手紙
「母さん、エリエル!」
自宅に到着したデスゾルカは、
玄関の扉を開くと同時に叫びながら飛び込んだ。
返事はなかった。
誰かがいる気配もない。
家族と日々を過ごしてきた我が家とはまるで別物のように感じられた。
誰もいない時に一人帰って来たことはあったが、
その時とも空気が全く違う気がする。
もう何年も誰も帰って来ていないような、
孤独さを抱かせる静けさに満ちていた。
今朝、ここを出発したのがやけに遠い昔に思える。
焦る気持ちを何とか抑え家の中を歩き回っていると、
いつも食事をしているテーブルの上に置き手紙があった。
ミムナの文字だった。
見慣れたその筆跡が、いくらか心を落ち着けてくれた。
『ゾルカへ・
他の人たちと一緒に避難していると思うのだけれど、
もしお家に戻ってこのメモを見ることがあったなら、
西のオルタ川に向かいなさい。
私とエリエルは今からそこに行きます。
その後はミルフェ村に向かう予定です』
という内容である。
デスゾルカは、母には祭に行くと言ってあった。
おそらく母は今のような事態になって人々が逃げ出す中、
彼を探し、また待っていたのだろう。
しかし、デスゾルカは帰るのが大幅に遅れた。
そこで母は、彼が祭に行っているのなら
周囲の人々とともに避難しているはずであるし、
幼いエリエルもいるのでやむなく家を出たのであろう。
まずはオルタ川のほとりに落ち延び、
アルトリアには戻れなくなると思われるので
ミルフェ村へ逃れるということだ。
ミルフェ村はエルトフィア大陸最大の国ジェストールにあり、
ミムナの故郷である。
彼女の両親はすでに他界しているが、村には知り合いが多い。
見知らぬ土地に行くよりは落ち着くことができるだろう。
「あ」
テーブルにはもう一通手紙がある。
そちらは、父リグルスへの物だった。
彼もいずれアルトリアの出来事を知るはずだ。
そうすれば当然ここへ戻ろうとするであろうが、
今この街に安全な場所はおそらくない。
ここもいつ襲われるかわからない。
とどまっているわけにはいかないので、
デスゾルカは必要な物だけを手早く鞄に詰め込み家を出た。
近所の住民たちもすでに脱出したようで、
今はまだ比較的静かな通り慣れた道を走り抜け、
デスゾルカは秘密基地へと向かった。




