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一瞬の蒼  作者: 藤原ミク
3/5

秋に繋ぐ



 秋に繋ぐ (1/4)



遠い時間の、先まで






窓の外の木は黄色や橙色に変わった。

蒼は変わらず白い部屋に囲われていた。

そして、あの夏の日から元気がない。

体調も良くはなかったが、精神面は最悪だった。

僕は蒼が眠るベッドサイドに座って、彼女の手を握った。

冷たい。 その手にキスを落とすと、蒼の瞼が上がった。

あのね、と掠れた声が響く

「 わたし、アンナのこととても好きだったの 」

でも、でもね。悲しいのに、寂しいのに。

「 私じゃ無くて、良かったとも思うの…っ 」

蒼の目からなみだがこぼれる

拭っても、溢れ出て止まらない

「 まだ、まだ!サキと居られる…! 」

ずっと一緒に、居たいよ

ずっとそばに、居たいよ

「 死にたくない…! 」

悲痛な声を飲むように、僕は彼女の唇を塞いだ



 秋に繋ぐ (2/4)



その日僕らは一つになった。

彼女の中はとても暖かかった。

穴蔵に潜り込む熊みたいな僕を

棒切れのような彼女は泣きながら受け入れた。

死なないで、とは言えなかった

死なないよ、とも言えなかった

愛してる、とも言えなかった

ただ名前を呼びながら動物みたいに

ただ泣きながら、蒼を濡らして。

君の身体に良くはない行為を強いて

僕はこんなにも満たされてしまっている。


どうしたらいい、僕は

どうしたらいい、蒼は

神様が居るなら

僕はそいつを殺してやりたい





 秋に繋ぐ (3/4)




青が流れた。


クッションに倒れて、バーを睨む。

落ちない。

記録は2m07 自己新だ。

高校最後の大会結果は2位であったが、蒼は喜んでくれるだろう。

ベンチ席を見ると蒼がキラキラした瞳でこちらを見ている。

賞状を受け取り走って蒼の元へ向かう

それを見せると蒼は手放しで喜んだ。

あの一瞬の青と、この笑顔が見たくて

僕は跳んでいる。


蒼が一つくしゃみをした。

ジャージ脱いで着せと、ありがとうと笑った。

帰ろう、と蒼の手をつかむ。

その手はゾッとする程冷たくて、泣きそうになった。




 秋に繋ぐ (4/4)




頭が痛いの

蒼はそう言って白い部屋から出て来れなくなった。

眠る蒼の白みが掛かった髪にキスを落とす。

病がじわじわと蒼を飲み込んで行く。

だんだんと、蒼が眠る時間が長くなって行く。

学校が終わると走って病院に向かう。

今日は起きて居るだろうか。

ここ数日、彼女の声を聞いて居ない。

こわくて、さみしくて 壊れてしまいそうだった。

白い部屋の彼女は今日も眠っていた。

いつものようにベッドサイドに腰掛け、彼女の髪を撫でる。

以前より白みが増している。

泣きそうになって、奥歯を噛み締めた。

ぎゅう、と冷たい手を握ると

ピクリとうごく

「 あ、お? 」

薄く目を開いた蒼は必死に言葉を紡いで、また眠った。

僕も大好きだよ。

蒼、まだ眠らないで

ここにいて

遠い時間の、その先まで







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