第57話 灼熱
「あ、そうだ。肝心の話を忘れてたよ」
「ああ、“果ての地”の場所が分かったって?」
おれは食器を片付けながら、アミシアの屋敷から持ってきた獄境の地図を開いた。どれだけ昔のものかは分からないけれど、地形は大して変わっていないだろう。だからこの地図を見ればある程度のイメージはしやすいはずだ。
「じいちゃんが言ってたことを簡単に話すと、闇の月の第2から第3週の間に南の極点付近に穴、つまり“果ての地”が出現するらしい。それ以外の時期でも遥か天空か地中には存在しているらしいけど、確認できるのはその辺りだけらしいな」
獄境に来たのが雷の月で、それからおよそ1ヶ月だから今は光の月だ。つまり今年中の猶予はあと1ヶ月しかない。じいちゃんが計算してくれたから大きな誤差はないだろうとのことだったが、それでも前後1ヶ月は見張っておきたい。
「南の極点って言うと……地図には載ってないね。あそこは酷く暑くて近づく人がいないから。……あそこには確か名剣があったかな」
「そうなのか。それなら確かに“果ての地”に繋がってても不思議じゃないな。……ってかそんな手掛かりがあるなら最初に言えよ」
根源が直接作り出したものがそこにあるのなら、根源か力が溢れ出ているであろう“果ての地”がそこに存在していると考えられる。
それが分かっていればもっと早く気づけたかもしれないのに……。いや、どのみち出現時期が決まってるなら一緒か。そうとなれば早速出発する準備を……?
「なぁ、地獄は現世と時間の流れが違ってたけどよ、獄境はそんなことはないのか?」
「それなら心配いらないよ。あれは死者の世界と生者の世界で時間が違うってだけだから」
そうか。それなら心配する必要はないか。今いるのはだいぶ北の方だから……まぁ急げば3日くらいで到着するかな。問題は南の極点あたりは地形が分からないことくらいだが、まぁそれも行けばなんとかなるだろ。
「でもやっぱ意外だよ。まさか大英雄……アリオスだっけ? が“果ての地”を見つけてたなんてさ。あの人が人間の割に異常に強かったのは知ってたけど、まさか力以外のものも持ち合わせているとはね」
「まぁじいちゃんは1回未来を見るくらいの力しか得られなかったようだけどな。“果ての地”に行っても根源には至れなかったって言ってたし。そう万能でもないんだろ。……ってかあの人強かったのにお前は戦ってみたいとか思わなかったのか?」
「うーん……。思わなかったって言うと嘘になるけど……ほら、ボクって神の血を引いてるわけじゃん? つまり同じ神の血を引いてる者じゃないと殺せないわけだけど」
「ああ……それ誰かから聞いたな」
「ボクが大英雄と戦ってもさ、彼はボクを殺せないんだし面白くないでしょ? そんな戦いはさ。それに殺されなくともボクが負けたら半永久的に封印されるんだ。現実的に考えてさ、勝っても負けても面白くないんだよね。そんな戦いはしないよ」
へぇ。サタンもそれなりに考えてはいるんだな。……ん? コイツが現実的に考えて負けを想定するじいちゃんの強さって………。
「ま、とりあえず出発しようよ。あそこはメチャメチャ暑いから気をつけてね。ホント」
「……そんななのか?」
「行けば分かるよ。走ってく?」
「いや、走るのは疲れるからな。念力で岩でも飛ばしてその上に乗っていくよ」
「え!? 何それ! 面白そう!!」
おれは地面を砕いて人が乗れるくらいの岩を取り出した。……いや、サタンも乗るならもう少し大きい方がいいか。
おれは今取り出した岩を元に戻し、もう一度、先ほどよりも大きな岩を取り出してそれを飛ばした。念力も全力で使えば疲れるが、3日か4日くらいかけて世界の裏側に到着する程度の速度なら大して疲れることはない。少なくとも毎日ちゃんと寝ていれば。
おれは隣に立ってはしゃいでいるサタンを落とさないように気をつけながら、真っ直ぐに南に向かった。
北から南に下がっていくと、気温は次第に氷点下から常温に、常温から高温へと上昇していった。なるほどね、確かに暑いというのは分かるし、気温が高いということはそれだけの力が溢れているということなのだろう。
丸々3日かけて極点から500キロメートルほどの地点に到着したときには、そこの気温は現世では考えられないほどに高かった。
天に雲は一切なく、大地は融けて溶岩のようになっていた。魔力や魔素で肉体や服を強化していなければ人体も融けてしまいそうだ。高密度な魔素を纏いながらこの泥のような地面を歩くとなると、誰も近づかないのも納得だ。
ここまで最悪な環境は地獄にだってそうそうない。あのときと違って、今のおれはセリアの力を継承していくらか熱に耐性を持っている。まぁそれは、おれは、だが。
「暑い……。熱いよ、にーさん……」
舌を出し、汗を滝のように流しながら、先ほどからサタンが訴えかけてくる。コイツ、寒さには強かったのに暑さはダメなのか。いや、まぁ普通に考えて北の環境より南の環境の方が明らかに過酷ではあるのだが。
「耐えてくれ。……ってかお前、頑張ればここらへんの気温下げられるんじゃねぇのか?」
「自然環境を変えるなんて……バチ当たりなこと言わないでよ! 祟られちゃうよ!」
「誰にだ」
一瞬変えるくらいなら大きな影響もないだろうに。できることをわざわざしないってのは……律儀なのかアホなのか。まぁそういう心掛けは良いとは思うけど。
「それなら黙って歩けよ。おれだって人を熱から守るように能力を使うのは面倒なんだ」
「できるならやってよ!! 鬼! 悪魔! 人でなし!!」
「あながち間違いじゃねぇかもな」
案外元気そうだ。手伝う必要はなさそうだな。……そんなことより、“果ての地”に近づいたからだろうか、どこからか強い力を感じる。いや、それかおれの名刀が名剣に共鳴しているのか、いずれにせよ、この先に強い何かがある。
「サタン、少し急ごう。おれも早く見てみたくなった」




