16話 拒否
少女は大和撫子、という言葉が似合う容姿だった。腰の辺りまで伸びた艶やかな黒髪と、白く美しい肌。筋力が少ないせいか体は細いが、凛とした表情のために力強さが伝わってくる。カジュアルな服装をしているにも関わらず、その品の良さが伝わってきた。
品の良さで言うならば、千尋も品のある容姿である。ただし、千尋が西洋風な品の良さならば、こちらは和風な品の良さがあった。
二人はその魅力に圧倒されていた。二人の容姿も良い方なのだが、目の前の少女の容姿はもはや芸術の域に達していた。
一花が興味津々、といった様子で少女の前に歩み寄る。そして、自己紹介をする。
「わたしは一花。如月一花だよ。あなたは?」
しかし、少女は口を開かない。その様子を不思議に思いつつ、一花はとりあえず握手を求める。が、その手は振り払われてしまう。その行動に一花と七海、そしてクロエも思わず「えっ?」と声を漏らした。
そんな様子を気にも留めず、少女は無愛想に、そして突き放すように言う。
「私は、貴女達と馴れ合うつもりは無いわ」
少女の言葉に二人とクロエが固まる。棘のある語気で少女は続ける。
「貴女達の力は借りない。私は私のやりたいようにやる」
それだけ言うと、少女は背を向けて歩き出した。クロエが止まるように言うも、聞かずに去っていった。
「行っちゃった……」
一花が呟く。その目は振り払われた手を見つめていた。
「何なの、あれ」
七海は怒り心頭、といった様子だった。そして、クロエに尋ねる。
「クロエ、あの人が適応者なの?」
「あ、ああ、そうだ……」
「なんで、あんな協調性のない人をつれてきたの?」
「な、なんでっていわれてもな……」
七海の剣幕にクロエが目を泳がせながら答える。
「ギアを渡したときは普通だったんだよ。それこそ、落ち着いててしっかりした奴だったし、頭も良さそうだったから……」
七海はそれを聞いて深呼吸をすると、自分の頬をバチンと、先ほど一花にビンタされたときよりも強くビンタした。そして、クロエに頭を下げる。
七海の突然の奇行にクロエが戸惑う。
「ごめん、クロエ。クロエが悪い訳じゃないのに、責めちゃって」
七海は頭を下げたまま言う。
「わ、わかったから顔を上げてくれ。俺も気にしてないからさ」
「うん、ありがと」
そう言うと、七海は頭を上げた。
「とりあえず、連絡はギアを通していつでも取れるから、波の時に合流は出来るだろう。ただ、連携を取りづらいだろうな」
「うーん、そうだね」
一花が腕を組んで唸る。どうやら仲を改善出来ないか考えているようだった。一花と七海は長い間一緒にいたおかげで、言葉を交わさずともある程度の意志疎通は取れる。そのため、戦闘時に互いを意識しながら戦うことが出来るのだ。
しかし、先ほどの少女とそれを出来るかと聞かれれば、言うまでもなく否である。
「せめて、名前だけでも教えてくれたっていいのになぁ……」
一花が残念そうに言う。一花は少女と仲良くなりたいようだった。
「まあ、連携が取れずとも戦力の向上にはなるからな。今はそれだけで十分だろう」
今は、とクロエは言う。この先のことを考えると、連携が取れた方が遙かに生存率が上がるからだ。一花と七海はその点においては問題ないが、先ほどの少女に関しては大問題だった。
「彼女に渡したのはバーストギアだ。複数の銃を扱って戦う分、一対多に向いているギアだ。彼女が小型のイーターを引き受けて、一花と七海で大型のイーターを倒す感じになるだろうな」
バーストギアはアクセルギアやブレイクギアと比べると殲滅力で大きく勝っている。その分威力は劣るが、それでも高城のヒュドラ参型よりは強い。いわば、高城の上位互換のようなギアだった。
だが、それには欠点もある。それは近接戦闘においては完全に無力となってしまう、ということだった。他の適応者のサポートを受けながら戦うのが本来のスタイルであるのだが、少女はそれを拒んでしまっている。近付かれたら最後、待っているのは死だった。
「どうしたものか……」
クロエは心配事がまた一つ増え、ため息を吐いた。




