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一瞬の蒼  作者: 藤原ミク
4/5

冬に佇む




 冬に佇む (1/7)




季節はまた過ぎて行く



窓の外の木は、葉を全部落として。

その代わりに雪を纏った。

蒼は2日も3日も眠り続けている

僕は毎日病院に通う

白い彼女に話しかけて、手にキスを落とす。

真っ白になってしまった髪を撫でる

このまま白く消えてほしくなくて、

ずっと手を握っている。

繋いだ手からじんわりと熱が広がって、彼女を冷たさから解放してくれたら良いのに

それを繰り返したある日、蒼は目を覚ました。

おばさんと駆け寄って、彼女に触れる

「 さ、…さき 」

掠れた声で俺の名を呼ぶ

ずっと待っていた。

君を、待って

「 も、うここには来ないで。 」

ガツンと頭を殴られた気がした


 冬に佇む (2/7)



こひっと喉が鳴いた。

おばさんは濡れた瞳を見開いて、揺らしている。

「 もう、こないで、」

「 な、んで。 」

思考が回らない、蒼がここに居るのに

「 会いたくない、から。 」

触れられない?

「 なんで!!」

ずっとそばにいたい

せめて、君が終わるときまで。

声を荒げると彼女の瞳が揺れた

「 会いたくない…出て行って 」

こちらをチラリとも見ずに彼女は言う。

「 嫌だ、嫌だよ、あお 」

手に触れると、あおが、声を荒げた

「 も…っ、触らないで…!出て行ってよ! 」

そう掠れた声で言われては、僕ももう何も言えなかった。

よろよろと病室から出た。

胸が、こんなに痛いのは初めてだった。


 冬に佇む (3/7)



怒ることは、エネルギーを使う。

蒼の身体は今急激に老いていて。

怒っただけで、壊れかけてしまう。

だから僕は、病室の前で佇むことしかできなかった。

どんなに突き放されても、彼女のそばに居たかったけれど

僕がそばにいると壊れてしまうなんて

心臓が痛い。

蒼に触れたい、蒼にキスをしたい

一瞬でも、蒼がいれば

息をして、笑う蒼がいれば

僕は他になにもいらないのに。





 冬に佇む (4/7)




「 突き放して、いいの? 」

お母さんが遠慮がちに言った。

管に繋がれた腕を見て笑った

「 いい、こんな姿見られたくないから。 」

首筋を触る、彼が好きだった髪はもう無い

すべて抜け落ちて消えた

彼が握ってくれて居た手も、

皺が増えてきた。

どうして、私は欠陥だらけなのだろう。だけど私は幸福に違いなかった

ご飯を食べて、息を吸う。

こんな当たり前の事をして、喜ぶ人が、家族以外にいる。

私は幸福だ。身体の欠陥を差し引いてもお釣りがくるくらいには。

だから、サキには、見せたくなかった。

私がボロボロになって、冷たくなって終わる瞬間を見たら。きっとサキは壊れてしまう。

そんなのは嫌だった。

もう私を忘れて、幸せを見つけて

私はサキに、咲夜に何もできない

与えるものが。なにも、ない

美しい所だけ、見られて

死にたい






 冬に佇む (5/7)




今日も僕は白い部屋の前で佇む

蒼に触れたい。僕は蒼がどんな風になっても 隣で息をして、笑っていればそれで良いのに。

いつの間にか来たおじさんが俺の肩を叩く。

ちょっと話そうか。

そう言って僕に缶の紅茶を渡す。

触れて見ると、熱い

病院の庭にでて、ベンチに座る

紅茶を一口飲んで、ほ と息を吐いた。

蒼は

おじさんが口を開いた。

「 蒼はもう、」

そこまで言って口を閉じて、唇を噛んだ。

「 …どうして僕に会ってくれないんでしょう」

僕は一秒でも長く、彼女と居たいのに

「 蒼は、優しいから。 お前に見せたくないんだよ。 そういう姿を。

みたらサキは壊れちゃうから。ってさ。 会えないだけで、サキヤは壊れかけてるから逆効果なんだけどな。」

おじさんは立ち上がると、空になった缶をゴミ箱に捨てる。

「 …明日自宅に戻るんだ 」

治療を、やめる。

おじさんは儚げに笑う。

「 蒼の好きな事をさせてやるんだ。」

サキヤも来てくれ。

滲む視界。僕は彼女に何ができるんだろう



 冬に佇む (6/7)





「 おじさん、僕、蒼と、しました。」

思ったより声が震えた。

俯いた視界におじさんは居ない。

返事は無い。

「 あの、行為を強いたから…! 」

「 やめろ! 」

おじさんの声が言葉を遮る

そして僕の胸倉をつかんだ。

「 後悔しているのか!なら俺はお前を許さない! 」

おじさんが泣いている、僕も泣いている

落ちた雫がおじさんの手を濡らして行く

奥歯を噛み締めておじさんを振り払った。

倒れこんだおじさんの胸倉を掴み返す。

「 後悔なんてしてない…!してないから苦しいんだろ!! 」

また、彼女を抱きたいと思うから、こんなに

「 病室まで聞こえちゃうよ。 」

声がしてそちらを見る。

絵里、おじさんが呟いた。

「 蒼は咲夜くんが好きよ。それは変わらない事実。

貴方がフラフラしていてどうするの

おばさんはそう言うと笑った。

「 僕、僕は 蒼のそばにいても…? 」

「 いてあげて。早く行って。」

蒼が壊れてしまう前に。

おばさんの言葉を最後まで聞かず

僕は白い部屋へ走った。

蒼、蒼

こんなにも、君に溺れていて ごめん




 冬に佇む (7/7)




病室の扉を開けると、目を見開いた蒼が、こちらを捉えた

「 さ、サキ…? 」

途端にシーツの中に隠れる

白い布は小刻みに震えている

「 蒼、蒼 」

僕は彼女の名前しか呼ぶことができず

震えたシーツごと、彼女を抱きしめた。

「 わたしに、は もうサキの好きな髪も、なにもない…! 」

だからやめて

蒼の声が震えている

僕は髪が好きなわけじゃない

蒼が好きだから触れていたのに

「 僕は蒼が蒼でいればそれで良い。」

蒼が、僕の名前を呼んで、それで笑うなら

止まった震えに気づいて、シーツを捲る

真っ赤な目をした蒼が此方をみている

「 わたしもうすぐ、蒼じゃなくなる 」

それでもいいの?

僕は彼女の口を塞いだ

蒼は少し驚いて、でもすぐに僕を受け入れる

繋がった唇から溶けて僕ら一つになってしまえばいいのに

















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