第67話 アイツにないもの
「これはお願いなんだけど、最初から全開でやった方がいいよ。小手調べなんてしてたらすぐに負けちゃうからね」
「んん……。それだとほんの数分しか保たねぇんだけど……まぁ負けたら元も子もないか。仕方ねぇな」
おれは刀に炎を纏わせると同時に、融合身体強化を発動し、神聖力も併用した。前よりも幾許か痛みはマシだ。
が、痛いものは痛い。やはり長くは保ちそうにない。おれは右足を半歩前に出して構えた。
「“二式”『夕廻月』!」
「ッ!? そッ! それって“一式”の後の技じゃないの!?」
「連撃じゃねぇと使えない技なんて開発するわけがねぇだろ」
「ズルいよ! それは!」
簡単に避けておいてよく言うよ。だが、避けるということは当たれば効くってとこだろうか。この前もそんなことを言ってたからな。
あとはおれがサタンの速さについていければだが……。そんなことを考えていると、サタンは雷のごとく速さで突進してきた。
「『怒りの剛体』」
「『冥霊』!!」
「うぐッ……!」
サタンの腕が勢いよくおれの胴体に衝突し、おれは勢いに逆らうことができずに吹き飛ばされた。能力による身体強化の類だろうか、今の一撃はただの殴りではないな。
身体の内側、骨の髄まで響くような、気持ちの悪い攻撃だった。彼女の能力は“自然災害を操る力”だ。とすると今のは……。
「……地震か?」
「流石だね! 地震の力を身体の内側に封じ込めてるんだ。だからそれに触れられれば内側まで衝撃が走るってわけ」
「なるほど。……でもそれだけじゃないだろそこが分からない。お前の身体強化は何を応用してるんだ?」
「……何が変わるわけでもないから教えてあげるよ。ボクはね、自分の身体をちょっと弄れるんだよ。“突然変異”って言えば分かるかな? それだって自然現象だよ。自然現象は見方によっては自然災害さ」
「……なるほどね」
もはやなんでもありだな。筋力を強制的に引き上げているわけか。それに加えて恐らく魔力量も弄っているな。
だが、やっぱり膂力だけで言えばおれの方が上だ。驚異的な速さも神聖力で感覚を強化すれば防げないほどではない。
警戒すべきは能力の範囲、つまりどれだけの手札があるか、だ。おれはそれを切らせないために畳みかけるしかない。そもそもおれの戦える時間は短いんだ。後手に回ってはいけない。
「『怒りの……』!?」
「“終式”『咲煌月』!!」
「痛っっった!!?」
“終式”は刀身を鞘に納めた状態から放つ居合の一撃だ。ほんの一瞬、瞬きするよりも短い時間を止め、その隙に垂直方向の斬撃を放った。
時間停止をこの“終式”のみに利用するという制限で、これまで時間を止めるときにかかっていた負担や予備動作をゼロにしている。つまりこれは最速の一撃というわけだ。それがただ掠っただけ、か。それに今のは……。
「しんどいな。今のはしっかり入れたかったんだが……。2撃目は当たらないだろうからな」
「悪くはなかったけどね。ボクほど素晴らしいものじゃなかったってだけだよ」
サタンは頬の切り傷を拭いながらそう言った。自信満々に。
今ので分かったことは、強大な魔力を有している者が抵抗すれば、止めた時間も動き出してしまうということだ。世界を歪ませるほどの魔力と考えれば当然なのかもしれないが……こうなると範囲で攻めるしかないな。
「『召雷』!!」
「うッ……!!」
天から降り注ぐ雷を回避しながら、おれはサタンから距離を取るようにして飛んだ。攻撃範囲で言えばおれより彼女の方が優勢だ。そして速さは五分……いや、おれの方が劣っていると考えていい。
……となると、だ。サタンになくておれにある強みを考えなければならない。…………あるにはあるが……まぁ物は試しだ。とりあえずやってみるか。
おれは垂直方向にも、水平方向にも襲ってくる雷撃を躱しながら追ってくるサタンの様子を確認した。
「逃げてばっかじゃ勝てないよ!!」
「考えなしに突っ込むのもどうかと思うけどな!」
「ッ!?」
後ろから速度を上げてきたサタンに対し、おれは上体を捻って向かい合った。刀を突き出し、魔素と神聖力を可能な限り込めて、それをサタンにぶつけた。
神聖力は魔力や魔素と反発する性質がある。つまりおれが神聖力をあえて放出すれば……。おれが操る魔素は、神聖力と均衡を取ることで絶妙に混ざり合っているが、そこに他者の魔力が衝突すれば当然爆発する。
サタンはおれの操る神聖力に触れることによって、身体中に巡らせていた魔力が内側から大爆発を起こした。
「ゔッ……! これは思ったより……!」
「痛って!! やるんじゃなかった!!」
「……にーさんも被害受けるんだ……」
サタンは驚きながら、いや、呆れながらそう放った。サタンの魔力が触れるだけなら大した影響はないかと思ったのだが、彼女の魔力量は半端じゃないがゆえに触れるだけでも神聖力が乱れてしまったようだ。
一応、それを危惧して刀を使ったというのに……追い込まれていない限りは素手では使えないな。だが……。
「『満華穿衝』!」
「うわわッ! 熱ッ!!」
負傷したサタンに向かって、おれは圧縮した魔素と神聖力の塊を乱射した。その光線は音速を超える速度で撃ち出されながら、拳ほどの大きさで何十発も襲いかかる。
サタンも雷を撃ち出して相殺はしているようだが、おれが神聖力を使っている以上はそう簡単に太刀打ちできるものでもない。
「へへっ。おい、サタン。調子乗ってんなよ。おれにだってお前を殺せるだけの力はあるんだからな」
「自爆した奴に言われても緊張感がないな。そういうのは腕の一本でも落としてから言いなよ」
挑発をしてでも、この戦いはおれのペースにしなければならない。サタンのペースになればおれに勝機がなくなるからだ。
相性は悪くない。だからサタンの方が一枚上手だとしても、不可能ではない。おれはサタンとの距離に気をつけながら、再び刀を低く構えた。




