プロローグ 入学式と強制選出 7/23改
「新入生の諸君、入学おめでとう。私はこの学校の生徒会長、園崎印だ。年長者の長話など聞いても退屈であろうから手短に話そう。」
ステージの上に立って演説をしているのは、容姿端麗・成績優秀・その上性格もよいという噂の完璧超人。そのカリスマ性はここからでもはっきりと感じ取れる。
「まず、この学校で学ぶことだが、まぁそれを知らずにこの学校に入学するものも、またできるものもいないとは思うが、最初なので説明しておこう。この学校で学ぶこと、それは世間一般から見たら超能力や魔法となんら変わらないことから、通称”神話”と呼称されている。諸君らは皆何かしらの神話を持っているわけだが、授業ではそれらそれらについて学ぶことになる。これからの三年間を生かすも殺すも諸君ら次第だ。十分に励むように」
みなの背筋が先ほどよりものびる。期待にこたえようとする意志が見える。
「最後に、これは毎年の恒例なのだが、生徒会長である私の神話を披露しよう、”ルール”」
先輩が突如神話を発動し、今まで椅子に座っていた俺たち生徒が重力から解かれた。
「きゃーっ!」「うわっ!」
突然のことにただただうろたえる。俺はかろうじて悲鳴を耐えたが、そんなのたいした問題じゃないだろう。
「皆落ち着くように、と言ってもそれは難しいかな。私が今使っている”ルール”は、力を弱める神話だ。これは皆、上級レベルの共通神話だ。と言ってもその効力は個人の能力に左右するが。私の固有神話の披露はまた後の機会にとっておこう。ちなみに先生方が浮かんでいないのは、神話に対する防御、カットを行っているからだ。もっとも、諸君らの数人は私の神話をカットしているようだが」
戦線たちの表情から読み取ると、これも含めての恒例なのだろう。印自身も地に足をつけていた側だったのかもしれない。
しばらくすると徐々に重力が戻ってきて、皆が席に着く。体育館での無重力体験をした新入生たちはあっけにとられている。
「カットはすぐに学ぶものだから安心するように。これで入学式を終わりにする。諸君らは担任の先生方の指示に従って各教室に行き、オリエンテーリング後に順次下校となる。それでは解散」
演説が終わった途端、一年生たちは騒ぎ出す。内容は、突然の神話への驚き、それを防いだ者への賞賛、また防げなかったことの言い訳などが聞こえてくる。
なんて批評家ぶっている俺はもちろん浮いてた側だ。”主人公は特別”なんていう妄想をしてた奴、期待を裏切ってすまないな。
とか言っていると、担任の教員、”錫守まり”がやって来た。
小柄だけどしっかりしていそうな感じだなと、小柄な女性に偏ったイメージを持っている俺は思った。
「とりあえずクラスへ向かいます。皆ついてきて」
彼女のきびきびした誘導に従い、俺は自分の教室、一年C組へ向かう。今頃になって、入学したんだなぁと感慨に浸る。
クラスについてからの皆の行動は二通り。ひとつは早速交流を始める者、もうひとつは周りの様子見をしている者。俺はどちらかというと、もちろん後者だ。
「まぁ、まだこの学校で知ってる奴なんかいないし、こんなもんだろ」
神話学校っていうのは、その辺にポンポン建ってる一般の学校とは絶対数が違う。神話を使ええる素質を持つ人間が人口の0.5%ってところだから、当たり前と言えば当たり前だろう。日本では、各地方に一つってとこか。ちなみにここは、関東校。
「今日するべきことは一つだけよ。早く終わらせましょう。まずは配布物」
そう言うと、教卓の上にある書類が次々と生徒たちの机の上に飛んでいく。
ノータイムでここまでやってのけるとはさすがは教員。皆の羨望のまなざしがまりに集まっていく。神話はさっきの先輩のように、名前を唱えるのが普通。現段階の一年生でそれを使える奴はまずいないだろう。なんて、俺が使えないことを言い訳してみる。
「こんなことでいちいち驚いていたら、きりが無いわよ。次に決めるのは・・・クラス委員男女1名づつね。やりたい人は立候補して」
途端にクラスが静かになる。なるほど、面倒ごとは他人任せか。そういう俺も別に立候補するわけじゃないんだから、人の事言えないか。
「立候補なしか・・・初めはこんなものね。じゃあ私の推薦で決めます。如月くんと桐野さん、あなたたちでとりあえず最初の一学期間お願いね。はい皆拍手」
とたんに沸き起こる拍手の雨。犠牲者二人への拍手なのか、勇者まりへの拍手なのかは、いまいち分からない。クラス全体で犠牲者の反論を封じている。
「はい、これで今日は終了。下校していいわよ。明日はクラスでの自己紹介、その他の係り決めをやるからそのつもりで」
そういって先生は教室から出て行く。他の生徒たちも、クラス委員に選ばれた二人と目を合わせないようにして徐々に教室から去っていく。
最後まで教室に残ったのは俺ともう一人、桐野愛。
犠牲者の一人桐野愛は俺のほうを見てくる。
小柄であまり自身なさそうな感じ。容姿は小動物のようなかわいらしさを有している。黒髪の二つ結びはな清楚な雰囲気をかもし出している。と、愛を観察してみた。
俺が動かないのを見て、愛は自分から近づいてきた。そして、
「えと・・・桐野愛です。選ばれた人同士、これからよろしくねっ」
相手に好印象を与える笑顔でそう言う。しかしこれは、別に俺に気があるからとか、そういうことではない。まぁそうである可能性も捨てたくはないが、今は無視しても差し支えないだろう。なんってったって俺は・・・
「ああ、こちらこそよろしくな、桐野」
あぁ、申し遅れたが俺の名前は”如月眺”。もう一人のかわいそうな犠牲者ってわけだ。
どうも、高居望です。「神話使いの住む世界」を最後まで読んでいただきありがとうございます。完成次第どんどん投稿していく予定ですので、よかったらお付き合いください。なお、夏季休業中は早く投稿することもあるかもしれません。最後に、読んでくださった方で感想などをいただけたら幸いです。




