秋に繋ぐ
秋に繋ぐ (1/4)
遠い時間の、先まで
窓の外の木は黄色や橙色に変わった。
蒼は変わらず白い部屋に囲われていた。
そして、あの夏の日から元気がない。
体調も良くはなかったが、精神面は最悪だった。
僕は蒼が眠るベッドサイドに座って、彼女の手を握った。
冷たい。 その手にキスを落とすと、蒼の瞼が上がった。
あのね、と掠れた声が響く
「 わたし、アンナのこととても好きだったの 」
でも、でもね。悲しいのに、寂しいのに。
「 私じゃ無くて、良かったとも思うの…っ 」
蒼の目からなみだがこぼれる
拭っても、溢れ出て止まらない
「 まだ、まだ!サキと居られる…! 」
ずっと一緒に、居たいよ
ずっとそばに、居たいよ
「 死にたくない…! 」
悲痛な声を飲むように、僕は彼女の唇を塞いだ
秋に繋ぐ (2/4)
その日僕らは一つになった。
彼女の中はとても暖かかった。
穴蔵に潜り込む熊みたいな僕を
棒切れのような彼女は泣きながら受け入れた。
死なないで、とは言えなかった
死なないよ、とも言えなかった
愛してる、とも言えなかった
ただ名前を呼びながら動物みたいに
ただ泣きながら、蒼を濡らして。
君の身体に良くはない行為を強いて
僕はこんなにも満たされてしまっている。
どうしたらいい、僕は
どうしたらいい、蒼は
神様が居るなら
僕はそいつを殺してやりたい
秋に繋ぐ (3/4)
青が流れた。
クッションに倒れて、バーを睨む。
落ちない。
記録は2m07 自己新だ。
高校最後の大会結果は2位であったが、蒼は喜んでくれるだろう。
ベンチ席を見ると蒼がキラキラした瞳でこちらを見ている。
賞状を受け取り走って蒼の元へ向かう
それを見せると蒼は手放しで喜んだ。
あの一瞬の青と、この笑顔が見たくて
僕は跳んでいる。
蒼が一つくしゃみをした。
ジャージ脱いで着せと、ありがとうと笑った。
帰ろう、と蒼の手をつかむ。
その手はゾッとする程冷たくて、泣きそうになった。
秋に繋ぐ (4/4)
頭が痛いの
蒼はそう言って白い部屋から出て来れなくなった。
眠る蒼の白みが掛かった髪にキスを落とす。
病がじわじわと蒼を飲み込んで行く。
だんだんと、蒼が眠る時間が長くなって行く。
学校が終わると走って病院に向かう。
今日は起きて居るだろうか。
ここ数日、彼女の声を聞いて居ない。
こわくて、さみしくて 壊れてしまいそうだった。
白い部屋の彼女は今日も眠っていた。
いつものようにベッドサイドに腰掛け、彼女の髪を撫でる。
以前より白みが増している。
泣きそうになって、奥歯を噛み締めた。
ぎゅう、と冷たい手を握ると
ピクリとうごく
「 あ、お? 」
薄く目を開いた蒼は必死に言葉を紡いで、また眠った。
僕も大好きだよ。
蒼、まだ眠らないで
ここにいて
遠い時間の、その先まで