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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
三章 The world where hope was lost

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54/99

54話 休息

「ふう、さっぱり」

「はあ……」

 風呂から上がった有希はすっきりとした表情で出てきた。対して、唯の顔には疲労の色が見えた。理由は言うまでもなく、風呂の中で有希にひたすら話しかけられたからである。

 急用が出来たと言って沙耶が去ってしまったため、残されたのは有希と唯の二人だけである。有希が黙って風呂に入るわけもなく、唯はずっと有希の相手をさせられてしまった。

 いつの間に取ってきたのか、隣でコーヒー牛乳を飲む有希にむっとなり、鋭い視線を向ける。

「ん、唯ちゃんもコーヒー牛乳飲む?」

「いらねーよ!」

「そうなの?」

 そう言いつつ唯をちらちらと見ながら有希はコーヒー牛乳を飲む。

「あっ……」

 なんたかんだで夕食をまともに食べられなかった唯は空腹で、コーヒー牛乳に思わず目を奪われてしまう。

「ぷはっ。風呂上がりの一杯はおいしいね!」

「ぐ……」

「次はフルーツオレにしよっと」

「まだ飲むのかよ!」

「唯ちゃんもいる?」

「い、いらねー……」

 目を背けて言うも、チラチラとフルーツオレの瓶を見てしまう。そんな唯の姿に有希がニヤリと笑みを浮かべる。

「よっと!」

「えっ……」

「それー!」

「あっ……」

「ほいさ!」

「くっ……っておい!」

 有希がフルーツオレの瓶を持って上下左右に動かすと、唯がそれに合わせて顔を動かす。少しそれを続けると、我に返った唯が顔を羞恥に染める。

「何させるんだよ!」

「はい」

「えっ?」

 急にフルーツオレを手渡されて唯が固まる。

「これ、あげる」

「……いいのか?」

「うん!」

 そう言われて、唯は何か罠でも仕掛けられているのではと警戒しながら蓋を開ける。だが、特に何かが起こる気配はない。

 唯は恐る恐る一口飲んでみる。

「ん……悪くねーな」

 口の中に果物の甘い香りが広がった。甘さも程良く後味もすっきりしており、風呂上がりの一杯にぴったりだった。

 フルーツオレを飲み干すと、唯はふうっと息を吐いた。横を見れば、有希がニコニコと唯のことを見つめていた。

「な、なんだよ……」

「おいしかった?」

「あ、ああ。悪くはねーな」

 そう答えるが、有希はなおも唯の顔を見つめてくる。ニコニコと笑みを向けてくる有希に、遂に唯が折れた。

「……あ、ありがとな」

「どういたしまして」

 その言葉で満足したらしく、有希は唯から視線を外した。かと思えば、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべて唯の方に向き直る。

「そのフルーツオレはね」

 そこで言葉を切って、有希が唯の方を指差した。何かと思ったが、どうやら自分の後ろを指さしているらしいと気づいた唯が後ろを振り向く。

「なっ!」

 前に向き直った唯の顔はしてやられた、という顔をしていた。唯の後ろには戦闘訓練室で見たものと同じ、ドリンクを無料配布するカウンターがあったのだ。

 フルーツオレは有希に貰わずとも手に入る。やはり罠だったのかと、唯は悔しくなった。

 有希は唯が上手く引っかかったことで気分が良くなり、鼻歌を歌いながら部屋の方に戻っていく。

(ぜ、絶対に何か仕返ししてやる……)

 唯は何か良い手段はないかと考えつつ、部屋に戻る。

 部屋に着くと、既に家具や二人の荷物が運び込まれていた。唯は自分の荷物を確認しようとして、あるものに気付いた。腕に付ける形の端末で、機装部隊ギアフォースの基本装備の一つである。

 手に取ろうとすると、ピピッという電子音が鳴った。画面の部分には『メッセージが届きました』と表示されていた。

「沙耶からか」

 慣れない手つきで端末を操作すると、メッセージが表示される。件名は明日の予定の連絡と書かれていた。

『明日の朝七時に戦闘訓練室に集合です。戦闘訓練をするので、機装ギアを忘れないようお願いします』

「随分と朝早いんだな」

 メッセージを確認すると、唯は溜め息を吐いた。現在時刻は二十一時のため、睡眠時間は十分にとれそうだった。

「おい、有希。明日は早いみてーだから、さっさと寝るぞ」

「えー、もうちょっと起きていたいなあ」

「いいけど、あたしは寝るからな。静かにしてろよ」

「はーい!」

 唯は自分の荷物を適当に纏めると、歯を磨いてからベッドに寝転がった。布団にくるまって目を閉じる。

 機装を扱うには適応率と、想像力が必要だと沙耶から聞いていた。そのため、唯は自分が寝付くまで明日から始まる戦闘訓練のシミュレーションをする。

 だが、しばらくの間シミュレーションを続けても全く眠くならなかった。それどころか、脳が活発になっているような気さえした。

 寝付けない理由は主に二つ。電気が点けっぱなしなのと、有希が自分の機装を眺めて何かぶつぶつと呟いているからである。

 流石にしばらくすれば終わるだろうと思っていたのだが、有希は全く寝る気配を見せない。時間を確認してみれば、既に時刻は二十三時を指していた。

 なおも機装を眺めながら何かを呟いている有希に、唯が我慢できずに飛び起きる。

「あ、唯ちゃんおはよー」

「おはよー、じゃねーよ! 寝れねーだろ!」

「あ、ごめんごめん」

「お前って奴は……」

 唯が諦めたのか、溜め息を吐いてうなだれた。

「もう電気は消すからな。お前も寝ろよ」

「はーい」

 ようやく寝れる、と唯が呟く。消灯すると、ベッドに寝転がって布団に潜り込んだ。唯は有希に背を向けるように寝転がる。

 唯が脳内シミュレーションをしようとすると、ごそごそと布団が動いた。それだけで何が起きているかを理解した唯は後ろを振り返る。

「なんであたしのベッドに入ってくるんだよ!? 自分のベッドがあるだろ!」

「でも、一人で寝るのはさみしいよ」

「あたしは寂しくねーから、さっさと自分のベッドに戻れ!」

「はーい……」

 有希がしゅんとなって自分のベッドに戻っていった。

(ったく、何で一人で寝るのが寂しいんだよ。子どもじゃねーのによ)

 唯は静寂に包まれた部屋の中で、そう思った。

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