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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
三章 The world where hope was lost

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55話 才能

 翌朝。集合時間が七時のため早めに起床した二人は、支度を終えると寮を後にする。

「んー、いい朝だね」

「眠い……」

 すっきりとした表情で歩く有希に対して、唯の顔色は優れない。寝るのが遅くなってしまったせいで、睡眠時間を十分に確保できなかったからだ。

 だというのに、有希は元気そうである。唯は恨めしそうな顔で有希を見つめる。

「訓練楽しみだね」

「っ、こいつ……」

 唯はまだ朝早いというのに、早くも疲れ切っていた。

 エレベーターに乗って上層に上がると、戦闘訓練場へ向かう。待合室に入ると、既に高城が待機していた。

「おっはよーございます!」

「ああ、おはよう。思ったより早いな」

 有希が元気良く挨拶をすると、高城が感心したように頷く。高城は有希から唯に視線を移すと、急にニヤニヤと笑みを浮かべる。

「唯はあまり眠れなかったか? やはり訓練が楽しみなのか」

「ちげーよ! これはあたしのせいじゃねー!」

「そうかそうか」

 俺は分かっていると言いたげに高城がニヤニヤしながら頷く。唯は自分の周りにはまともな人間がいないと嘆いた。

「さて……」

 高城が仕切り直す。その表情が真剣なものになり、二人も姿勢を正した。

「今日から訓練をするわけだが、オリジナルの機装ギアを持つ二人は舞姫と同様に部下を持たない。故に、陣形訓練は少し触れる程度だ」

「そうなんですか?」

「ああ。それと、敬語じゃなくて良いからな。話しやすいようにしてくれ」

「うん、わかったよ」

 有希が高城の言葉に頷く。

「もちろん、機装部隊ギアフォースの他の部隊と組むこともあれば、合同で訓練をすることもあるだろう。だが、それはそうあることではないからな。だから、この一週間は戦闘訓練に時間を費やすことになった」

「なるほど」

「幸いと言うべきかは分からんが、第一部隊と第四部隊は出撃中、第二部隊は任務の帰還直後で休暇を取っている。第三部隊の訓練時間は一時的に夜にしたから、訓練時間は十分に取れるだろう。だから――」

 高城はニヤリと笑みを浮かべる。

「俺が一人前の機装少女にしてやる。遅れないように全力でついて来い!」

「いえっさー!」

「なんだよこのノリは……」

 高城と有希のテンションの高さに、眠気も相まって既について行けていなかった。これから始まる一週間に、唯は早くも不安を抱いた。

「さて、戦闘訓練の内容に入るか。といっても単純なんだが、ひたすら戦い続けるだけだ。その様子を見て、俺が二人に助言を与える」

「随分と単調じゃねーか」

「ああ、そうだろうな。だが、だからこそ、戦闘経験を重ねるためにこの訓練は重要だ。機装の扱いにも慣れないと、戦場に送り出すことは出来ない」

 高城は続ける。

「試行錯誤して己の欠点を克服する。それならば、ひたすら戦い続けるのが最も効率的だろう」

「なるほどな。わかった」

 唯は高城の説明に納得した。

「さて、そろそろ始めるか」

「りょーかい!」

「ああ」

 三人は戦闘訓練室に入る。すると、無機質な声が聞こえてきた。

『形式を選択してください』

「訓練プログラムを実行してくれ」

『訓練プログラム、了解しました。レベルの設定をしてください』

「訓練レベル1で頼む」

『レベル1、了解しました。フィールドを設定してください』

「フィールドは市街地だ」

『了解しました。訓練プログラムレベル1、フィールド、市街地。選択はこれでよろしいですか』

「ああ」

『了解しました。それでは、準備に入ります。機装を装着してください』

「変身方法は分かるな?」

「大丈夫だよ」

「ああ」

 有希と唯は手首に付けた機装を高く掲げる。高城はその姿を見てふと、一花のことを思い出した。

 現在では胸の前に構えたり前に突き出したりする変身の構えはあるのだが、高々と掲げるのは一花たちが戦っていたとき以来見ていなかった。

(俺にこれだけ夢を見させたんだ。そのまま夢で終わらないよう、頼んだぞ)

 高城は二人を見守る。

 高々と機装を掲げ、声を張り上げる。

神速機装アクセルギア――装着インストレーション!」

万能機装クロウギア――装着インストレーション!」

 新たな機装少女二人の訓練が始まる。

 漆黒の走行に深緑の光を走らせ、唯は己の機装を見る。

「この輪っか、どうにかなんねーかな」

「なら、後で東條の所に行くといい。彼女なら、装甲のデザイン変更くらいはすぐ終わるだろう。今日は我慢してくれ」

「はあ、分かった……」

 変身で上がったテンションも輪っかのせいで台無しだった。

「先ずは俺が手本を見せる。そしたら、二人も実際に戦ってみてくれ」

「うん、わかったよ」

「いくぞ、訓練開始!」

 高城が背中に背負っていた銃を手に取って構えた。その銃はかつて高城が使っていたヒュドラ参型ではなく、スコーピオン試作型である。

 ヒュドラ参型もかなりの大きさではあったが、スコーピオン試作型はそれよりも一回りは大きかった。銃口付近には斧のような形のブレードが付いており、銃剣機装の銃剣よりも厳つい見た目となっていた。

 スコーピオン試作型は名前の通り開発途中のもので、機装の扱えない男性用の武器として開発されている。その火力は銃剣機装マルチ・イミテートに匹敵すると言われているが、機装ではないため個人の想像力に威力が左右されない。それは利点でもあるが欠点でもあった。

 とはいえ、ヒュドラ参型と比べると性能は大幅に上昇している。身体能力の強化も量産型機装イミテートには及ばずとも、それに近いものにまで高まっている。

 高城の前方に一体の犬型が現れる。有希と唯はそれを見て少し怖く感じた。光沢のない金属のような何かで形成された形はまるで生命を感じさせず、害の無いものとはいえ、恐ろしく見えた。

「はっ!」

 高城が力強く踏み込むと、一気に間合いを詰める。飛びかかってきた犬型をサイドステップで躱し、振り向きざまにブレードで叩き切る。

「こんな感じだ。相手が化け物とはいえ、攻撃が通じないわけじゃない。だから、必要以上に恐れたらだめだ」

 高城は二人の心の中を読んだかのようにそう言った。驚く有希たちを気にせず、話を進める。

「先ずは唯、お前がやってみろ」

「ああ、殺ってやる」

 高城の言葉で恐怖が和らいだらしく、唯は両手に装着した爪に深緑の光を走らせる。

 唯の万能機装クロウギアはオリジナルの中でも最後に作られた機装である。神速機装アクセルギアの敏捷性、破壊機装ブレイクギアの攻撃性、殲滅機装バーストギアの遠距離攻撃の三点を組み合わせたハイブリッドである。

 もちろん、万能機装が全てにおいて優れているわけではない。それぞれの能力は一点特化したそれぞれの機装には及ばない。しかし、万能の名を冠するだけはあって、あらゆる戦況に対応できるバランスの良い機装である。

 前方に犬型が現れると、唯は一瞬の迷いもなく駆け出した。だが、高城のように飛びかかってきた犬型を躱そうとする。だが、思ったよりも犬型の動きが速くかった。

「チッ――らぁ!」

 唯は避けられないことに気が付くと、右手の爪を前に突き出した。躱そうとしていたために体制に無理があったが、運良く犬型を捉えることに成功し、そのまま切り裂いた。

「ど、どうだ!」

 犬型を倒した唯は興奮気味に高城に尋ねる。だが、唯の予想に反して、高城の表情は厳しいものだった。

「初めてにしては悪くないが……今のを繰り返すようだと確実に死ぬだろう」

「なっ……」

 高城の言葉に唯が絶句する。高城の言う通りだった。戦場であんなギリギリの動きをしていたらすぐに死んでしまう。

 それに気付いた唯は特に反論もせず、次の高城の言葉を待つ。

「俺の戦い方を再現するのは良い。動きも悪くはなかったからな。だが、今はまだ戦いになれていない。先ず優先すべきことは、イーターの動きをよく見ることだ」

「そう言われてみれば、そうかもしれねーな……」

 唯は高城の言葉を反芻する。

「次は有希だ。やってみろ」

「はい!」

 有希は気を引き締める。訓練とはいえ、機装を動かすことには変わりない。高揚する気分を抑えつつ、有希は槍を持つ手にキュッと力を込めた。

 犬型が現れると、有希が穂先を犬型に突きつけるように構えた。攻撃的なその構えは七海の授業で見た一花の構えを再現したものだった。一花の姿を彷彿させるその構えと覚悟を持つ者にしか出来ないその表情は、高城の期待を高めていく。

 有希は犬型を見据える。トクントクンと自身の心音が聞こえるくらい緊張していたが、有希は極めて冷静に槍を構える。体を脱力させて緊張を解すと、有希は大きく息を吸い込んだ。

「――いくよッ!」

 力強く踏み込んだ有希は瞬く間に犬型に肉迫する。高城や唯の動き、昨日見た沙耶の動きを思い出しながら、有希は槍を突き出した。

 だが、犬型は有希の突き出した槍を体制を低くすることで避けた。力を思い切り込めた攻撃を躱された有希は、槍を引き戻すことも出来ず隙を晒してしまう。直後、腹部を強い衝撃が襲う。

「うあっ!?」

 犬型の突進によって吹き飛ばされ、有希は地面を転がる。

 訓練用の特殊な空間であるため、痛みはない。有希は即座に立ち上がると、犬型に向かっていった。

「せりゃあああああッ!」

 今度は横に凪ぐように槍を振るった。しかしその攻撃も、犬型はバックステップをすることで避けた。

 それからしばらく攻撃を続けるも、有希の攻撃は犬型に届かない。それを見つめる高城の表情は険しいかった。

 高城は今の戦いだけで有希の欠点に気付いた。有希はよく考えて戦っている。攻撃も単調にならないように自分なりに工夫しており、頭はよく使っている方だと思えた。

 有希は一花には無い覚悟を持っている。生半可な気持ちで訓練に挑んでいるわけではないということはその表情を見れば分かる。戦いへの覚悟は、十年もの間戦い続けている舞姫の覚悟にすら匹敵しているように思えた。

「だが、これでは……」

 高城は呻くように呟いた。

 一花にあって有希にないもの。それは、戦闘における絶対的な才能だった。

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