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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
序章 The end of peaceful world
7/99

7話 千尋

 二人は家に上がると、部屋の中を見回す。

 仮設住宅のため、部屋は一つだけでトイレやお風呂などは無く、最低限、雨風をしのげて寝ることが出来るくらいの物だった。

 アルミ製の仮設住宅は外見と同様に中の壁もアルミが剥き出しになっていた。ベニヤ板などを用いる木製の物を作る場合もあるのだが、今回は避難民の数が多く、組み立て式の仮設住宅が設置されている。

 しかし、金属が剥き出しになった壁は冷たさを感じさせ、事実、冬で寒さに包まれているために精神的に辛く感じる。

 部屋にはベッドがあるが、これも暖房の無いこの状況下では気休め程度にしか寒さをしのげないだろう。

 クロエはあまりの寒さに身を震わせる。

「お、お前たちは寒くないのか?」

 クロエが問いながら視線を向けると、二人は一つのベッドに身を寄せ合っていた。

「こ、こら一花ったら。そんなにくっついて……」

「だって、こうした方が暖かいんだもん」

「……もう、仕方ないなあ」

 そう言いつつも七海は嫌な顔をせず、一花を受け入れる。二人の友情の深さが伺えた。

 この状況を考えると、やはり子どもたちでいた方が良いという親たちの考えは正しく感じた。暖かみの無い部屋だが、二人の心にダメージは無さそうだ。

「……寒い」

 だが、クロエにはそうする相手もいないため、空いた布団に潜り込んだ。

 クロエが布団にくるまって震えていると、玄関のドアがノックされた。続いて、少女の声がする。

「一花さんと七海さん、いますか?」

「はーい」

 七海が返事をして玄関に向かう。ドアを開けると、そこには千尋がいた。

 千尋との再会に七海は喜び、一花を呼ぶ。呼ばれた一花は掛け布団を剥ぐと、千尋がいることに気付いて駆け寄る。

「よかった、千尋が無事で!」

「本当、心配したんだよ?」

「一花さん、七海さん。私……」

 再会に明るいムードの二人だったが、千尋は違った。表情は暗く、いつもの明るさはそこにはなかった。

 気付けば、千尋の体はひどく震えていた。その原因が寒さではないことは一花にも分かった。

 千尋の頬を大粒の滴が伝う。空はどんよりと暗く、曇ってはいるが、雨は降っていないようだった。

 千尋は顔をくしゃくしゃに歪め、溢れる感情に耐えられず、二人の優しく暖かい視線に耐えられず、両手で顔を覆い、俯いて泣き出した。

「わ、私はッ! あの時、一人で逃げ出してしまいましたッ! なのに、なのにどうして――」

 千尋は泣きわめきながらも言葉を紡ぐ。

「――どうして、二人は私に優しくしてくれるのですかッ!」

 両手をどかして顔を上げた千尋の目は真っ赤だった。どれだけ泣き腫らしたのだろう、千尋の顔はひどく、艶やかなロングヘアはボサボサになっていた。

 昨日、自分一人で逃げてしまったことに罪悪感を感じ、二人と離ればなれになってしまった後からはずっと泣きっぱなしだった。

 メールで二人の無事を知ったときは心から安心したが、同時に、自分は二人を裏切ってしまったのではないかと心配になり、ずっと自分を責め続けていた。

 二人より先に仮設住宅に着き、先二人よりに安全な状況を手に入れる。二人より、二人より。何をするにもその言葉が浮かび、千尋を責め続けた。

――私は裏切り者だ。

 そんな言葉が浮かんだ途端、千尋は怖くなった。二人との絆が切れてしまうのではないかと。

――もう、二人と合わせる顔がありません。

 辛い現実から逃避するように、千尋はベッドの中に潜り込んだ。髪が乱れるのも気にせず、目が腫れることも気にせず、千尋はベッドの中で泣き続けた。

 二人が仮設住宅に着いたと聞いても、すぐには体が動かなかった。しかし、そのまま逃げ続けてはいけないと決心し、千尋は勇気を振り絞ってここまでやってきた。

 その様子が、目の前の千尋から伝わってきていた。一花と七海は顔を合わせると、頷く。

「友達だもん」

「え?」

「そう。友達だからね」

 友達。たったそれだけではあるが、それ以上の理由は必要なかった。その言葉から二人の気持ちが伝わり、千尋は先ほどまでとは違う涙を流す。

「うぅ……うわあああああん!」

 千尋は嬉しさと安心感から、二人に抱きついた。二人は一瞬だけ驚いた表情を見せるも、すぐに笑顔になり、千尋を抱きしめた。

「うわあああああん!」

「ち、千尋。そんなに抱きしめられたら痛いよ」

「うわあああああん!」

 感情を抑えられなくなった千尋は、三十分ほど泣き続けた。

 ようやく落ち着くと、千尋は涙を拭い、髪を手櫛で整える。

「それじゃあ、私はそろそろ行きますね」

「え? 千尋はここに残らないの?」

「はい。私の両親は心配性なので、一緒にいようと思います」

「そっか。じゃあ、仕方ないね」

 七海は残念そうに肩を落とす。

「あの、もしよかったら、たまにこちらに来ても良いですか?」

「もちろん、大歓迎だよ!」

 両手を広げ、満面の笑みで一花が言う。その様子が面白いのか、千尋はくすりと笑った。

「じゃあ、私は行きますね」

「うん、またね」

「またねー!」

 嬉しそうな顔で千尋は外へ出て行った。いつの間にか、曇っていた空は晴れていた。


序章終了。

次回から一章となります。

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