商談成立
「オレの方は、こんなとこかな。
今度はお前さんのことを聞かせてくれよ、ゾルカ。
シャンデラに何をしに来たんだ」
「人探しと、赤の騎士団に入るため!」
「赤の騎士団…ねえ」
はりきって答えるゾルカの言葉をぼそりと繰り返して、
ジュナイルは椅子に深く座り直し腕を組んだ。
そして、
「お前さん、腰の物はどの程度遣えるんだ」
ゾルカが腰に吊るしたまま座っているレビブレイドを顎で示し尋ねた。
赤の騎士団に入りたいという者は身の程知らずも含めて
掃いて捨てるほどいる。
ジュナイルの見立てでは、目の前の輝かしい未来を夢見る少年も
身の程知らずの方に入る一人だと思うのだが。
「どの程度と言われると、素振りをしていた程度というか…」
「魔法の方の心得は?」
「ありません!」
「入隊できる可能性もありません。
やめときな」
「ええ~!」
根拠もないのに自信過剰もいいところなゾルカは
立ち上がらんばかりの調子で声を上げたが、
ジュナイルは鼻を鳴らしてかぶりを振った。
「赤の騎士団は四大国の中でも一番のエリート集団だぞ。
各地からその地方で屈指の遣い手が集まって来るし、
魔法も基礎くらいは習得しておかないと、入隊審査すら受けられない」
「…困りましたよこれは…!まさに想定外…!」
「何でだよ。試験は準備をしてから受けるもんだろ。
勉強しないでいきなり会場に入る奴があるか。
合格する気がないなら話は別だけどな」
そのとおりであった。
そんなわかりきったことをはっきりと言われて、
今さらながら思い出す言葉がある。
「…母さんの言ったとおりだよなァ…」
母は『本気で決めたことなら』と言った。
果たして、本気で決めたことだっただろうか。
そもそも、動機は『赤の騎士団がかっこいいから』であった。
本当に入ろうとするならば、ジュナイルの言うように準備すべきだ。
しかし、自分が心底目指したものは何だったか。
新たに運ばれて来る料理に目もくれず、ゾルカは考え込む。
そんな彼を、ジュナイルは面白そうに眺めた。
黙ること数分、ゾルカは顔を上げてジュナイルをまっすぐに見た。
「ジュナイル、補欠勇者って知ってる?」
「ああ、…ちょっと前にマスコミが面白がってたやつか」
ゾルカは別にして、補欠勇者の知名度はそれなりにある。
格好の獲物とばかりに飛びついたテレビ関係者や記者によって
報道されたからだ。
期待を込めてではない。道化者として。
ゾルカに結びつく情報は一切ないから、特定されることはなかった。
「あれさ、…俺なんだ」
「へえ」
やや小声の告白に、ジュナイルはそうとだけ答えた。
「…信じる?」
「疑う理由もないからな。
嘘をつくにしてもあえてアレを名乗る物好きがいるとも思えない」
「そう、…そうだよな。
補欠勇者なんてその程度のものでしかない。
俺がジェストールの王様にうるさく言ったら、
それならお前は次の勇者になればいいって言われただけだし。
つまり、順番を間違えたんだよ!」
「順番?」
「そう!」
両手を握り締め、ゾルカは急に瞳を輝かせた。
何かを決意したような、澄んだ眼差し。
「先に補欠勇者になっちゃったからいけないんだ!
有名になってからにすれば良かったんだ!
そうすればみんなの後押しも受けて補欠じゃなくなるに違いない!」
「…お前、アホだな…」
多少呆れはしたが、ジュナイルは笑った。
未熟であるからこそ、人は興味深い。
それは、自分でも他人でも同じこと。
かつてのアスティアも含めて五大国を回り、
旅もひと区切りついたところである。
全く違うことをしてみるのも悪くない。
「で、これからどうするんだ」
思いついたことはまだ口にせず、ジュナイルは問うた。
ゾルカはなぜか自信満々な様子で、胸を張る。
「大活躍するしかないな!
巨大モンスターを倒したり、伝説のアイテムを手に入れたり…
魔王を倒したりするのはその後!」
「と言ってもお前さんはひよっ子だ、
一端の戦士になるまでは地道に経験を積むしかない。
が、一人ではそれも容易くないだろう、そこでだ。
オレも一緒に行ってやろうか」
「…」
ぐっ、と顔を近づけて言うジュナイルの申し出に、
ゾルカはすぐに嫌そうな表情をして隠そうともしない。
ジュナイルとしては、満面の笑みで手を取られるくらい
喜ばれると予想しつつ提案したつもりだったが。
今度は彼の表情が曇った。
「おい、人が親切で言ってやってるのにそのツラは何だ」
「…俺、昔から仲間にするならこれはダメっていうのがあるの」
「ほう、どんな?」
「俺より…いや、俺と同じくらいかっこいい男は入れない」
「わけのわからないことを言うな」
思った以上にくだらないこだわりだったので、
ジュナイルは一蹴した。
「旅慣れている上にそこそこ金があり、剣も遣える男前!
どこに不満があるってんだ。
自分で言うのもおこがましいがなかなかお目にかかれねえぞ、
しかもこっちから手を貸してやるって言ってんだ」
そう言われては反論できない。
ゾルカ一人では戦うにも心許ないし、
所持金も決して余裕があるわけではない。
いきなり腕の立つ仲間ができるなど幸運としか言えない話だ。
「…それじゃあ、お願いします」
背筋を伸ばし、ゾルカは頭を下げる。
ようやく満足いく反応を見ることができたので、
ジュナイルは口元を歪めるようにしてにやりと笑んだ。
「商談成立だな。
お代は楽しい思い出でいいぜ、よろしくな」
どう見てもクセ者のジュナイル。
彼との旅は、どのようなものになるのだろう。
そして、彼とともにゾルカは目的を果たすことができるのだろうか。




