ラァズとデュナミス
ゾルカがようやく友の名を口にすると、
大柄な若者も驚きに満ちた表情を見せていた。
そして、
「もしかして、君は…
ゾルカなのか!?」
そう言った。
ゾルカは何度も大きくうなずく。
わき上がる感情を言葉にすることができなかったが、
代わりに涙があふれ出た。
生きていた。
あの日、離れ離れになってからずっと再会を願い、
探し求めていた友の一人が、生きていたのだ。
ゾルカは、自分より頭ひとつ分大きくなったラァズに抱きついた。
「探したぞコラァァァァ!
何でミルフェ村に来なかったんだよォォォ!」
「どこだよ、ミルフェ村って!
僕だってファンフラン国内はひととおり探したよ、
アルトリアから逃げて来た人が一番多かった国だし!
…相変わらずだな、ゾルカは…
感情の起伏が激しいのもそうだし、
…まだレビブレイドを持っていたのか」
苦笑しながら、ラァズは言った。
しかし、彼の目にも光る物があった。
ゾルカは、戦闘には使っていないがレビブレイドも腰に下げている。
戦うには邪魔だが、外している暇がなかった。
その古びた剣に視線を落として、
ラァズはアルトリアの森の冒険を思い出していた。
だが。
「な~にをやっとるのかね君たちは。
未だこの騒ぎは収まっていないというのに
男同士で抱き合って。
あまり美しくありませんよ、やめたまえ」
感激の対面を果たしたゾルカとラァズに、
デュナミスは呆れたようにジト目を向けた。
いくら経緯を知らないとはいえ、何らかの事情があることくらい
見ればわかるだろうに。
いつの間にかハンカチを取り出して口元に当てている。
言うまでもなく、純白のハンカチだった。
尻でも拭いてろとゾルカは思ったが、
「カチンと来るけど白きバカの言うとおりだ、
積もる話は後にしよう、ラァズ」
「そうだな、見てのとおり僕は白の騎士団の一員だ。
この街を守る義務がある」
憧れていた騎士になったんだな―――――
ゾルカは感慨深げに改めてラァズを眺めた。
妙な感覚である。
あの痩せっぽちのお坊っちゃんだった幼馴染の姿は今はなく、
隆々とした筋肉を持つ見上げるような肉体の上に
懐かしい面影を残すラァズの顔が乗っているという様相だ。
ゾルカは、友との再会でよみがえる幼い頃の日々に想いを馳せた。
だが。
「もういいかね。
さっさと仕事に戻りたまえ、アストレン君」
再び口を挟んできたデュナミスに、
ラァズはすみません、と頭を下げた。
そして、もう一度ゾルカに顔を向け
うなずいて見せると、走って行った。
それを一秒の半分くらいの間見送って、
デュナミスはふん、と鼻を鳴らした。
「さて、私も行かなければならないのでね。
君たち、それなりの腕はあるようだが
ちょろちょろされては目障りです。
あの美しき光の幕の中へ行きたまえ、そこなら安全だ」
顎で、城の方に見えている光を示した。
少し前から見えているが、ゾルカには
それが何なのかわからない。
「何ですかアレ」
「行けばわかりますよ。
なるべく水路には近づかないように、
この私がつかんだ情報によると敵は水路から
侵入したやもしれぬということなのでね」
「それ俺が言ったの!
何をしれっと自分の手柄にしてるんですか」
ゾルカが抗議すると、デュナミスは眉をひそめた。
「なに~?
では君が北門に現れたという旅人か…
我が軍の兵が間に入ってくれて良かったな、
直接会って聞いたなら即刻追い返していたかもしれないね。
世の中には信用を得られる顔とそうでない顔があるものです。
そして、君が情報を持って来なくても私がつきとめていただろう。
まあいい、早く行きたまえ、
細かいことを気にしていると出世できませんよ。
さあ、一番隊の諸君!
ついておいでなさい!」
デュナミスを先頭に立ち去る騎士たち。
その場に残ったのはゾルカとアレッサ、ラヴと
倒れた敵の骸のみ。
かと思いきや、
さらにもうひとつ残されていたのは、ある人物への憤り。
「何なんだあの手ぬぐい野郎は!
帰宅して洗濯でもしてろってんだ、
乾いたらきちんとたためよバーカ!」
「まあ落ち着け」
右足でどんどんと大地を蹴るゾルカを、アレッサがなだめた。
「それより、前に話していた友達と再会できたんだろ。
良かったな」
そうだ、白きバカなどどうでもいい。
ゾルカは、瞬時に笑顔になった。
「おう!
あんなにごつくなってるとは思わなかったけど」
「それで、
…デュナミスって奴が言っていた光の幕だが…
確かに少し前から出ていたようだが、
何なんだろうな、あれは」
「白騎士さんの力よ」
後ろから、ラヴが答えた。
「聞いたことくらいはあるでしょ、
キラリト・サープリスは『守りの騎士』よ。
白のカーテンという、防御壁をつくり出すのさ」
キラリトが守りに優れた人物であることは知られていた。
白のカーテンというものについても聞いたことはあったが、
実際に見たことはなかった。
現物は美しく幻想的で、ため息が出そうなほどである。
「どの程度の強度なんだ?」
尋ねるアレッサに、ラヴは首を振った。
「強度や術者のリスクについては公表されていないよ。
敵を利することになるからね。
ただ、並大抵のことじゃ破れないのは確かだろうね」
「なら、城の守りは万全ということか」
「他の所よりは、そうだろうね。
それより、ボクとしては神殿の方へ向かうべきだと思うな」
「神殿?何で?」
白のカーテンを見ていたゾルカが振り返ってきいた。
「さっき話していたグレムドが、多分そこにあるんだよ。
いただきに行くなら今かなって」
「火事場泥棒かよ!
敵が神殿かグレムドを狙っているのかと思ったよ」
「いやいや、泥棒はないでしょ!
いくら神話でエウリスが作ったことになっているからって
司祭様や神官様のものってわけじゃないと思わないかい?
ボクはグレムドのありかを変えるだけよ、
保管場所をちょっと移したいだけさ!」
「…盗っ人猛々しい言い草だな…」
「何だよ、キミも欲しいって言ってたじゃないか」
ラヴは、口を尖らせてゾルカに言う。
「言ったけど神殿にあったら話は別だろ!
どこかにひっそりと隠されてるとかだと思ったの!」
「それだって隠した人がいるじゃないの」
「…いや、大昔に隠されたからもう亡くなっているとか…」
「ところが、大昔というのはないんだな。
グレムドを持った剣士の話がオズリッドに残っていて、
それはせいぜい数十年前なんだ」
「それ知ってる!
その剣士のお孫さんに会ったもん、俺」
「じゃあ何で大昔だと思ったのよ」
「…細かいことを気にするヤツは出世しないって
いつかどこかの偉い人か何かが言ってたぞ」
「…さっきここでキミが手ぬぐい野郎呼ばわりした人のセリフだよ」
「けど、神殿へ向かうというのは一理ある話だな」
延々と話を続けているゾルカとラヴの横から、
アレッサが口を挟んだ。
彼は、グレムドには興味はない。
だから、二人の会話の大部分は聞き流した。
「敵は街の北部に出現した、だから当然
ファンフラン軍は南よりは北の方が多いはずだし
白のカーテンもある。
神殿には神官戦士団があるが、軍ほどの戦力はないだろ。
そっちの方が俺たちの出番があるかもしれない」
「うん、水路は軍が調べてくれるみたいだしな。
あの手ぬぐい野郎がアテになるかどうかはわからないけど。
俺たちはグレムド…
いや、神殿の方へ行ってみよう」
「…お前、ちょいちょい本音が漏れるタイプだな」
「まあそれもあるんだけど、何より神殿にも俺の仲間がいるんだ。
城の方が安全なら、そっちの方に助けに行きたい」
「どっちにしても行き先は同じ!
さあ、エウリス神殿へレッツゴーよ!」
ゾルカとアレッサの肩に手を置き、
ラヴは宣言した。
その目線の先には、高くそびえるエウリス神殿の
鐘塔の至る所に魔導の明りが灯り、
天にかかる梯子のように伸びていた。




