり魔導士に関する情報が最も集まるのはここだろうと
考えたのだった。
無論他の二人もここは外せないと考えていたのだが、
ジュナイルは学校というもの自体が好きではなく、
ムトーは見てくれからして論外、
生徒を怖がらせてしまうのでゾルカに任せることにしたのだ。
生徒の年齢層は幅広いが、彼くらいの年代が多い。
学院で学び終えると職につくか、高名な魔導士に師事する者もいる。
今回ゾルカは、教員を誘うのではなく
卒業生や関係者の情報を得ようとしていた。
二回目ということでややうんざりされたりもしたが、
何人かの教員を当たっている内に嫌な顔をせず
話をしてくれる人物に会えた。
四十代くらいの女性教員、オニキス・ブライである。
「卒業生?」
「ええ、卒業生とか元先生とかで脈ある人はいないかなと思って!
すぐ仲間になってくれるかもしれない人」
「どうかなあ。
お仕事をしている人や研究をしている人は難しいと思うよ、
今の生活を捨てて旅に出てくれというのは…」
「そんなぁ~、こうなったらもう
学院の関係者の関係者でもいい!
今までで一番すごかった人の関係者!
一番すごかった人ってどなたですか」
「一番と言われても難しいなあ…
すごかったって言ったら、」
ゾルカの大雑把な質問に悩みながら、オニキスは
ぽつりぽつりと答えてやった。
「ジェストール国軍の最高魔導士とか、
魔導テレビやら魔導灯やらを発明した賢者様とか…
ああ、近頃特に名高いのは正規勇者様のパーティーの一人。
みんなすごかったよ」
確かに、錚々たる顔触れである。
しかし、そんな歴史に名を残すことがすでに決まっている
面々では接触が難しい。
ゾルカの尋ね方が悪かったのだが。
「後は…」
オニキスの話は、まだ続いていた。
「…いや、あの子はいいか」
「いや、良くない!気になりますって!」
「…じゃあ、一応…
ついこの前の春に卒業した子なんだけどね。
才能…というか魔力量においてはもしかしたら
学院の長い歴史の中でも一番かもしれないって」
「すごいじゃないですか若いのに!」
「そうねえ、今年で十六だからね。
しかも二年で首席で卒業だから」
この学院は十三歳から二十歳までが受験でき、
通常五年で卒業する。
つまり、その人物は半分以下の期間で卒業資格を得たことになる。
「この名門シャンデラ魔導学院始まって以来の天才かー!」
「いや、それはわからないのよ、才能という点で一番かどうかはね。
得意不得意の波は大きかったし。
でも、魔力の量は本当にすごかった。
まだ未完成の若い年代ではすぐ空っぽになったり、
あまり続けては魔法を使えなかったりするんだけど、
あの子はいくらでも使い続けることができた。
魔法を完成させるのもとんでもなく早かった。
ただ好き嫌いが激しくて、興味のない科目はからっきしだったなあ…
それでも、黒魔法に関しては異常な早さでひととおり修めたから
飛び級で卒業したんだけどね」
どうもまた扱いづらそうな人物のような気がしてきたが、
高い能力を持っているのは間違いないようだ。
もし風変わりな人間だったとしても、学校を卒業しているくらいだから
ともに行動できないほどの難物ということはあるまい。
「そんな人材じゃもうどこかが目をつけてますよね?」
「色々話はあったみたいだけど、本人は多分お家にいるよ。
お金とか物じゃ動かないの、あの子」
「これはチャンス!どんな人なんです?
歳も近いし、この際男の子でもいいかな」
「男の子じゃないよ」
「え?」
「美少女よ、とびきりのね。
すらっとしているし、あれでおとなしくしていれば
男なら誰でも放っておかないだろうにねえ」
美少女なのは結構なことだが、おとなしくしていればというのが
気にかかる。
好き嫌いが激しいという言葉が出た後なのでなおさらだ。
「こ…怖い人なんですか」
「怖くなんかないわよ、明るい子よ」
笑いながら、オニキスは答えた。
「ただ、何て言うの?
魔導士の卵というより魔法愛好者みたいな子なのよね。
スイッチが入っちゃうとじっとしていないのよ」
「ははは、そのくらいならかわいいもんじゃないですか!
よし、決めた、誘ってみよう!
住所教えてください」
「教えられないわよそんなこと。
何かあったら困るし」
当然の答えだった。ゾルカはこの学院に縁もゆかりもない
完全なる部外者である。
しかし、引き下がるわけにはいかない。
情報収集開始からすでに今日で三日目。
「何もないですって!
ちょっと仲間になってもらいたいだけですから!」
「私もあなたが悪い人間だと思っているわけではないけれど。
それじゃ、伝言を頼んであげるから学院で会いなさい。
あの子今でも時々来るから、図書館を使ったり
私たちに質問したりするためにね」
「わかりました!」
ゾルカが答えた時、オニキスはちょうど近くを通りかかった
女子生徒に声をかけた。
「イルマ、あなたフィラのお家知ってるわよね。
言づてを頼んでもいい?」
「フィラなら今来ていますよ」
「来ている?」
「目立ちますからね、すぐわかりましたよ。
話してきたところです、図書館に行きましたよ」
「呼んで来てもらえる?」
「…来るかなあ…一応行きますけど、
先生もご存知のとおり読書に没頭しちゃっていたら
動きませんからね、彼女」
言い残して、イルマは走って行った。
彼女やオニキスの話を聞けば聞くほど、ゾルカは不安になってきた。
若年ながら能力は抜群というその人物だがどうやらかなりの変わり者、
冒険の旅になど興味を示すのだろうか。
そして、ジュナイルやムトーと行動をともにすることができるのか。




