嫌い。
笑っている。
私の隣で楽しそうに彼が笑っている。
私もつられて笑う。
幸せを顔全体に浸透させるように、笑っている。
ずっと、この時が続けば良いのに。
そう思った瞬間、遠くで電子音が鳴り響いた。
目覚ましの音で目を覚ました。
どうやら夢を見ていたらしい。
腕の中には小さなぬいぐるみが鎮座していた。
軽く溜息を吐き、さっと髪に手櫛をかけると身支度をし始める。
夢のような話とはまさにこういうことを言うのだろう。
私が幸せそうに笑うなど、現実では有り得ない。
自分の卑屈さに反吐が出る。失笑も漏れる。
彼が眩しすぎる故に、段々、段々、影として小さく、真っ暗な鬱屈とした入れ物の中に埋もれていくのだ。
そんな彼は私に、可愛くいてほしい、と望む。
故に私は化粧を磨く。服装に気を遣う。髪型も整える。
けれど、それだけでは可愛げがあるとは言えない。
姿を繕ったところで、内面が磨かれていなければ、何一つ輝かないのだ。
心の底から笑えない私は、可愛くない。
彼の望む私にはなれないのだ。
そんな私がとてつもなく憎くて、歯痒くて、大嫌いなのだ。
ずぶずぶ。ずぶずぶ。
そうやって私はまた、真っ暗な、何もない底なし沼へと沈んでいく。
「助けて……」
届かない。
「どうすればいいの……」
聞こえない。
私の小さな声など、聞こえない。
自分という大きな障害物にかき消されていく。
結局、自分に抗えないのだ。
絡みつくプライドの糸にがんじがらめにされていくしかないのだ。
解きたい。でも解けない。
このままで良いとも思わない。けれどどうすればいいのかわからない。
澱んだ心を埋めたまま、私は外へと歩を進めた。