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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第七章 獄境の旅
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第56話 魔の者

「サタン!! “果ての地”の場所が分かったぞ!!」


「ホント!!? ってにーさん!? 隈がすごいよ!?」


 じいちゃんからの映像メッセージを受け取ったおれは、外で夕飯を作っているサタンの元に走ってきていた。飯はキッチンで作ればいいのだけれど、ガサツなサタンに使わせると家が燃えかねないので外で作ってもらうようにしていた。


 おれは6日も寝ずに過ごして疲れが顔に出ているだろうから、本当は心配させないために少し休憩してから合流しようと思っていたけれど今はそれどころではない。


 久しぶりにじいちゃんを見て興奮していたのもあるかもしれないが、とにかく今すぐに伝えなくてはならないような気分だった。


「おれのことは気にするな。それより……?」


「わっ! 危ないよ!」


 サタンの元に駆け寄ると、おれは足を滑らせて焚き火の中に突っ込みそうになった。近くにいたサタンがおれを受け止めてくれて良かった。


 たぶん火の中に入ったくらいじゃおれは怪我もしないだろうが、せっかくサタンが作った飯をダメにしたら悪いからな。


 なんとか崩れた体勢を直そうと思ったけれど、足に力が入らない。全身の力が徐々に抜けていくのが感じられた。


「ゔっ……」


「にーさんはルシフェルとの戦い以降身体が弱ってるんでしょ? それなのに無茶しちゃダメだよ。ほら、話は後で聞くから今はしっかり休みな」


「悪い……」


 おれはサタンの肩を借りながら自分の部屋に戻り、ベッドに入った。自分が思っていた以上に身体が限界だったみたいだ。眠らなかったくらいで情けないものだ。


「少しご飯食べる?」


「いや、今は寝ることにするよ。……お前って意外と優しいんだな」


「ボク? そうでもないと思うけど……それを言うならそもそもボクはにーさんに冷たくしたことなんてないよ」


「……それもそうだな」


 サタンは自己中心的な性格で、典型的な魔神ではある。おれに優しくしているのも、おれに何かあったら彼女の楽しみが減ってしまうから、という理由もあるだろう。


 けれどそれは誰でも似たようなものだ。どんな人も、よっぽどの聖人でもない限りは“己のため”というのが行動原理になる。ゆえにサタンは、魔神という肩書きの割に案外優しい、と思えた。


「サタン、ありがとう。起きたら全部説明するよ」


「うん。もしかして惚れちゃった?」


「それはねぇ。おやすみ」


 おれの瞼は抵抗をやめ、一瞬のうちに夢の世界に入っていった。久しぶりの睡眠は、異常なほどに深く心地よいものだった。


***


 相変わらず獄境(この世界)の時間は分かりづらい。朝も夜も同じように暗いから。でも恐らく、今は朝だ。薄暗いけれど、まだ少し光を感じる。


 視線を落とすとベッドの横にサタンが座っていた。彼女はまだ寝ているようだ。……いや、ギリギリ起きているか?


「……サタン、おはよう。何日くらい寝てた?」


「お……お! にーさん起きた! 丸々2日間寝てたよ。ご飯でも食べる? 昨日の夜ご飯が残ってるんだ」


「2日か。……飯は貰おうかな。もう少し目が覚めたら下に行くよ」


「分かった! じゃあ温めておくから、急がなくていいよ」


 部屋から出ていくサタンを見てから、おれは大きく息を吸った。2日なら支障はないかな。もっと寝てたかと思っていたけれど、そうでもないのが意外だな。


 いや、意外と言えばサタンが寝ているおれを見ていてくれたことか。やっぱりおれは、少々彼女のことを誤解しているのかもしれない。


 彼女は確かにイカれているし、魔神の名に恥じぬ強さも持っているけれど、人並みの情は持っているようだ。元より旅を共にする仲間としては認めていたが……魔神としてではなく、1人の人と見た方が良さそうだ。


 2〜3分ベッドの上で軽く身体を動かした後、おれは部屋を出てサタンの元に向かった。2人分の雑炊が机に並べられてあった。


「……お前が作ったのか? これ」


「ボク以外いないでしょ。まぁ手の込んだものは作れないからね。ほら、にーさんも座って食べよ?」


 おれはサタンに促されるまま椅子に座った。正直コイツが料理をできるなんて思ってなかったから意外だった。見た目も匂いも至って普通。けれどそれが余計に意外さを際立てていた。


「じゃ、じゃあいただきます」


「召し上がれ!」


「……ッ!!」


 おれはスプーンで一口、雑炊を口に運んだ。見た目も匂いも普通だったのだ。けれど肝心の味は、その香りからは考えられないものだった。意外、先ほどからずっと意外なことが起こっている。


「ッ……サタン、やっぱお前は最悪だ」


「なッ!? どうしてよ!」


「どうしてって……この味……うぷッ。……なんで見た目や匂いと味がこんなにもかけ離れてるんだ」


 それは異常な味をしていた。見た目も匂いも至って普通だというのに……。この料理を食べた上で言えるのは、サタンは間違いなく悪なる魔神ということだ。これは善性を持っている者が生み出せる味ではない。


「なんだこれ……ホント……下水の染み込んだ腐ったパンみたいな味だぞ……」


「そ、そんなに不味くないでしょ!」


「スゲェよ……。おれが今まで食ったものの中で2番目に不味い。圧倒的にな。いや、味以外普通な分、なんならこっちの方がタチが悪いよ」


 およそ生き物が食える味ではなかった。というかこれって昨日の残りって言ってたよな。サタンはこれを食っても何も思わなかったのか……? おれがそんなことを考えていると、サタンは自分の分の雑炊を一口食べた。


「…………うん。まぁにーさんの料理ほど美味しくはないけどさ。……ちょっと味が濃いかな?」


「そういう次元じゃねぇよ。ゔッ……」


 なんで不味いと思わねぇんだ。何回食っても慣れる気がしねぇ。旨いもんには旨いっていうから味覚が違うわけでもねぇんだよな。ゆっくりと一口ずつ食ってみてるが……やっぱ食いもんの味じゃねぇよ。


「間違いなく魔の者だよ。お前」


「……そんなに不味いかな……。っていうかそれなら無理に食べなくてもいいのに」


「お前が作ってくれたんだろ。お前が食うならおれも食うよ。ただもう二度と食わねぇけどな」


 おれは人のために優しい嘘をついたりはしないが、おれが“不味い”と言ったときサタンは悲しそうな顔をしていた。コイツは自分の料理に自信があったようだったし当然か。……なんで自信を持てたんだ。


 が、まぁこれはコイツがおれのために作ってくれたものだし、それなら不味いからと言っておれが食べないというのは悪い気がした。ただもう二度と食わねぇけどな。


「そっか。……ありがとう」


「……もう一回言うけどこれが最初で最後だからな」


 おれはサタンに釘を刺した。絶対、何があってもサタンの料理は二度と食わないと。

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