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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第七章 獄境の旅
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第55話 古の日記

「はぁ……じいちゃんの部屋は紙がいっぱいで探すのが大変だな」


「2000年も過ごしてたんでしょ? にーさんが整理しておけばもっと探しやすかっただろうに」


 まさかじいちゃんの部屋から情報を得ようとすることになるなど思いもしなかったのだから仕方がない。むしろこの部屋は昔のままに残しておきたかったんだ。おれが整理し過ぎるとここはもうじいちゃんの部屋ではなくなってしまうから。


「たぶんだけど、結界のことが書かれてるのはメモかなんかだと思う。どこにでも売ってるような本じゃなくてな」


「分かってるよ。大英雄……アリウスだったっけ? あの人が書いたものを探せばいいんでしょ?」


 じいちゃんの部屋はそう広くない。だからそんなに時間はかからないとおもったのだが……。散らかっている部屋での探し物がここまで難しいものだとは。


 何時間も探しても出てくるのは古い歴史書や子育ての本くらいなものだ。そもそも、じいちゃんが書いていたものなんて日記くらいしか見当たらない。本当に目当てのものは見つかるのだろうか。……? 日記……?


「なんで思いつかなかったんだ! 日記だ! サタン!」


「え? 日記?」


「そうだ! じいちゃんが“果ての地”を見たことがあるなら日記に何かしら記しているはずだ!」


「ああ! じゃあボクは片っ端から日記を集めるよ。にーさんはその中から手掛かりになりそうなものが書かれてないか確認してみて」


 紙も貴重なあの時代にわざわざ日記を書いていたじいちゃんなら1日も欠かさずに全てを記していたはずだ。少なくとも重要な情報を書き漏らすとは思えない。


 おれは目に映った何冊かの日記を抱え、自室に籠った。今はどんな些細な情報でも、喉から手が出るほどに欲しい。それゆえに一文一文を舐め回すように読み、とにかく読み漏らしのないようにした。


 今読んでいるものは若いころのものだ。18歳の一年分が、一冊にまとめられてある。それが晩年まで、恐らく73歳分まであるはずだ。


 一冊を読み終えるのに2〜3時間は要しそうであった。それが55冊、これからサタンが見つけてきてくれる。禁断の森に結界を張ったのはいつ頃なのか、それによっては早く終わるかもしれないし、途方もない時間がかかるかもしれない。


「にーさん! たぶんこれで全部だと思うよ!」


「ありがとう。これからぶっ通しでこれ読み漁るから、悪いけど飯は自分でどうにかしてくれるか?」


「それはいいけど……ボクも手伝おうか? にーさん1人じゃ大変でしょ?」


「ありがたいけど………おれがやるよ。じいちゃんの字には癖があるし、お前には分からない言葉も多いだろうから」


「そっか。じゃあボクは適当に過ごしておくけど、休憩もちゃんと取るんだよ?」


「ああ。でもおれが部屋を出るまでは部屋に入らないでくれ。正直これを読むのに結構な集中力使うから」


 おれがサタンにそう伝えると、サタンも快く承諾してくれた。さて、となるとおれの仕事はこの積み重なった日記から“果ての地”、あるいは禁断の森の結界についての情報を見つけることだな。


 休憩を取るとは言ったけれど、集中力を切らすわけにはいかない。最悪1週間ほど読み続けることになるかもしれないけど、それでもなんとか情報を得てやる……!


「…………はぁ……。ダメだ。何も見つからねぇ」


 6日かけてなんとか全ての日記を読み切ることはできた。けれど、肝心の情報は何一つとして得られなかった。


 獄境でナニかを見つけたということも、禁断の森に結界を張ったことも記されているというのに、詳細は何も書かれていなかった。どこで何を見つけたのか、それが知りたかったというのに……。


「サタンには変に期待させちまったかもな。謝罪に旨い飯でも作ってやるか。……いや、その前に……ちょっとだけ寝よ……」


 この6日間、おれは適当に水とパンを腹に入れながら一切休まずに日記を読んでいた。流石に脳が疲労している。


 何の成果も得られていないけれど、やらなくてはならないことをやり終え、緊張が解けたとでも言おうか。少しずつ視界が暗くなっていくのを感じた。


「あ……あー……マイクテストマイクテスト。聞こえているじゃろうか」


「ッ!!?」


 ちょうど今から深い眠りにつこうというところで、急に懐かしい声が聞こえた。驚き、警戒しながら顔を上げると、最後の日記の最後のページから映像が映し出されていた。


 そしてそこに映っていたのは、その映像の声の主は、遥か昔に死んだはずのじいちゃんだった。


「え……え? じいちゃん……?」


「エスト、元気にしてるか? 驚いているじゃろうが、これはワシが残した記録じゃ。光と音を封印しておるだけじゃから、お前の声はワシには届いとらんぞ」


「……!」


 じいちゃんの能力スキルは封印術だったか。応用した音や光の魔法を封じていたのだろう。だが、なぜ今なんだ?


「簡単に説明しておこうか。この封印はな、“魔力に触れずに全ての日記の全てのページが開かれること”を条件に解かれるようにしておいたんじゃ。そうすればこの封印を解ける者はお前しかいないからな」

「………さて、お前は“果ての地”を探しておるのじゃろう? いや、根本的には根源ルートか。これから必要なことを伝えよう。メモでも取るといい。“果ての地”は————」


 おれはじいちゃんの言葉を一言一句逃さずにメモに写した。途中途中で出てくるじいちゃんの思い出話は省きながら。


 ただなぜだろうか。なぜじいちゃんはおれの求めているものを知っている? およそ2000年前の勘で当てられるようなものでは決してないぞ。


「……して、お前は思っとるんじゃろうな。“なぜじいちゃんはおれの探しているものを知っているのだろう”と」


「うおッ!? タイムリーだな!」


「簡単な話じゃ。ワシが“果ての地”に至ったときに、根源ルートの力をほんの少し借りて、お前の未来を部分的に見させてもらったんじゃ。ワシは根源ルートには至れんかったからな。全てではないが、お前が1800年後に“果ての地”を探すことは知っている。……おっと、これ以上はお前の楽しみを減らしてしまうな。頑張れよ。お前はワシの自慢の子じゃ。サタンとか言う魔神にもよろしくな」


 そう言って映像は終わった。封印が解かれた以上、この映像が帰ってくることはない。つまりもう二度と、見ることはできない。


 じいちゃんは部分的な未来を見ることができていた。あの時代に、今の時代を見ることができたんだ。けれどそれは、根源ルートの力のほんの一端でしかない。漏れる力が、遥か未来の運命を定めていると言っても過言ではない。


 ともなれば根源ルートの真の力とは一体どれほどの……! おれは興奮気味にメモをまとめ、外にいるサタンの元へ向かった。

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