第58話 神聖力
極点まで歩いてくると、そこは先ほどまでとは比べ物にならない気温だった。そしてその熱が集中している地点に、美しくも禍々しい一本の剣が突き刺さっていた。
ここの環境の過酷さは決してこの剣によるものではないけれど、そうだと錯覚してしまうほどの力を感じた。なるほどね、これが……。
「……名剣か? 鬼火舞といい、根源から生まれた武器はどれも変なもんだな」
「……特殊な力を感じるでしょ? 魔力でも能力でもない……特殊な力。これが獄境の名剣“オーディラン”だよ」
サタンはこの熱さの中、自身の周りに氷を生み出すことでなんとか耐えていた。いや、そんなことをしなくてもコイツの肉体が死ぬことはないだろうけど、精神的に耐えるために氷を出していたようだ。その氷もすぐに溶けてしまうので常に新しく作らなければならないのが大変そうだ。
「にーさん、この剣抜く?」
「うーん……。別に得物は一つでいいんだけどな。抜いたら使うか?」
「いや、ボクに名剣を扱えるのか分からないし、そもそも剣は使えないよ」
「じゃあ……まぁ抜くか。せっかくだしな」
おれは柄に手を添えた。人が自身の力で自身を持ち上げられないように、この世界に固定された名剣をこの世界の者が抜くことはできない。そのために、この剣を抜くことができるのは、この世界に縛られていないおれくらいだ。
そんな剣を、おれ以外の者が扱えるのかは分からないけど……まぁそれなりの価値にはなりそうだ。それなら持っていてもいい気がする……たぶん。……バチ当たりかもしれねぇな。
「ま、いいか」
おれはスッと剣を引き抜いた。鬼火舞と同じように、この剣からも力を感じる。魔力とは違った、相反するように神聖力とでも呼ぼうか。まるで生命を持っているように感じた。
ただの物質が“生命を持つもの”に昇華するための力、そのようなものを感じる。いわば生命を生命たらしめる不思議な力。……もしかしたら気づいていないだけで、人間も魔族も、この神聖力を有しているのかもしれない。
後々研究でもするか。ただ今気になるのは周囲のこの違和感だな。
「どうかしたの? にーさん?」
「……いや、なんか力感じないか? 剣とは別にさ」
「いや? でもにーさんだけ気づいてるってことは……」
そうだ。もしかしたら、世界の外側、つまり根源から溢れている力を感じているのかもしれない。
1ヶ月後、“果ての地”がここに出現するはずだが、じいちゃんはその時期以外にも天空か地中か、どこかには存在していると言っていた。つまり、目視することはできずとも、どこからか存在を感知することは可能なはずだ。そして“果ての地”を隠しているのが禁断の森のような魔力に作用する結界のようなものであるならば、感知することができるのはおれを除いて他にいない。
おれに感知できてサタンにできないとなると、おれの感じている“何か”は“果ての地”の力である可能性が高い。
「たぶん力が大きすぎて位置を特定できないんだ。ちょっと集中してみる」
おれは目を瞑って力の出どころを探ってみた。最も力の濃いところはどこだろうか。右へ左へ、上へ下へと意識を変えた。どこからも同程度の力を感じるが、感知する範囲を広げていくと、地中の奥深くに大きな力を感じた。
さらに奥へ、奥へと意識していくと、1ヶ所、周りとは比べ物にならないほどの力を発している点を見つけた。正直掘るのは骨が折れるから、浮上してくるのをもう少し待つしかないけれど……それは感じたことのないほどに大きな力を発していた。
世界中のエネルギーが凝縮されているような……いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。とにかく異常な力で溢れていた。間違いない。
「ははっ……サタン! 見つけたぞ!」
「ホント!? どこにあるの?」
「ずっと下だ。2週間くらい待つかな。そしたら穴でも掘って接触してみよう。となると……」
その2週間はこの辺で過ごしたいのだけれど、ここの環境は異常だから……どうしたものか。家を置いても燃えちまうし、置けたとして、この熱さはおれは良くともサタンは我慢できないだろう。
そう考えるとサタンがここ一帯を冷ましてくれれば楽なんだが……。
「なぁサタン、おれらが過ごす間くらいここの気候変えてくれないか?」
「うーん……。うー…………ん……。仕方ないな。2週間だけだよ。ボクも寝るときくらいは快適であってほしいからね」
「そうか。ありがとうな」
サタンは天に手をかざし、周囲の熱気を寒気で中和した。気温は過ごしやすいものになったが、これを2週間も継続するのは簡単ではなさそうなんだけどな。サタンはいとも簡単にそれをこなしていた。やっぱり涼しいくらいが心地良いな。
2週間ずっと、ここの環境は安定していた。つまり、サタンは2週間もの間、環境を大きく変えるほどの力を使い続けることができるわけだ。これほどの力を使うとなると、今のおれならほんの数分が限度だというのに……。
“果ての地”が地上に近づくまでのこの間に、おれは神聖力の観察をしていた。鬼火舞においてもオーディランにおいても、ただの物質、つまり刀剣とは違った力を発していた。
それは魔力や魔素と強い反応を示すようであったが、決して混ざり合うことはなかった。まるで互いに殴り合うことで大きな余波を発生するような、そんな感じだ。
そしてその神聖力は、おれの身体、正しく言えばおれの魂にも微かに存在しているようだった。今まではこの力を知りもしなかったために気づくことがなかったようだが、意識を向けてみれば神聖力は魂を支えるように確かに存在していた。
さらにそれは魔力のように身体中を循環させることが可能で、魂という小さな器から身体という大きな器に移動することで、その力は大きくなっていった。
それと同時に、おれの魂や命も強靭になっていくのも感じた。“闇の王”の力、つまりエネルギーを支配する力が覚醒していなかったら、この神聖力を操ること、発見することはできなかったかもしれない。そしてこの神聖力が、サタンと対等に戦うために必要な要素になってくるだろう。
「さて、そろそろ始めるか。サタン」
「よしっ! いよいよだね!」




