休暇と再会(後編)
俺たち六人組が向かったのは、お化け屋敷だ。
「やっぱりデートといったらお化け屋敷だよね~」
はじめ先輩、意外といいところを狙ってきたな。まだ夏には早いけど、それもそれでいいだろう。
「じゃあせっかくだし、神話選択しようか」
神話選択、それは三種類の神話のうちどれかを発動し、同じ神話が二人づつだったらそれでグループ結成っていう、学園じゃわりと使われる手法だ。
「いちにのさん!」
はじめ先輩の掛け声とともにそれぞれが神話を発動。
「お、一回で決まったみたいだね」
結構長引くことの多い神話選択だが、今回は一回で決まった。
「じゃあ、友と礼ちゃん、眺君と愛ちゃん、ぼくとくるるちゃんだね。じゃあ終わり次第ここに集合ね」
俺は愛とグループか。今日はあまり愛と話してなかったし、ちょうどよかったかな。
「おばけって、いると想像すると本当に出てきちゃうって聞いたことがあるけど、それって本当なのかな?自分の想像力で生み出されるなんて不思議だよね。それって、想像力が豊かな人ほどおばけをよく見て、朴念仁な人ほどおばけと縁がないってことになるのかな?私はそんなに想像力あるほうじゃないけど、眺くんはどう?おばけとか見たりする?」
いつになく饒舌な愛がここにいる。こっちのほうがおばけより怖いかもな・・・
今いるのはおばけ屋敷の中。そろそろ終盤のはずだが、いまだにおばけには出くわしていない。それはここのおばけ屋敷が、最後の広間にすべての仕掛けがあるという手抜きな場所だからだ。
愛は、怖いときほど何か話してごまかそうとするタイプらしい。さっきからひたすら語っている。暗いから確信はないが、愛の顔はきっと青ざめているだろう。隣で俺と腕を組んでる愛の震えがこっちにも伝わってくる。というか、腕を組んできてる時点で、もう普段の愛と大違いだな。
「どうしたの、さっきからあんまり喋ってないけど、疲れてる?それとも、私といるとやっぱりつまらない?私って昔から、一緒にいても面白くない、って言われちゃうんだ。もしそうだったらごめんね」
これ以上黙っていると本当に泣き出しそうなので、俺も口を開く。
「これはさっき聞いた話なんだけど、このおばけ屋敷、おばけ役がいないところでよくおばけが目撃されるらしいぜ。」
「や、やめてっ」
組んでいる腕の力をいっそう強めて愛は叫ぶ。ちょっと狙ったけど、思った以上のビビりっぷりだ。ん?何か腕にやわらかいものが・・・。愛のやつ、引っ張る力を入れすぎてるせいで胸があたってる。見かけよりおおきいな・・。とか言ってる場合じゃないか、さすがにこれは教えてやらないと。
「愛、あのな、お前の胸が」
といったとたん、仕掛けの人形が愛のほうに倒れてきた。
「な、何か倒れてきた!!」
愛は怖さのあまり、なんと俺に抱きついてきた。正面からの本格的な抱擁だ。
「あ、愛っ」
俺はおばけでなくそっちのほうに気をとられる。さすがにこれはマズい。もろにあたってる。
「落ち着け、人形だ、愛!」
「もう・・ダメ。このまま連れて行って」
愛はギブアップを宣言。えぇ~、それはいくらなんでも困る。というか、おばけ役のみなさんに見られるのがすごく恥ずかしい。こうなったら、あれを使うか・・・
「愛、とりあえずおんぶしてやるから、それでゴールまで行く」
愛をおんぶした俺は、神話を発動。
「ソニック」
とたんに、あたりは完全に静寂になる。物音ひとつなく。
俺は、ダッシュで一気にゴールに向かう。あと三秒、いける!
「あ、あれ?もう外?」
愛は驚きの声を上げる。当然といえば当然だろう。愛にっとっては、何か急に光ったと感じたら、いつの間にかここにいるって感じだろう。
それはなぜかというと、俺がセルフを使ったからだ。セルフなんて忘れた!ってやつのために一応説明しておくけど、それは神話使い一人一人の固有神話だ。まぁ、オールを極めれば、他人のセルフ劣化版ぐらいは使えるらしいが。
俺のセルフはソニック、数秒の間音速で移動できる神話だ。そう聞くと恐ろしい能力のように聞こえるかもしれないが、そんなことはない。なんとソニックには、発動中は走ること以外何もできないという制限がついているからだ。さらに言えば、発動中は光を発するので、隠密行動にも適さない。どうだ、一気に価値が下がっただろう?
といっても、今回愛を救ってやるぐらいの活躍はしてくれたか。
「もうついたぜ。怖がりちゃん」
「な・・眺くんのイジワル・・・」
いたずらが過ぎたか。愛は結構怒っている。
「そう怒るなって、これで許してくれよ」
そう言って、俺は愛の後ろ髪についていたゴミを口で取ってやろうとする。ん・・口?
しかしそのとき、予想だにしなかった出来事が起きた。愛が急に振り向いてきたのである。
「「あっ」」
俺と愛はキスをしてしまった。愛の顔が見る見る赤くなっていく。
「わ、悪い。ワザとやったわけじゃないんだけど・・」
「・・・いいよ、私、ぜんぜん嫌じゃないよ・・・」
相変わらず赤い顔だが、愛は確かにそう言った。
これは告白か?告白なのか?
このあと俺が何を言ったかは内緒だ。知りたかったら心を読む神話でも習得するんだな。
俺たちは、これからも日々を生きていく。神話とともに、あいつとともに。神話使いのすむ世界で。
END
どうも。急な展開ですが最終回です。
最後に眺のセルフを登場させられたことはよかったです。
初連載で、とても稚拙な作品となってしまいましたが、小説に関して得られたものも多かったと思います。
いままで読んでくださった方、どうもありがとうございました。
また新しい連載を書くつもりですので、よかったらまたよろしくお願いします。
それでは。




