1話 平穏
三作目の作品となります。
のんびり更新ですが、よろしくお願いします。
駅前の広場には人が集まっていた。もう十二月になると言うのに、白い息を吐きながらも寒さを堪え、歓声を上げる。
その日、駅前の広場ではヒーローショーが行われていた。ステージ上で派手なアクションをして観客を沸かせているのは地元で有名なフジレンジャーと呼ばれるご当地ヒーローだった。
彼らが技を決める度に歓声が上がり、遂に、タコの姿をした怪人はヘロヘロとその場に倒れ伏した。
瞬間、わあっと歓声が上がり、ヒーロー達も決めポーズを取って舞台は締めくくられた。
観客達が解散すると、途端に寒さが身を襲い始めた。静けさが余計に寒さを引き立てる。
「うぅ、寒いなあ」
結構厚着してきたのにと、少女は口を尖らせて呟いた。枯れ葉が乾いた風に吹かれて舞っている。
少女は少し歩くとベンチに腰掛けた。ベンチはひんやりと冷えていて、伝わってくる冷たさに少女は身震いする。
少女は手にはあっと息を吹きかけ、暖めようと試みる。だが、冬の寒さには勝てず、指先まで冷え切ったままだった。
「フジレンジャー、格好良かったなぁ……」
先ほどのヒーローショーを思い出して、少女は口元を弛める。
少女は幼い頃からヒーローに憧れ、中学生になった今でもその夢は変わらないでいた。
回想することに夢中になっていたせいで、少女は前から近づいてきた二人組に気付けなかった。
「おーい、一花、一花ってばぁ」
「えへへへ……」
「こりゃダメだ、気付いてないよ」
ショートカットの活発そうな少女が話しかけるも、反応はない。手をひらひらと目の前で振っても少しの反応も示さなかった。品の良さそうなロングヘアの少女はそれを見て苦笑いする
何度呼びかけられても回想に夢中で気づかず、少女――一花はニヤニヤと笑い続けている。
しびれを切らした二人組の片方が手を掲げ、ぺちんと振り下ろした。
「はうっ!? ……あれ、七海と千尋がいる?」
「そりゃあ見ればわかるでしょ!」
「うあっ!?」
七海と呼ばれた少女がもう一度ぺちんとチョップをして、千尋と呼ばれた少女はやれやれと首を振った。
「それでね、フジレッドがこうね、ばびゅーんってタコ怪人を蹴り飛ばしたんだよ!」
「ああはいはい、それ何度も聞いたから」
「あれ? そうだっけ?」
「そうだよっ!」
七海が今日何度目になるか分からないツッコミを入れる。
三人は駅で合流した後、ファミレスに来ていた。
一花がヒーローについて話し、七海がツッコミを入れる。千尋はその光景を楽しそうに眺めながらミルフィーユを口に運ぶ。
「一花さんって、本当にヒーローが好きなんですね」
「うん、正義の味方ってかっこいいよね!」
熱心に語りながらイチゴパフェを口に運ぶ姿は小学生のようにも見えなくもないが、一花はれっきとした中学生だ。リーダーシップのある七海や大人しめの千尋と並ぶとよりいっそう子どもっぽく見えてしまう。
「ヒーローって聞くと男の子っぽいイメージがあるけど、一花はそんな感じじゃないよね」
「正義に男の子も女の子もカンケーないんだよ!」
一花は手を高く掲げて声を張り上げる。同時に店内がしんと静まり返り、視線が一花に集中する。
一花は慌てて頭を下げ、しゅんと縮こまった。
店内がいつも通りの賑やかさに戻ると、会話を再開する。
「あーあ、わたしも正義の味方になりたいなぁ……」
ふにゃりと脱力して一花はテーブルに突っ伏す。
「正義の味方ねぇ……そんな簡単なものじゃないと思うんだけどな」
「そこは、ほら、努力でどうにかするよ。うん、頑張るよ!」
「今から気合い入れてどうするの……はぁ」
一花のテンションに付いていけず、遂に七海が突っ伏した。ツッコミ役の七海がダウンしてしまったことで、必然と会話は千尋に向けられる。
再び熱く語り出した一花に、千尋は戦慄した。