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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第九章 嵐前の宴
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第65話 客とは言わない

「いやー! にーさん! 久しぶりだね!」


「そうだな。1日ぶりか?」


「痛い! 痛い! ごめん! 悪かったからつねらないで!」


 おれは意気揚々とやってきたサタンの頬をつねって挨拶した。正直1週間か2週間経てば待てずにやってくるんじゃないかとは思っていたが、まさか数日も待てないとは。おれの読みが甘かったか。


「違うよ! 待とうとは思ってたんだけど……ちょっとワケがあって……一旦部屋まで連れて行ってよ! お客さんだよ!?」


「いきなり来るようなヤツを客とは言わねぇ」


 おれは呆れた口調でそう伝えながらサタンを城の空き部屋まで連れてきた。ワケがあるとは言ったが、サタンなら大抵のことは解決できるはずだ。それをわざわざおれのところに来て……急いでる様子でもないから何かしらの相談にでも来たのか?


「ミルクティーでいいか?」


「うん。とびっきり甘いのにしてね」


 おれは中央の机に2つのカップを置き、片方には紅茶を、もう片方にはミルクティーを注いだ。そしてそれをおれとサタンの前に置き、机の真ん中、ややサタン寄りの位置に焼き菓子(クッキー)を出した。


 甘いもの好きのサタンは、だいたいこの組み合わせを好んでおやつに食べている。部屋に招いた以上はある程度のもてなしはした方がいい。……いや、しなくてもいいか。


「なんだかんだにーさんって面倒見がいいよね」


「……。……それで? なんでおれのとこに来たんだ? まだ1ヶ月どころか、1週間も経ってねぇんだが」


 ミルクティーとお菓子をパクパクと飲み込んでいくサタンを眺め、おれ自身も紅茶を飲みながら尋ねた。この様子だと、やっぱり急いでいるわけでもなさそうだ。いや、まぁ急用でもないのに来てほしくはないのだが。


「いやね、にーさんと戦っても被害が出ないように場所は整えてきたんだけど……」


「そこで何か問題が?」


「いや、1ヶ月って暇でしょ? だからにーさんの回復までボクもここにいることにしたの」


「……そうか」


 真面目に考えていたおれがバカだったようだ。いや、マトモに考えていれば分かってたのかもな。コイツが焦ってないのに用があるってことはくだらないことだって決まっているのに。


「暇ならクロールで獄境まで帰るといい。いい運動になるし、何よりいい見せ物になる」


「ああ! にーさん! ボクのこと見捨てないでよ! ホントに困ってるんだから!」


「困ってるヤツは暇なんて言わねぇもんだ」


「にーさんのやることを見学するだけでいいから!」


 身体を休めるのにやることもクソもあるか。どうせおれといても暇だ暇だと喚くだろうに……。


 ……あ、いや、そういえば一つだけやっておくことがあったな。そのためにわざわざミスロンを選んで来たんだ。


「じゃあちょっとデカい魔石を2つ取ってきてくれ。デッカいヤツな」


「どれくらい?」


「理想は最上Sランクの魔物グリフォンとかヒュドラとかの魔石だな。」


「…………そんなのそう簡単に見つからないよ」


「暇なんだろ? 世界中を飛び回ってこい。必要なんだ」


 まったく、1つならまだしも2つだなんて。サタンはそんな風な文句を垂れながら城を出て飛んでいった。もちろんミルクティーとお菓子は完食して。


 正直に言えばAランクの魔物の魔石でも足りるとは思うんだが、まぁ良質で困ることはないからな。サタンも難しいお題の方が楽しめるだろう。おれはサタンが帰ってくるのを待ちながら、1人で静かにお茶を飲んだ。


 もう一度サタンの声を聞いたのは、それから4時間後のことだったと思う。グラの部屋で2人で酒を飲みながら語らっていたところに、窓の外から声がしたのだ。


 獄境の大沼地にいたヒュドラを2体狩ってきたらしい。思っていた以上に早かったのだが、それでも見つけるのに手間取ったと言っていた。


 まぁ早いとはいえ既に日は落ちているので、作業は明日することにしておれは飲み終わったらすぐに夢に落ちた。


 朝早く、日が昇るよりもまだ少しだけ早い時間におれは目を覚ました。本当はもっと寝ていたかったけど、サタンが急かすので早起きすることになったのだ。


 サタンは意外なことに朝に強い。……いや、そもそも睡眠が必要ないのかもしれないな。おれはサタンに引っ張られながら部屋を出て、朝食を摂った後にグラと3人で外へ出た。


「この魔石は何に使うの?」


 昨日取ってきた巨大な2つの魔石を抱えながら、サタンが尋ねてきた。あれ……伝えていなかっただろうか。説明した覚えはないな。ならサタンは目的も知らずに協力してくれてたのか。


「前まで獄現門があったところまで向かうんだけど、そこに獄境までの転移門を作るんだ。ほら、世界が重なって門が壊れてるだろ?」


「それは儂ら助かるが……できるもんなのか? 転移門自体が空想のものじゃし、そもそも距離が遠いじゃろ。」


「ウーの能力スキルでユリハの城にマークしてあるんだ。その術をこれだけ大きな魔石に付与したら転移門ぐらいなら作れるよ。たぶん」


「まぁそれならボクも作れるとは思うけど……何回か使ったら魔石の魔力が無くなっちゃうんじゃない?」


「その辺りは周辺の魔素を吸収するように細工すれば問題ないさ」


「問題ない、か……にーさんにしかできない芸当だね……」


 おれ達は元々獄現門が開かれていた地へと到着し、おれは早速転移門の制作に取り掛かった。


 なかなかに集中力がいる作業だったが、一応似たようなものは作ったことがあったのでそこまで苦労することもなかった。魔石に刻んだ転移門が完成したら、2つあるうち片方を魔界に置き、もう片方を転移先の獄境に置いた。


 転移自体は片方があれば問題なくできるのだが、転移元と転移先の両方に置くことで魔石にかかる負担を半減することができ、万が一にも片方が故障しても、転移門はもう片方の魔石によって保たれる。


 問題は門に装飾が一切無く、味気ないというところなのだが……その辺りは今後グラに任せるか。


 数時間の作業の後、おれ達は城に戻った。見たがっていたサタンはともかく、グラに関しては連れてくる必要もなかったのではないかと思ったのは、城に帰ってから数時間後のことであった。

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