好き。
どうしてなのだろうか、時たまふと物悲しくなる時がある。
それは時と場所を弁えず、おもむろにやってくる。
独りで考え事をする時、又は君と別れ背を向けた瞬間。
腹の奥底から斑色に染まった何かが、ふわふわと喉元にまで上がってくるのだ。
「また連絡するから」
「そう」
何気ない二人の会話。
私は素っ気なく、ただ相槌を打つ。
共通の友人になら和気あいあいと会話できるというのに、君が相手となると急に口数が減る。
誰よりも、何よりも、どんな人よりも愛しているというのに伝わらない。
否、伝えることをしないのだ。
自分を曝け出すことが、何よりも怖いのだ。
「……情けない」
自室でメールの送信画面を見ながら独りごちる。
可愛らしい顔文字が羅列した画面に、溜息が漏れる。
自らの言葉には違いないのだが、何故こんなにもテンションが大幅に変わってしまうのか。
何故自分の声で伝えられないのか。
今日一日のことをひたすら反省するのだった。
「メールですら、好きだって言えないなんて」
そうなのだ。
私から告白をしたときも、付き合い始めたときも一言だって好きだとは言わなかった。
言った瞬間、今まで築き上げた「大人な私」が崩れてしまう気がした。
歳下だというのに頼りがいがあって、自分なんかよりも数倍大人な彼に甘えきってしまうのではないかという、ちょっとだけ残っている無駄なプライドが、その言葉を伝えるということを阻害している。
歳を取るとは難儀なものだ。
そう思い、枕元へと携帯を投げた。