第09話 天界から
おれ達は城内の廊下を歩いていた。向かっているのは城の裏側か? まぁ何がどこにあるのかも分からないので黙ってついていくことにした。
「そういえばフリナとユリハは獄境にいるんだよな? あとで案内してくれよ」
「ええ、もちろん。一緒に行きましょ。……あ、団長達にはエストを会わせた方が良いのかしら」
「あぁ……ラルド達か。一回会ってるもんなぁ……だったら挨拶くらいしておこうか。……騎士団もできたんだっけ?」
「うん。じゃあ後で呼んでおくわ。……と、着いたわ。研究室よ」
そう言いながらセリアは扉を開いた。石造りの部屋だ。水の入った円柱型の水槽があったり、積み上げられた書類の山がある。
何か難しそうなことを書いてあるようだが……おれには分からないな。……静かだが、部屋には誰にもいないのだろうか。
「クランのときは研究団って一つだったんだけどね。規模が大きくなったから戦闘に特化した魔法師団と研究団に分けたの。で、ここが研究団の研究室。やってるのはほとんど魔法の研究ね。……で、問題は研究室長なんだけど……」
「………!! もしかしてセリア! 来てくれたのかい!!?」
すると、部屋の奥から声がした。聞いたことのある声だ。このやかましい感じ………間違いない。声とともに男が奥からやってきた。
「ギルバートさん……だよな……? 死んだはずじゃ……?」
「おや? ……おやおや? 君、エスト君だよね? …………あ! もしかして僕と同じ……」
「違います、兄様。エストは生きてたんです。普通に」
「あれ? 国王様じゃないですか。グラダルオ様達もご一緒で……何か?」
ギルバートさんと、一緒に白衣の青年も出てきた。恐らく彼が研究室長というものだろう。いかにも研究者という格好だしな。
「あなたのことを紹介しようと思ってね。ここの研究室長・ルウよ」
「ルウです。……えーっと……」
「彼のことは後で紹介するわ。まぁ、私の参謀とでも思っておいて」
「はいっ! よろしくお願いします!」
促されてつい自分の名前を言いそうだったが、セリアに遮られて言葉を止めた。いや、気をつけないと。彼には後で挨拶をするとして、こんな簡単に名乗るようではすぐにバレてしまう。
「で、彼なんだけどね。あの……あまり良い思い出もないかも知れないけど、“天界の者を召喚する能力”なの」
「へー! 天界の!? ……どっかの魔王は地獄から召喚してたな、懐かしい。……じゃあ、ルウがギルバートさんを召喚したのか?」
「いえ、私ではなく国王様がですね」
「?」
話を聞いてみると、ルウは能力を一般化できないかと研究しているようだ。生涯に一度、召喚できるのは縁のある者、召喚者と被召喚者の力に大差がないこと、そしてルウが立ち会う条件であれば誰でも天界から召喚ができるようだ。
元々召喚魔法は存在するから、もしかしたら召喚系の能力は再現しやすいのかもな。
「いずれはもっと簡単に、誰でも召喚できるようにするのが私の夢なのです。そうすれば私のように力を持たない者であっても、自衛することくらいはできるようになるでしょう」
「なるほどなぁ。……でも悪用とかされる可能性もあるんじゃねぇか?」
「否定はできませんけど、そもそも天界の者は悪に傾かないですから。それに天界と能力、どちらの特性かは分かりませんが、万が一悪に落ちたら強制的に召喚が解除されますし。戦争なんかに使われたら戦力が大きくなってしまいますが……それでも力のない人達が自衛できることが大事かと」
「確かに、それもそうだな。……それで、セリアが試したらギルバートさんが召喚されたってことか」
「そっ! いやぁ……それにしてもエスト君、生きてたんだね。良かったよ。びっくりしたけどね」
ギルバートさんはあまり驚いた様子もなくそう言った。いや、まぁ驚いてはいるのだろうけれど、そういう感じを見せなかった。生前から表面は適当な人物だったから違和感もないけれど。
「一回召喚した人は何回でも再召喚できるから兄様はいつでも会えるの。だから兄様が死んじゃったことはあんま気にしなくていいわよ」
「はっはっ! 酷いじゃないか! セリア。僕のことだって心配してくれよ。死んでるんだよ? 僕だってさ」
……うん。確かにやかましい死人の心配はあまりできない気がするな。でもそれはそれで良いことだろう。人の死を悲しむよりも、死んだ人と笑い合える方がいい。
「いや、でもまた話せて良かったよ。またな、ギルバートさん」
「ああ。いつでもまた来な」
おれはルウとギルバートさんに挨拶をして部屋を出た。暇なときにでもまた来ようか。
「じゃあ次は獄現門にでも行こうか。フリナ達にも会うでしょ?」
「おう、そうだな」
「グラとデモンゲートはどうする?」
「儂は残ってるよ。やることが残ってるしな」
「当然、私はついて行きます!! エスト様のいる場所が私の居場所にございますから」
コイツは……相変わらずの熱量だな。2年経っても忠誠があるのは嬉しいっちゃ嬉しいが……やっぱ少し気持ち悪いな。
「じゃあグラ、ラルド達がいつでも集められるように声かけといてくれる? 2時間もすれば帰ってくると思うから」
「分かった。任せておけ」
セリアはグラにそう頼んで部屋を出た。この街は王城を中心に商業地区、農業地区、鉱山・森林と広がっている。現世と獄境を繋ぐ獄現門は、お互いの万が一のために人里から離れた森林に開かれている。
ただし、そこまでの道は整備されているので向かうのはそこまで苦ではない。おれ達は城を出て、整備された道を進んで獄現門へと向かった。




