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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
三章 The world where hope was lost

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43話 再起

「うあッ!?」

 神速機装アクセルギアを装着すると同時に様々な感情が濁流のように押し寄せてきた。悲しみ、憎しみ、絶望。負の感情が神速機装から伝わってくる。

 有希はあまりの重みに膝を突いてうずくまる。心を直接切りつけられたような、強烈な痛みが走る。

「おい、大丈夫か!?」

 有希の様子に、クロエが駆け寄る。しかし、有希から返事はなかった。

 クロエは慌てて東條に顔を向ける。

「東條! どうなってるんだ!」

「私もこんな現象は見たことがないぞ!」

 東條も困惑しているようだった。クロエは有希の方を見る。

「うぐ……うぁ……」

 有希がどれだけ辛いのか、クロエには想像がつかなかった。苦しそうに歪んだ顔。その目からは滝のように涙が流れていた。

 有希の手首に装着された神速機装は赤黒い光を発していた。

「うあああああッ!?」

 光が強さを増す度に、有希が絶叫する。負の感情の濁流は有希の心を浸食していた。

「うぅ……辛いよ……怖いよ……」

 ぽつり、ぽつり。言葉が出てきた。初めは何が何だか分からなかったが、有希はこの濁流の正体が理解出来た。

――これは、一花さんの感情だ。

 ふと気がつくと、痛みは消えていた。代わりに、心が酷く寒く感じる。

 有希は恐る恐る目を開ける。そこにあったのは深く昏い闇だった。

「ここは、どこなの……?」

 見回しても、何かがあるわけでもない。ただどこまでも闇が広がるだけである。

 その場に留まっても仕方ないと考え有希は立ち上がる。前をまっすぐ見つめると、有希は歩き出した。

 そして、すぐに有希に異変が起こる。

「なに……これ? 怖いよ……」

 一歩、二歩、三歩。歩みを進める毎に、何かが心の中で増えていく。自分が闇の中に溶けていってしまうのではないか。そんな恐怖が有希を襲う。

「やだ、やめてよ……」

 何かおぞましいものが心の中で成長していく。有希の光を押しやるように、闇が強引に浸食しようとしてくる。

 こんなに辛いとは、有希は思いもしなかった。闇が心に入り込む度に、一花の苦しみや悲しみが伝わってくる。

 覚悟はしていた。七海との会話で戦いについて真剣に向き合えるようにしたはずだった。それでも、有希にとって一花の絶望はあまりにも重すぎた。

「負けない。負けないよ……!」

 だが、それでも。有希は決して歩みを止めなかった。止めてはならなかった。立ち止まることは、絶望に屈するのと同義である。

 濁流が押し寄せる。足が重くなり、少しでも決心が揺らげば流されてしまいそうだった。それでも、有希は立ち止まらない。

 そんな有希の思いが、一花の闇を打ち砕く。ガラスが砕けるように闇が消え去ると、有希の体は優しく暖かい光に包まれた。

 そして現れたのは、どこまでも広がる光の空間。そこには、二人の少女がいた。有希と、もう一人。一花である。

「ごめんね」

 先に言葉を発したのは一花だった。その口から出たのは謝罪の言葉だった。

 一花は涙をぼろぼろとこぼしながらも声を上げずに耐えている有希に歩み寄ると、その頭を抱え込むように抱きしめた。そして、頭を撫でる。

「試したかったんだ。あなたが、現実に耐えられるかを」

 優しく抱擁をしながら、一花は申し訳なさそうに言う。そして有希が泣き止むと、一花は微笑んだ。

「でも……あなたなら。有希なら、きっと大丈夫だよね」

「……うん!」

 有希は涙を拭うと力強く頷いた。それを見て、一花が嬉しそうに微笑んだ。

神速機装アクセルギアをよろしくね、有希」

「うん、任せて。私が、みんなを守るから」

 有希の言葉に一花が満足げに頷いた。

 そして、有希の意識が現実に戻る。

「おい、大丈夫か有希! しっかりしろ!」

「わっ! びっくりした」

 意識が戻ると、目の前でクロエが声を上げていたので有希は驚いた。

 急に目を覚ました有希にクロエも驚く。東條も有希のそばに歩み寄る。

「有希、大丈夫か? どこか痛いところは?」

「ないよ」

「本当に無いのか? あんなに苦しんでいただろう?」

「うん。でも、もう平気だよ」

「そうか、有希が大丈夫なら構わんが……」

 東條は納得がいかない様子だったが、取り合えずば有希が無事だから良いだろうということになった。

 ちなみに唯だが、彼女は部屋の隅で壁に寄りかかって退屈そうにしていた。だが有希を心配していないわけではないらしく、ちらちらと有希のことを見ていた。

 少しして落ち着いてくると、クロエは先ほどの現象に首を傾げる。

「にしても、なんだったんだろうな。あんな現象は初めて見たぞ」

「あ、それはね……」

 有希は何があったかを話し始める。特に一花と会話をしたというところではクロエも驚いていた。

「なるほどな。今まで神速機装が動かなかったのは、一花が託せる人を待っていたからだったのか」

 クロエは神速機装を見て納得する。神速機装には赤い光が走っていた。その輝きはクロエの記憶にあるものよりも強かった。

「これなら変身できそうだな。早速だが、やってみてくれ」

「うん、見てて!」

「あ、おい! あたしにも変身させろ!」

「ああ、分かったから落ち着けって」

 唯はクロエから万能機装を受け取ると手首に装着する。本人はクールを装っているつもりなのだが、ニヤニヤと笑みがこぼれていた。

 二人はクロエから変身方法を聞くと、機装を高く掲げた。

神速機装アクセルギア――」

万能機装クロウギア――」

 そして、力強く言い放つ。

「「装着インストレーション!」」

 そしてこの日、二人の少女にオリジナルの機装ギアが託された。

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