57話 成果
残りの六日間も初日と同様に戦闘訓練を行った。
相変わらず有希の成果は乏しかった。初日と比べるとかなり良くなってはいるが、量産型機装を装備した部隊長格よりも実力は下である。
有希の戦闘における才能は七海よりも下回っていると高城は思った。それでも高城の的確な助言と、本人が諦めずに努力をしたおかげで、少しずつだが能力を伸ばしていっている。
対して、唯の方は動きの切れが格段に良くなった。特に初日と二日目との差が大きく、高城はそれに感心していた。
厳しい訓練のおかげで唯自体の練度も高くなったが、唯の万能機装の性能も向上されている。唯は舞姫に機装の強化を止められていたが、やはり強化してほしいと東條に頼み込んだのだ。
唯の万能機装の性能は大幅に向上されている。流石に一花や舞姫に比べるとまだ劣るが、現時点でオリジナルの機装に期待されていた戦闘力のボーダーを満たしていた。
訓練は最終日を迎え、ようやくその過酷な訓練の日々も終わりを迎える。最後に残った蟷螂型を切り裂くと、唯はふうっと息を吐いた。
高城はその様子を見て満足げに頷く。
「二人ともよく頑張ったな。これで訓練は終わりだ。明後日からは二人にもイーターと戦ってもらうことになるだろうから、明日はゆっくりと疲れを癒してくれ」
「はーい」
「ああ」
訓練を終えた二人は寮へ向かう。
時刻は午後六時。一日中体を動かしていたこともあって空腹だった二人は食堂へ向かう。
「ってなんで付いてくんだよ!」
「えっ、ダメ?」
「当たり前だろ! あたしは一人でゆっくりしたいんだよ」
「そんな、寂しいよ」
「だーかーら、あたしは一人で平気だって言ってんだろ?」
「しゅん……」
「しゅん……じゃねーよ! ったく鬱陶しい!」
そう言って唯は料理を受け取るなり有希を待たずにテーブルの方へ向かった。
流石に初日のようなヘマはせず、料理もオムライスである。どうやら食券の販売機のエラーで激辛鍋が偶に現れるらしく、食券の方向から稀に悲鳴が聞こえてくる。唯はそれをしっかり警戒しているため、もう引っかかることはない。
「んむ、んぐんぐ」
オムライスをスプーンで掬って口に運ぶ。ふわふわした卵とチキンライスの美味しさに、唯は思わず頬を緩める。
「なかなか美味いじゃねーか」
「美味しそう! 一口ちょうだい?」
「ったく、仕方ねーな……ってやらねーよ!」
「ええっ!?」
「ええっ!? じゃねー! なんでここにいるんだよ!」
「だって、みんなで食べた方が美味しいよ?」
「あたしは一人で食うのがいいんだよ」
「しゅん……」
「あーもう、うざってー!」
唯が吼えるも、有希には全く効果がなかった。結局有希は場所を移動することもなく、唯の隣で夕食を食べ始めた。
「有希さん、唯さん。こんばんは」
「やっほー!」
「あ、沙耶ちゃんと遥ちゃん」
沙耶がトレイにサラダやご飯を乗せてやってきた。その後ろには遥もいる。
「お二人で食べるなんて、仲が良いんですね」
「そうでしょ?」
「ちげーよ! こいつが勝手にくっついてきてるんだ! 有希も頷くな!」
唯が忙しくツッコミを入れる。
「ならさ、沙耶っちと私も負けてないよー!」
「わわっ!?」
遥が沙耶に抱きついて頬ずりする。
「ふへへ、沙耶っちは相変わらずいい匂いじゃのう……」
「やめてください」
「あいたっ!?」
沙耶にチョップされ、遥は渋々といった様子で離れた。
二人はそのまま有希たちと同じテーブルに付く。唯はそれを見て、これでは一人になるのは無理そうだと思った。
唯は急いでオムライスをかき込むと、お茶を飲んで流し込む。
「ごちそうさま!」
手を合わせてそう言った後、唯は足早に去っていく。
「あ、待ってよ唯ちゃん!」
有希は激辛鍋を一気に飲み干すと、唯の後を追う。ちなみに、有希は寮での生活が始まってから今日まで、夕食は全て激辛鍋である。
慌ただしく食堂を去っていった二人を見送り、沙耶と遥は苦笑いした。
三章終了。
次回から四章に入ります。




