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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第八章 果ての地
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第59話 穴

 おれはサタンを連れて“果ての地”の真上にやってきた。2週間前よりはだいぶ浮上してきている。が、まだ地中だ。けれどこの程度なら、穴を掘れば拝むことはできるだろう。


「掘るのはにーさんに任せていいの?」


「おう。お前はこの2週間頑張ってくれたからな。これくらいのことならおれが引き受けるよ。ま、すぐ片付くけど」


 サタンは今日までずっと、ここらの気候を安定させてくれていた。そのおかげでこの2週間は快適に過ごせたし、何よりおれが出した家も燃えずに済んだ。その間おれは何もしていなかったから、雑用程度のことならおれに任せてもらいたい。


 おれは大地に手を当てて、どれほどの穴を開ければいいか考えた。そこそこ深い穴が必要になるから……まぁ吹き飛ばせばいいか。


「『破魔デバイク』!」


 超高密度に圧縮した魔素の球体を掌に作り出し、それを大地に流して爆発させた。大陸を震わすほどのエネルギーが一点に集約されており、大地はおれの手から半径30メートルほどの範囲が消滅した。


 これで充分だ。おれの視界にはすでに、“果ての地”と思しき地点が入っていた。


「ホントにここにあるの? にーさん」


「あ、そうか。お前、この穴どう見えてるんだ?」


「どうって……普通に穴なんだけど。……いや、絶対に入れない穴って感じかな。さっきから足が穴の方に向かないや」


「そうか。じゃあ少し頭貸せ」


「口づけ!?」


「違ぇよ」


 確か禁断の森の結界も、正面に進もうとしても脳が誤解して勝手に曲がってしまう、というものだった。


 なぜそうなってしまうのか、それは被術者の魔力が己の脳に認識を阻害する魔術式を刻むからだ。つまりその結界によって、魔力の支配権が奪われるのだ。


 どうやらこの“果ての地”でも同じことが起こっているらしい。サタンの脳にはかつて見た魔術式が刻まれていた。彼女の膨大で強力な魔力でさえも、抗うことができないようだ。


 おれはサタンの額に手を当てて、その魔術式を分解した。


「……スッキリしたけど……まだ分かんないや」


「? 大きい力を感じないのか?」


「いや、何かがあるっていうのは分かるんだけどね。力は別に感じないかな」


 おかしいな。穴の奥から異常なまでのエネルギーが発生してるっていうのに感じないだと? サタンに異常はないようだし……。


 考えられる可能性で言えば世界の内側にいる以上、世界の外側の力は感じることができない、というところか。……いや、じいちゃんが見つけていた時点でその線は薄い。じいちゃんはたまたま見つけたと言っていたけれど、何にせよ普通の者でも感知する方法があるはずだ。


 接触してみれば分かるかもしれないが……触れただけで外側に放り出されでもしたらたまったものじゃない。……試してみるか。


 足元に転がっていた小石を穴の中に放り投げてみた。するとその小石は、すり潰されるように粉々になってどこかへ消えた。


 いや、目に見えないほどの粒子になったと表現した方が正しいな。今度は大きな岩を放り込んだ。岩はミシミシと鳴って砕けたが、それなりの大きさの破片はしばらくの間形を保っていた。


 “果ての地”、つまり世界の外側に繋がる穴は非常に小さいために、ある程度の大きさがあれば漏れ出る力に潰されることはなさそうだ。少なくとも、おれやサタンの肉体ならばすぐに潰れるなんてことにはならない。


「接触してみようか。そしたら何か分かるかもしれない」


「う、うん」


 死ぬようなことにはならないだろう、けれど用心するに越したことはない。おれはサタンが誤って“果ての地”に触れないように手を掴んで案内しながら穴を降りた。


 近づくほどに実感した。外側からただただ莫大な力が流れ込んできている。この力が物質になり、魔力になり、そして神聖力にもなっているのだ。おれは興奮しながらも、冷静さを欠かずに慎重に近づいた。


「サタン、これだけ近づいても感じないか? お前の目の前にあるんだが……」


「変な感じだよ。感じてないけど感じてる。感覚としてはよく分からないんだけど、身体が震えてるっていうか。ボクの肉体を作ってる物質が酷く反応してる」


 理解の及ぶものではないけれど、本能が何かに反応してるって感じか。確かにそれはおれも似たようなものかもな。


 おれは能力スキルによる感覚の強化によってある程度感じているけれど、理解できているわけではない。身体が感じているだけで、おれの理性は何も感じていないような気さえする。


 触れればもっと分かるのだろうか。この穴……世界の穴に触れれば、その本能が理解に変わるのだろうか。そう考えながらおれが伸ばした腕を、サタンが掴んで止めた。


「あ、待って! ボクはまだよく分かってないんだ! 触れるのはボクが先! 言い出しっぺはボクだしね!」


「お、おう。そうか」


 まるで子どもの我儘のようにサタンはそう言った。まぁ先か後かなんて拘りもないし、ここはサタンに譲るか。それにサタンも見るからに興奮していて、それを差し置いておれが触れるというのも気が引けた。


「どうだ?」


 力の発生源に触れたサタンに、おれは短く尋ねた。溢れ出ている力のほんの一部が、サタンに流れ込んでいるようだった。間違いなく接触している。


「……スゴいよ。何がスゴいかって……上手く説明できないけど、触れば分かるよ。でもちょっと期待外れかな。何もないや」


「そうなのか? ……おぉ……おぉー!」


 サタンに促されるまま、おれは“果ての地”に触れてみた。触れた瞬間、おれは巨大な力の波に飲み込まれた。まるで大海に放り出された蟻のような気分だ。


 果てしなく続く“道”のようなところから、無限に等しい力が溢れてきている。


 だがただそれだけだ。果てない道の先には何も感じない。何も存在しないようだった。だからサタンは残念そうにしていたのか。


 ……いや、何もないわけでもないようだ……。


「今すぐ穴を出ろ! サタン!!」


「えっ!?」


 おれはサタンに向かって叫んだ。世界の外側から何かが出てきたのだ。


 急いで穴の外に出て、そこから出てくる漆黒に染まった泥のような者を注視した。異様な気配を纏っている。あれは何者なのか、分からないけれど、知ってはいた。


 一度、似たような者に出会ったことがあるが、その方に限りなく近い気配だ。


「まずったね。短い期間に魔神を倒しすぎちゃったかな……。力のバランスが悪くなったんだろうね。三柱目の最高神の誕生だよ」

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