第06話 2年ぶり、2000年ぶり
「頼むよ。少しだけでも会わせてくれればたぶん分かるから。分からなくても説明するからさ」
「ですから、約束もない誰とも分からない方を通すわけには行きません」
おれは東大陸の街、ラライアに来ていた。2年前に亡くなった大英雄の仲間であるアールデント様の墓参りを終え、今は屋敷の前にいる。この街の領主であるスリドさんの屋敷だ。
セリア達に会いに行く前に、スリドさんの元で働くリンシャさんに会いに来たのだが……おれは門番に止められていた。いや、よそからみても怪しいのはおれだから仕方ないといえば仕方ないのだが……なんとかならないものだろうか。
そう思って門番を説得しようと試みていると、屋敷から男性が出てくるのが見えた。
「どうかしたかね?」
「!! スリド様! い、いえ。こちらの者がスリド様とリンシャ氏に会わせてほしいと……」
屋敷から出てきたのはスリドさんであった。ジューミッド=スリド侯爵、昔からここラライアを治める家だ。
おれが彼に会ったのは2年前、おれからすれば2000年も前のことだが、魔界に攻め込む作戦会議のときに会ったことがある。年齢の割に若々しく、それでいて威厳を感じる雰囲気を纏った男性だ。
「うーん……?」
「お久しぶりです。スリドさん。2年ぶりですかね? 覚えてないですか?」
スリドさんは顔を強張らせておれの顔を覗いた。少しの間考えていたが、はっとしたように目を丸くした。
「! ……驚いたな……。少し……雰囲気が変わったか……?」
「ええ。少しではないと思いますけどね」
「……彼を通してあげなさい。客人だ」
「しょ、承知いたしました……!」
スリドさんは門番にそう言っておれを通してくれた。おれは門番の人に軽くお辞儀をしてスリドさんの後ろを歩いていく。
屋敷には執事のような人達もたくさんおり、不思議そうな顔でおれを見ている。当然だ。約束のない来客、しかも誰も知らないヤツがやってきたら誰でも不思議がるだろう。
スリドさんは執事にリンシャさんを呼ぶように伝えて、おれを自室まで案内してくれた。そして椅子に座って向かい合った。
「いや、まさか……。魔神を討った英雄が生きていたなんて知られたら大事だな」
「よそには言わないでくださいね。騒がれるのは趣味ではないので。ここにくる前、グランデュースの……セリアの父さんに挨拶したときも言わないようにお願いしたんです」
「ははっ! 言わないとも。騒がれてもいいなら、ウチの門なんて簡単に通れただろ?」
そう言われればそうだな……。それなら大々的に言ってしまっても良かったかもな。そこまで頭が回らなかった。そう考えていると、コンコンと扉を叩く音がした。
「ただいま参りました。お紅茶も持ってき……ま…………」
「お、リンシャさん。久しぶり」
部屋に入ってきたリンシャさんに、おれは微笑みながら手をひらひらと振った。リンシャさんは驚きで身体をカタカタと震わせていたが、紅茶の入ったポットとカップは落とさないように手元は安定していた。
「生きて……いらしたのですか……? それに随分と……大人っぽくなられて……」
「そうそう。セリアちゃん達が目の前で亡くなったって言ってたのに。どういうことなんだい?」
「いやー。まぁ色々あったんですけど……おれの分かる範囲で説明しますとね……」
おれは魔神と戦った後のことをざっくりと説明した。幸いにもおれが元々2000年前の人間……あ、いや、人間ではないけれど、ということは既に知っているようだったので話はスムーズに進んだ。
「そりゃあまた災難だったね。……それで、セリアちゃん達には伝えたのかい?」
「いや、下手に伝えようとしても情報が漏れかねないんでね。それにやっぱ……サプライズとかしたいじゃないすか」
「はっはっ!! 若いってのはいいな!」
「怒られるのではありませんか? ……デモンゲートさんは怒りはしないでしょうけど」
「2年も待たせてたらどのみち怒られるよ」
おれはリンシャさんが注いだ紅茶を口に運びながら言った。
そう、これが2年前、ちょうど人魔大戦が終結したときだったらすぐに知らせていただろう。死んだと思われているすぐ後に会うのは気まずいなんてことを考えていなければ。
どうせ怒られるなら……もう面白いことやった方がいいだろ。
「そういえばリンシャさんは法帝を引退したんだって? そこまでして三界と戦ってくれて……本当感謝しかないよ」
「魔力回路がボロボロになってしまったので……。でもあのときは全員が命を賭けていましたから」
「……君達の話を聞いていると……私の方が申し訳ないな……。若者に無茶をさせて、老人がのうのうと生きていることを考えると……」
「まだお若いじゃないですか」
おれ達はひと通り話を終え、部屋を出た。そして屋敷の外に向かう。
改めて見ると大きな屋敷だ。これより大きいのなんて……それこそ城や大聖堂くらいなものだ。流石は侯爵といったところか。
「ではエスト君。セリアちゃん達によろしく言っといてくれ」
「エストさん。お気をつけて。またいつでもいらして下さい」
「ああ。今度はセリア達と一緒に来るよ! じゃあまた!」
おれはスリドさんとリンシャさんに手を振って別れを告げた。2人の様子を見て安心した。リンシャさんはもう戦えないようだが、それでも平和に過ごしていて良かった。
いや、生活には困っていなさそうであったし、むしろ戦えないというのは見方によっては良いのかも知れない。これ以上戦いには巻き込まれないのだから。
……さて、今会える人にはこれで会えた。いよいよ、これでもう魔界に行くことになる。おれは港へ向かい、準備を進めた。緊張で鼓動が速くなっていた。セリアに会うのは久しぶりだから。セリアに会うのをずっと待っていたから。胸の奥から、ゾクゾクとした感覚が襲ってきた。




