一人の夜
三人で見つけ、三人で過ごした秘密基地。
夜にここへ来るのは初めてだった。
しかも、一人である。
不思議な静寂に包まれていた。
街の中心部では、まだ多くの人々が大変な状況にあるはずだ。
それがまるで嘘であるかのように、
ここではなぜか何も聞こえない。
キリクもラァズも、来なかった。
別れたのは、つい先程のことである。
しかし、ずいぶん前のように感じる。
ふと、足元に無造作に置かれていた本に目を落とした。
よくキリクが読んでいた、魔法に関する本である。
彼はその分野が好きで得意だったから、
デスゾルカは事あるごとに言っていた。
「おれが勇者で、お前が魔導士な」
そう言う度に、キリクはあのやんちゃな笑顔を見せていた。
視線を巡らせると、積まれた雑誌の上にある一枚の絵に目が留まった。
ラァズが描いた、騎士になった未来の自分の絵だ。
それは彼の父によく似ていて、
いかに彼が父を尊敬していたかがわかる。
そんなラァズに、デスゾルカは言っていた。
「お前はいつか親父さんを超える騎士になるんだ。
勇者の親友なんだから、そうじゃないとな!」
ラァズは無理だよ、とはにかみながらも、瞳を輝かせながら
理想の自分を描いた絵を眺めていた。
「…ちゃんと両親に会えたよな、二人とも…
こんなとこに来てる場合じゃないだけだよな」
自分に言い聞かせるように、デスゾルカはつぶやく。
彼自身も、母や妹と合流しなければならない。
オルタ川に行くとはいってもひとまずのことで、
そこも安全である保証はない。
長くとどまることはできないだろう。
デスゾルカは後ろ髪を引かれる思いを振り切って、
秘密基地を後にすることにした。
「戻って来る…絶対にまた、戻って来るからな」
樹洞の中央に置かれた小さなテーブル。
たくさんの傷と、いくつかの落書きが残されている。
その上に、三つの石を置いた。
いつか林の中で拾った、綺麗な丸い石。
また三人がここにそろうように。
ともに未来を過ごせるように。
アルトリアを出たデスゾルカは、自らが生まれ育った街を振り返った。
今朝、家を出た時は平和だった。
全て、いつもどおりだった。
それが今、真っ赤に燃え上がっている。
なぜこんなことになってしまったのか。
故郷に刻まれた思い出という過去と、
日常という現在と、
これから迎えるはずだった未来。
全てを奪われた喪失感に包まれていた。
悲しさと、悔しさ。それだけではない。
様々な感情が胸に渦巻いていて、張り裂けてしまいそうな気がした。
だが、絶望に押しつぶされるわけにはいかない。
自分は、生きているのだ。
家族と友は無事でいるだろうか。
そんな不安を抱えたまま、デスゾルカは前へと進む。




