あれから、これから
デスゾルカは、現在十八歳。
ジェストール国内にあるミルフェ村で母・ミムナ、妹・エリエルと
ともに暮らしている。
六年前、アルトリア襲撃ののちアスティア王国は滅びた。
父は不在、母・妹とは会えず一人アルトリアを脱したデスゾルカは
思いがけずファンフラン王国の王都ヴィルレーに流れ着き、
旅商人の一団に同行させてもらってジェストールに入り
ミルフェ村の近くまで来たところで一団を離れて村にたどり着いた。
そこで母、妹とは再会したが
父・リグルスとはこれまで会えていない。
この村がミムナの故郷であることは当然知っているから、
再会への最善の方法はここで待つことだろうと考えた。
キリクとラァズがどうなったのかはわからない。
あの時アルトリアを脱出することができた住民や旅人はわずかで、
それらはエルトフィア大陸の各地に散らばった。
その中に彼らがいることを願うしかなかった。
生存者たちは、いずれも襲撃者を見ていなかった。
生き残ったのは、事件当時街の中心部から
離れた場所にいた者ばかりだったためである。
他の四大国が事態を把握し軍を派遣しようとした時には
アスティア国内の広い範囲に魔物が出現しており、
敵の正体・事件の真相が明らかになっていないこともあって
方針は現地調査に切り替えられた。
大陸全土で魔物の増加傾向が見られ、
自国の防衛にも人員が割かれる中
四大国は難しい対応を迫られることとなった。
アスティアと隣接するジェストールとファンフランを中心に
魔物の進撃を食い止める戦闘が散発し、
幾度も中断を余儀なくされながら続けられた調査がようやく終了して、
先程流れたニュースへとつながったのである。
ジュネートの問題も依然として残っており、
人々は自分たちの社会を守るため
できる限りこれまでどおりの生活を送りながらも、
心には常に不安がくすぶっていた。
勇者なら、こんな時には当然立ち上がらなければならない。
というよりすでに立ち上がっている。
世界でただ一人、四大国に公認された正規勇者は
魔王がいるジュネート大陸に乗り込んでいる。
魔物だらけの広大な土地で敵の本拠地を発見しなければならず、
その冒険は現在も続行中だった。
まだ本懐を遂げていないとはいえ彼らのおかげで
エルトフィア大陸に渡って来る魔物の数が抑えられており、
そういう意味では十分に人々を守っていると言えた。
しかし六年前、おそらくまたも魔王が現れた。
誰も予想しなかった。
続けて魔王が現れ、二人同時に存在しようとは。
しかし、正真正銘の勇者は手一杯である。
となれば、二人目が立ち上がるしかない。
こんな時のための補欠勇者なのだ。
ジェストール国王としては、その認定から
魔王が出現したとの最終的な判断まで半年間空いたので、
あれほどの熱意を持つ若者なら
かなりの成長を遂げているのではという想いもあって
一応魔王打倒を要請したのだった。
遠い異国には『男子三日会わざれば刮目して見よ』という言葉もある。
ただ、認定前も後も正式な訓練などは経ていない。
だから実力も伴っていない。
もちろん期待されてもいない。
他ならぬデスゾルカ・レビである。
幼い頃から勇者に憧れ志していた彼だったが、
補欠勇者誕生からテレビや新聞、雑誌などで面白おかしく扱われ続け
すっかりひねくれてしまった。
勇者評論家のバーライン・ナイトなどは、
『そもそも勇者というものは、義を見てせざるは勇無きなりを
最もよく体現する存在であって、
正規勇者が対処できない場合に出番が来る
補欠などは理念としておかしい、
全く相容れない考え方である。
そんな奇天烈な名前をあてがわれて
ありがたがっているような者が
勇者としての素質も素養も持ち合わせている道理はないのだから、
報道機関も取り上げるだけ無駄なのでやめなさい。
ましてや、私が語るべき話ではない』
とコメントしている。
「…真摯な夢、志、情熱をからかい、あざ笑う…
こんな世界のために命をかける必要があるのか。
こんな人々を守る意味があるのか…」
「わたし、何かの物語でそんなセリフ読んだよ、お兄ちゃん。
悪役のセリフだった」
「…はっ!そうだ、多くは善良なる人々なんだ。
一握りの心ない連中の誹謗中傷なんて気にすることはないんだ!
よく気づかせてくれたな、エリエル」
「お兄ちゃんは一度思い込んだら突っ走っちゃうからねぇ…」
テレビを見ている内に立ち上がってしまったデスゾルカを、
エリエルは頬杖を突いて見上げた。
この兄は父から受け継いだ性質なのか、思い立ったら即行動に移したがったり
少々ドジなところがある。
妹としては困る時もままあるが、
わずか十二歳の幼さで死にかけて
アルトリアからヴィルレーに流され、
その後ミルフェ村までたどり着くという
ある意味奇蹟を起こしたことに、
やや先走りがちな行動力がひと役買っているとも言えるだろう。
「…それで、どうするの?
ノイエンさんは出番ですって言ってるけど」
「ず~っと馬鹿にしてきたマスコミが急にがんばれって?
バーライン・ナイトなんか俺のこと…
いや俺自身のことはあの人は知らないけど、
補欠勇者になるような奴は
素質ゼロとか言ってるんだぞ。
どうせ誰がその補欠かなんて世間は知らないんだから、
気にすることないんだよ。
これっぽっちも期待しちゃいないだろうしな、アッハッハ」
「…」
これも父に似ているが、一度へそを曲げると頑固だった。
しかし、長くは続かない。
一晩眠れば、次の日には覚えていないことがほとんどだった。




