実践と天才
チーム結成から3日過ぎた。
この間は主に神話のマナー、神話を一般人に使ってはいけないとかのいわば”常識”についての授業だった。一般的な神経の持ち主である俺からしてみれば、こんなものは言われるまでもない常識であったが、こんなマナーも守れない奴もいるってんだから驚きだ。
そして、今日は「実践1」だ。内容は簡単なオールについて。おそらく、初歩の物理系と自然系、防御神話のカットってところだろう。
俺は初の”実践”に少し心を躍らせて、グラウンドへ向かう。
お、愛と礼はもうきているようだ。
「遅かったですわね、眺さん。5分前行動は基本中の基本ですわよ」
会って早々それか。礼は何かにつけて俺に説教してくる。こいつの初対面の態度からしてちょっとヘンな奴だとは分かっていたけど、こうもしつこいと我慢の限界ってもんだ。
礼の方を見て文句のひとつでも言ってやろうとすると、
「そ、そろそろ先生が来るから座っておこうよ」
と愛が言う。
「そうだな。時間のことなら次から気をつけるよ」
俺は揉め事を起こすことなく、礼に言う。ナイス愛。
「わ、分かればいいのですわ」
礼は肩透かしを食らったような顔をして座る。そういえば、こいつは俺が反論しないといつもこんな顔をしてたな。何でだろう?
「授業を始める。全員起立」
急に声がグラウンドに響く。男の厳しそうな声だ。
おそらくほかの生徒たちも先生がいたことに気づいてなかったのだろう。一瞬ビクッとしてすぐに立ち上がる。
皆が先生のほうを向く。身長180越え、体格はスリム、顔も整っている。女子生徒の憧れって感じだな。
「私が貴殿らの”実践1”の担当、双森啓だ。この授業では、やる気のない者はすぐにおいていかれるぞ。当然予習はやってきているだろうな」
おそらく予習してないのであろう、クラスの半分ほどがざわめく。肝心の俺は、今日の授業が楽しみだったから一通り予習してきている。・・・よかったぜ。
「私は、”今回は最初の授業だから仕方がないだろう”なんて甘いことは決して言わない。今、予習してきている者とそれを怠ったものとの間には、決定的な差が生まれた。この差をどうするかは今後の貴殿たち次第だ」
クラス全員が生唾を飲む。俺も正直すでにビビッてる。
「それでは、チームごとに広がれ。まずはスロウからだ」
それからの20分間俺たちは必死に神話を習得した。スロウ、ファスト、ファイア、そしてカット。
これらはいずれも基本中の基本。大体の奴が習得できたみたいだ。
愛と礼は・・・。二人とも、しっかり習得したみたいだ。愛の神話だけやけにキレがいいように見えるが・・・気のせいか。
時間を見計らった双森は次の指示を出す。
「よし、それでは次は練習試合だ。チームの二人が戦闘、一人が審判。勝利条件は相手の体にファイアをあてることだ。準備が出来次第開始」
実践か・・・女の子相手だけど、なおさら負けるわけにはいかないな。
「それでは、まずは私と眺さんですわね」
なぜか決定しているらしい。まったく、これだからお嬢様は・・・
「それじゃあ、私が審判やるね」
愛は特に不満は感じていないらしい。愛は戦闘得意って感じじゃないもんな。
わがまま姫の命令にもいい加減慣れてきている俺は、何か言う気も起きず
「じゃあ、始めるか」
と言った。戦闘開始だ。
両者の間隔は5メートルほど。礼はファイアを俺に向けて馬鹿正直に撃ってくる。
「当たりなさいっ」
俺は小さな動作でよける。この距離からじゃ、俺の攻撃も当たらないな。どうする?
数秒の思考後、俺は作戦を決定。礼は相変わらず馬鹿正直に撃ってくる。
「ファスト、そしてスロウ」
俺は自分に向けてファストを、礼に向けてスロウを発動。同時発動は予習の賜物だな。
物理系は自然系よりも速度が速いから、礼にも直撃。この神話はもって5秒、一気に決める!
ファイアしか頭になかった礼は突然のことに当惑。これならいける。
俺ファストで加速した足でそのまま礼に向かってダッシュ。そして、
「食らえ、ファイア!!」
俺のファイアは礼の腕に直撃。礼は思わず悲鳴を
「きゃーっ」
勝った。初陣勝利だ。俺は軽くガッツポーズ。ここまで約3秒。
・・・3秒?俺の物理系神話は5秒は持つ。もちろん解除なんてできるほど器用じゃない。
俺の頭の中に最悪のケースが流れる。おれは加速中。礼は減速中。そして俺は礼のほうへ突進中。そこから導き出される結論は、衝突。
俺はあせって両手を前に出す。そして目をつぶる。止まらない、ぶつかるっ!!
そこからは擬音で表現。むにっ。きゃー!。ばしっ。
結果。俺の手には柔らかな感触、そして頬には赤い紅葉。
「ぶ、無礼なっ」
そう言って礼は気絶。やっちまったぜ。
「気絶した奴は私に任せろ」
双森がそう言うと礼の体が浮かび上がり、近くの木陰まで移動。
「次、如月と桐野。監督は私がやろう」
何もなかったように次の戦いの指示。礼には後で謝ればいいか。
俺は愛との戦いに集中する。相手が愛だからってなめてはいけないな。
そう思いつつも、心のどこかで俺は彼女をなめていた。それが俺の敗因・・・いや、たとえ万全の状態で挑んでいても、きっと何もできなかっただろう。あいつには。あの天才には。
「えっ?」
気がつくと俺は飛ばされていた。ブッ飛ばされていた。最後に見えたのは、高速で迫ってくる変化球のようなファイア。
「勝負あり、勝者桐野」
双森はそう宣言した。
「毎年、学年に一人はできるって思わせる生徒がいるが、今年は飛び抜けているな」
双森にそう言われ、愛は少し恥ずかしそうにうつむいた。
「おいおい、マジかよ、マジですか」
俺はこの日、初めて絶対的な才能を見た。
こんばんは。
今回は初めての戦闘シーンでした。
戦闘っていえないほどの単純さでしたね(笑)
次回は、「特訓と特訓」予定です。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。




