夏に弔う
夏に弔う (1/5)
耳を澄ませば、聞こえるよ
窓の外を埋め尽くしていた桃色は、いつしか緑に変わっていた。
そよぐ風は生暖かい。
太陽がジリジリと打ち付ける
ーーー夏が来た。
蒼が産まれた夏がきた。
また蒼が、街に帰ってくる。
白い部屋に囲われた蒼の元へ向かうと、蒼は笑って出迎えてくれた。
お見舞いに買った、砂糖を含まないケーキを渡すと嬉しそうに食べる。
「 幸せー 」
蒼はそう言って笑った。
僕は蒼の横でそれを見つめる
うん、僕も とても幸せだ。
ポン、と蒼のノートPCが鳴った。
蒼は慣れた手付きで立ち上げると、画面にパッと、映像が広がる。
「 Hello! Anna, 」
蒼がPCの横にあったマイクにそう言うと、スピーカーを通して声が返ってくる。
「 Hello, !How are you feeling?」
PCの画面に映った子がそう言うと
蒼は綺麗な英語で返す
「 Peak form! How about Anna? 」
その会話を必死に理解しようと耳に神経を巡らす。
夏に弔う (2/5)
えーと、こんにちはアンナ。
そして、画面に映る子が調子はどう?と聞いたのかな。
蒼はそれに絶好調、だと返したのかな。
僕が難しい顔をしていると蒼が笑った。
画面に映った彼女、アンナは蒼と同じ病気を持った子らしい。
今はアメリカにいて、治療を受けている、と。
「 Hey! Is he your boyfriend?!」
スピーカーから声がする。
ああもうダメだ。聞き取れない
蒼それを聞いて頬を染めた。
「 No! A friend! 」
あ、今のはわかった。僕を友達と言ったんだ。
僕は少しムッとして、蒼の頬を抓る
「 僕はただの友人? 」
蒼は一層顔を赤くして言った。
「 …He is a favorite lover. 」
すると、画面越しの彼女は楽しそうに笑った
夏に弔う (3/5)
蒼の誕生日がやって来た。
蒼の家にお邪魔すると、また豪華な料理が出てきた。
おじさんも早くに帰って来て、蒼に綺麗な包みを渡している。
「 ありがとうっ!お父さん! 」
おじさんは眩しそうに目を細めて蒼を撫でた。
目があって、お邪魔しています。と声をかけた。
「 サキヤ、お前背伸びたなー 」
そう言って俺の頭をグリグリと撫でる。
蒼がサキはもーすぐ180センチだよー!とおじさんに言った。
おじさんはびっくりしたようで、顎に手を当てた。
「 俺抜かされちゃうなぁ…やだなあ…」
蒼はしょんぼりしているおじさんの肩を叩いて、慰める
その時、おばさんがご飯にしましょうと声をかけた
夏に弔う (4/5)
夕飯をご馳走になってしばらくのんびりした後、帰ろうと立ち上がると腰に蒼が纏わり付いた。
ひっつき虫でもなったように帰ったらダメだと言う。
それをみたおじさんやおばさんは泊まって行って!と言う。
誕生日くらい家族と過ごしたら良いのに。と言うと
サキも家族!と返される。
聞いていたおじさんがそうだな、もう家族だなー。と呟いた。
それを聞いた蒼は嬉しそうに僕に擦り寄ってくる。
黒い髪に、指を絡ませると、キラリと光った。
白い 白髪がある。
後ろ髪を見つめたままの僕に蒼は疑問の目を向けた。
僕の手に絡まった白い髪を見たおじさんは悲しそうに目を細める
なんでもない。と言うと
本当になんでもない風に、蒼の頭を撫でた。
夏に弔う (5/5)
次の朝、蒼の泣く声で目が覚めた。
がばりと飛び起きて抱き寄せるが、蒼の嗚咽は止まらない。
なんだ、何があった?
僕は胸に蒼を閉じ込めながらグラグラと辺りを見渡す。
目についたのは蒼のノートPC。
画面には英文の羅列があった。
必死に読み解こうとするが、ちっとも理解できない。
蒼の頭を撫でているとだんだんと嗚咽がおさまる。
それを見計らって、どうしたの と聞くと。蒼はまたぶわりと涙を流す。
「 あん、な アンナが、 」
-----死んじゃった。
震える声で必死に紡ぐ
僕は画面越しに見た彼女の姿を思い出して、奥歯を噛み締めた。
蒼が泣き腫らした目でリビングに向かうと、おじさん達に海に行きたいと言った。
アンナの話を聞いたおじさんはすぐに車に僕らを乗せて走らせた。
途中の花屋で真っ白な花を買った。
着いた海には、真夏だと言うのに誰も居ない。
蒼は泣きながら、海に一輪づつ、白い花を流して行く。
「 アンナに、届きますように 」
波に揉まれた白い花が、あの子の元へ届くようにと、目を瞑った
きっと耳を澄ませば、彼女の声がまだ