物置・毛玉・ヨット
箪笥の中
机の中
畳の下
OK.もう私の荷物は残ってない
18歳の冬。物凄く春に近い冬
咲は、一人暮らしを始めることになった
今日は、その為の荷物整理を朝からぶっ通しで行っている。なんせ、18年間も住み続けた家だ。持ち物への執着心が半端ではない咲の荷物は、自室に入りきらぬほど多い。そこに、咲の家が「魚の名前が沢山出てくる某アニメによく似た和風でだだっ広い家」であることを付け加えれば、ずぼらな人ならひっくり返るほどの量であることがわかるだろう
16時を回ったところで一通り母屋の片づけが終わった。一息つこうと思い台所につながる居間に向かうと、母がお茶を出してくれた
普段はそんなこと全然しないのに。不思議に思いながらも、咲はお茶に口をつけた
「もう母屋の整理は終わったの?」
不意に母が聞いた
「うん」
「じゃあ次は物置だね。頑張って」
―――――物置
あそこには、母屋に入りきらなかった荷物が、しこたま積んである
咲は、あえて後回しにしていた
行きたくない
そう思いながらも、咲は重い腰を持ち上げた
ここには、何かがある
しんとした物置を引っ掻き回しながら、咲は思う
小学校のころのノート、教科書
全頁びっしりと埋まったスケッチブック
大量のガラクタと、アルバム
アルバムは、開かなかった
心の片隅にある、私がここに来たくなかった理由を揺り起こしてしまいそうだったから
物置の端に、段ボールが積まれていた
ここを、秘密基地とか言ってたっけ
久しぶりに段ボールをひっくり返す
そこには、薄汚れた、毛玉だらけの毛布があった
この毛布は、咲にとって物凄く大切なものだった。幼いころ、不安なことがあればいつもこれを握っていた。そのせいか、周りからは「ライナス」と呼ばれた
懐かしい
毛布を抱きしめる
ふと、違和感を覚える
毛布の中に、硬い手触り
慎重に毛布をめくると、すっかり色あせたプラスチックのヨットが出てきた
舞
浮かんできた、誰かの名前
いやだ
思い出したくない
それでも、記憶の糸を手繰る手は休まない
幼稚園からの友達だった舞
いつも一緒にいた舞
中学が分かれてしまった舞
そうだ。卒業式の後、舞からヨットをもらったんだ
大事なものだから、大事な毛布にくるんでおいたんだ
三年間音沙汰なしだった舞
同窓会に欠席した舞
そう。16の時に開かれた同窓会で
担任が――――
「いやアアアアアアアア!!!!」
担任が
【藤村舞さんは
交通事故で亡くなられました
昨日のことでした―――】
閉じ込めて、封印していた記憶が
すべて、蘇った
苦しくて、毛布に顔をうずめる
硬くなり、ぼろぼろになり、毛玉だらけになった毛布は
咲を受け入れてはくれなかった