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機装少女アクセルギア  作者: 黒肯倫理教団
一章 The man experienced in many battles

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12話 合流

 自衛隊の警戒線を越えて町の中に入った一花と七海は、ゲートの方へ向かって走り出す。

 静けさに包まれていただけの町が、今ではピリピリとした空気に包まれていた。

 少し走ると、視界に犬型の姿が映った。二人は顔を合わせて頷く。

「一花!」

「うん!」

 二人は左右に並び、少し距離をとって併走する。クロエの指示に従い、互いにサポート出来る程度の距離だ。

 前方に二体の犬型。二人が近づいてくるのに気付いた犬型は、こちらに向かって走り出した。

「そりゃあ!」

 七海よりも早く、一花が犬型と接近した。飛びかかってくる犬型を槍を回して器用に受け流し、上に跳ね上げる。空中に放り出された無防備な犬型を槍で貫いた。

「はあああああ!」

 遅れて七海が犬型と接近する。体を回転させて遠心力を利用し、飛びかかってきた犬型を力任せに断ち切る。

 犬型を倒して二人が体勢を立て直すと、前方から六体の犬型がこちらに向かって走ってきた。どうやら先ほどの二体が倒されたことでこちらの存在に気付かれたようだった。

 七海が大剣を構えるより早く、一花が飛び出した。一花のアクセルギアは速さを求めた加速に秀でたギアである。その速さは最大で音速を超えるのだが、一花はまだそこまで使いこなせるわけではない。

 しかし、それでもアクセルギアの速さは異常である。七海が剣を構えた頃には、既に犬型を一花の槍が貫こうとしていた。

「たあっ!」

 一花の槍が犬型を貫いた。一花が急接近したことで、犬型の標的は否応なく一花となる。犬型が一花に殺到して密集すると、一花がその場から飛び退いた。同時に、七海が大剣を地面と平行に構える。

「せやあああああ!」

 七海の大剣が青く光を発する。七海のブレイクギアは破壊することに特化したギアである。その一太刀はどれだけのイーターが集まろうと蹴散らすことが出来るが、一花と同じく、七海もまだそこまでは使いこなせない。

 ギアの力を引き出すには適応率だけでなく、もう一つ必要なことがある。それは、敵を倒すイメージだ。しかしそれは、ギアを扱って戦うことに慣れていないと、その強大な力を最大限に引き出すことは出来ない。

 七海の大剣に青い光が走る。七海のイメージが投影され、大剣は犬型を五体まとめて断ち切った。

 近くのイーターは倒しきったと思い、二人が気を緩めそうになると、クロエから通信が入る。

『二人とも上だ!』

「えっ?」

 空から二体の鳥型が急降下する。二人が見上げたときにはすでに目の前まで接近していた。

 一花は慌てつつもしっかりと槍を構え、鳥型を貫いた。しかし、一花と違い七海は攻撃速度が遅いため、大剣を振ろうとするも間に合いそうになかった。

「七海!」

 一花が槍に刺さったままの鳥型を素早く投げつけ、七海の方へ向かった鳥型にぶつける。軌道を逸らされた鳥型はそのまま地面に叩きつけられ、体勢を崩した。その隙に一花がとどめを刺す。

「七海、だいじょうぶ?」

「う、うん、なんとか……」

 一花が助けてくれていなかったら、七海はイーターに殺されていただろう。七海は一花に感謝すると同時に己の非力を嘆いた。

『二人とも、イーターはまだかなりいるから気を付けてくれ』

「うん!」

「クロエ、イーターはあと何体いるの?」

『えーっと、犬型が十二体と鳥型が八体。それと、コイツが厄介なんだが蜘蛛型が一体だ』

「蜘蛛型?」

『ああ。イーターの行動パターンはコピーした生き物の能力に依るからな。蜘蛛型は糸を使ってくるから、捕まらないように気を付けてくれ』

「なるほど、厄介だね……」

 七海は先ほど鳥型に殺されかけたせいもあってか、心配そうな表情を浮かべる。対する一花は体は震わせているが、一花のソレは武者震いの類であった。

『一花は飛びながら戦えるか? 鳥型を倒してほしい』

「まかせて!」

『おう。七海は地上で犬型を倒してくれ。もうすぐ増援が行くから、ソイツと協力して戦ってくれ』

「増援?」

『ああ。戦うことに関してはエキスパートだ。期待してくれ』

「エキスパート! カッコいい!」

 一花が目を輝かせて声を上げる。

『もし二人だけだと辛いようだったら、ソイツが来るまで待機してくれ』

「うん、分かった」

『犬型と鳥型を倒し終えたら、一度集まって体勢を整えてくれ。そのあと、蜘蛛型を倒す』

「「了解!」」

 一花が背中の翼を広げ、一気に飛び出す。七海もゲートに向かって走り出した。

 空には八体の鳥型が一部に集まっていた。数で押そうとしているのだろう。

 一花は槍を構えると、自分から鳥型の群れに飛び込んでいく。一花は翼から赤い光を噴射させて加速する。敵の近くまで接近すると、槍に赤い光を走らせて群をそのまま貫いていく。

 一花の速さに対応できず、鳥型は飛び込んできた一花に攻撃を当てることが出来なかった。一度の攻撃で二体減らし、残りは六体となる。

 まとまっているのは危険だと判断し、鳥型は四散した。複数の方向から飛びかかってくる鳥型を、一花は身を翻して躱す。そして背中を見せた鳥型を槍で突き、その勢いを利用して体を回転させて蹴りを放った。ギアの力で強化された体から放たれる蹴りは鳥型を一撃で仕留めることが出来た。

 一花の強さに鳥型が困惑しているようだった。知性があるのかと疑問に思うが、考えている暇はない。隙だらけの鳥型を各個撃破し、一花は地上に戻る。




 一方、七海は犬型の数に翻弄されていた。一花と違い速度の遅い七海は、武器を振り回しても上手く当てることが出来ず、何度か掠らせる程度だった。

(さっきは一花が気を引いてくれていたから当てられた。けど、今は一人で戦わないといけない……)

 空を少しだけ見上げると、一花が鳥型と交戦していた。一花の方が自分よりもギアの力を上手く使いこなしているように感じ、七海の劣等感を煽る。

 背後から犬型が迫るが、七海は目の前の犬型に意識を奪われている。飛びかかるような動作をしてきたため、そちらに対応しようとして背後にまでは気が回らなかった。

 そして、背後の犬型が間近に迫ったところで七海はようやく気付いた。無論、七海の防御は間に合わない。せめて衝撃に備えようとするが、しかし、その衝撃はいつまで経っても来なかった。

 いつの間にか自分が目を瞑っていたことに気付き、七海は慌てて瞼をあける。同時に、背後から知らない声がかけられた。

「おい、大丈夫か!?」

 七海が振り向くと、そこには高城がいた。背後から飛びかかってきた犬型はやや離れたところに倒れている。

 クロエに頼まれた後、高城はヒュドラ参型を携えて一人でここまで駆けてきたのだ。

「は、はい、大丈夫です! えっと、あなたは……?」

「自己紹介は後だ。まずは目の前のやつをどうにかするぞ」

 そう言って、高城はヒュドラ参型を構える。七海にはその武器の正体が分からない。ギアの無い者では戦えないとクロエから聞いていたために心配になるが、転がっている犬型の死骸を見て、高城の持つ武器がイーターに通用することを悟る。

 対する高城も、七海を見て心配そうな表情を浮かべる。

(適応者が少ないにしても、若いな……)

 高城は七海を見て、そう思った。適応者とはいえ、まだ中学生くらいであろう子どもを戦場に出すのは、心苦しい。上空で戦う一花を見て高城が小学生まで戦っているのかと思ったが、それは高城の勘違いである。

 犬型は高城の乱入によってどちらを狙うか悩んでいるようだったが、結局、七海に五体、高城に六体の犬型が割り振られた。

 犬型が二人に向かって駆け出す。

 高城はヒュドラ参型を前に突き出すように構える。三回の電子音の後、高城が引き金を引くと三発のエネルギー弾が放たれた。電子音は標的をロックオンした音である。

 高速で撃ち出されたエネルギー弾は、寸分の狂いもなく犬型に着弾し、三体とも仕留めた。続く三体も難なく倒し、七海の方を見る。

 七海は五体に減った犬型にも苦戦しているようで、先ほどと変わらず押されている。

 高城はヒュドラ参型を構えて助けに向かおうとし、しかし、思いとどまる。

(このまま助けるだけじゃ、あの子はこの先の戦いを生き抜くことは無理だろう。あの子自身が生き抜く力を得なければ……)

 高城は少しだけ考え、七海に声をかける。

「大剣は振るだけじゃない! 盾としても使え!」

「は、はい!」

 七海が大剣を逆手に持ち、飛びかかってきた犬型を待ち構える。

「そのまま受け止めずに受け流せ! 体勢が崩れたところを攻撃しろ!」

「はい!」

 犬型に対して大剣を平行にせず、斜めに構えて受け流す。上手く大剣を捻り、犬型の体勢が崩れたところを斬りつけて倒す。

 七海が犬型を倒している隙に、二体の犬型が左右から飛びかかってきた。焦る七海に、高城が助言する。

「迎え撃つだけじゃ駄目だ! 自分から飛び込むくらいの勢いで行け! 恐れていては戦えないぞ!」

「はい!」

 七海は右から来た犬型に飛び込んでいく。犬型は先ほどまでの行動から飛び込んでくるとは思っていなかったらしく、困惑した隙をつかれて両断される。少し遅れて左から飛びかかってきた犬型を、七海は振り返りざまに切り捨てる。

 七海はもともと運動神経はかなり良い方だったため、コツさえ掴めば上達は早い。高城の助言を水を吸い込むスポンジの如く吸収していった。

 高城の指示を受けながら、残った二体も危なげなく倒した。

 敵を倒したという安心感から力が抜けてしまい、七海はその場にへたり込んだ。そんな七海を見て、高城は手を差し出した。

「よく頑張ったな。クロエが選んだだけのことはある」

 七海は差し出した高城の手に掴まって立ち上がる。

「あ、ありがとうございます!」

「まだ若いだろうに、大変だろう。これからは俺も手伝うから、安心してくれ」

 高城は七海の頭の上にぽんと手を置き、笑顔で言った。七海は嬉しそうにはにかむ。

 少しして、一花が戻ってきた。

「ただいまー。って、なんか増えてる!?」

「一花、クロエが言ってたでしょ。増援が来るって」

「あっ! そういえばそうだった!」

 そんな二人を見て、高城は微笑ましいなと思い、同時に悲しくなった。こんなにも若い少女たちが、特に小さい方は小学生――それは高城の勘違いなのだが――だというのに戦わなければならないのだ。高城のその感情はその理不尽に対しての怒りとなり、イーターに対する闘争心へと変わる。

「俺は高城剛毅だ。町を囲んでいる異変調査部隊の隊長をやっている」

「わ、私は蒼井七海です……」

「一花だよ!」

 一花が元気に挨拶するのに対し、七海は急に顔を赤くさせ、やや俯き気味に挨拶する。そんな七海を見て体調が悪いのかと高城が尋ねるが、七海は大丈夫ですとだけ答え、後ろを向いてしまった。

「その……ギアは、露出が多いから……」

 七海が顔を真っ赤にしながら、どうにか高城に向き直る。蜘蛛型は残っているが、とりあえずは一段落ついたために七海の思考はリセットされた。普段通りの思考に戻った七海が何を考えるかといえば、もちろんのことギアの露出のことである。

 ギアの露出の多さは戦闘中は無理矢理に意識の外に追いやることで気にしないようにしていたが、目の前に男が、しかも高城は顔立ちも良いため、変身している姿を見られるのが恥ずかしかったのだ。

「あ、ああ……言われてみれば、確かに、ろ、露出は多い、みたいだな……」

 高城は改めて二人の服装を見て、顔を赤くしながら目を逸らす。一花は小学生のようにしか見えなかったため、幼女趣味のない高城には気にならなかったが、七海の方はそうはいかなかった。

 七海は年齢の割には成長している方である。胸はまだBカップほどだが、持ち前の運動神経を活かして陸上部に所属しているため、程良く引き締まったスレンダーな体つきをしている。その美しさに、意識せずとも目線が行ってしまう。

 しかも、今の七海はイーターとの戦闘で体力を消耗し、冬だというのに僅かに汗をかき、頬を上気させている。呼吸もまだ乱れていた。そんな姿を見せられて、健全な精神を持つ男性が、その姿に惹かれないようにするというのがそもそも無理な話だった。

 高城の目線に七海が気付かないはずもなく、七海は涙目になる。

「うう……」

「どうしたの、七海?」

「一花には分からない話だよ……」

 そう切り捨てられて一花はショックを受けたようにうなだれるが、特に気にしていないようですぐに立ち直った。

 高城は気まずくなってしまったのでポケットから通信機を取り出すと、クロエに報告を入れることで話題を変えて誤魔化す。

「クロエ、とりあえず周りのイーターは倒した。二人とも無事に合流したから、小休憩を取った後に蜘蛛型を殺る」

『ああ、わかった。頼んだぞ』

「まかせろ。それより……なあ、クロエ」

『ん、なんだ?』

「彼女たちの服装はどうにかしてやれないのか? 露出が多すぎて可哀想だろう」

『はあ、だから俺に言わないでくれ……』

 クロエはため息を吐く。久々に聞いた相棒のため息に、高城は懐かしさを感じた。

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