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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第七章 獄境の旅
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第54話 感情

「ちょっ、ちょっとにーさん! それどういうこと!?」


 おれが言葉を発すると、サタンが勢いよく飛びついてきた。まぁ待て待て。おれも昔の記憶だからところどころ怪しいんだ。


「えーっと……。おれが見たのは、結界に触れるとその人の魔力が自身の脳に魔法陣を刻んで認識を阻害するっていうやつなんだけど……。これってどうかな?」


「どうって……。それどういう仕組みなの?」


「結界の魔力が他者の魔力に作用するんだよ。こういう術は普通か?」


 おれがセリア達と冒険していたとき、禁断の森で見た結界のことだ。あれはじいちゃんが元々張ったものだから……もしかしたら、思ったよりも手掛かりは近くにあったのかもしれない。


「普通なわけないでしょ。だってそんなことができんなら最強じゃんか。普通はできないよ。それこそそういう結界でも見てない限りはね。……誰の結界?」


「じいちゃんの」


「大英雄か。……ってことはもしかして、あの人は見たことあるのかな……?」


 だがまさか……あり得るのか? じいちゃんが“果ての地”に、つまり根源ルートに至ってたなんて……。


 そもそも、おれがじいちゃんと過ごしてたときはあの人が大英雄と呼ばれるほどすごい人だとは知らなかったのもそうだが、おれはじいちゃんの“異常な気配”を感じたことはなかった。


 そこまで圧倒的な人だとは……いや、ただおれの前では力を見せなかっただけだろうけど。おれだって子供の前ではそうそう力を出さないしな。だが、少しでもその可能性があるとするのなら……。


「じいちゃんの部屋を調べるとしよう」


「にーさんの家の? 調べたことないの?」


「おれは本とか読むの苦手だからな。アミシア、ここの書庫から地図と結界に関する本を持ってってもいいか?」


「ああ、必要なら好きに持っていってくれて構わないよ」


 アミシアにお礼を言い、食事を済ませてからおれとサタンは屋敷の書庫へ向かった。獄境には本というものは現世よりは少ないのだが、ここの書庫には大量の本があるようだった。一部は現世から取り寄せたものも見られる。これだけの中から目的のものを探すのはなかなか疲れるな。


「うーん……。にーさん! やっぱり“果ての地”に関係してそうな本はなさそうだ!」


「だろうな。おれは地図と結界術の本を見つけられたけど、お前は何か持ってくのか?」


「いや、いいかな。ボクも本とか読まないし」


「そうか」


 サタンがいいならもう書庫で探すものはないかな。何か必要になりそうなものがないか一応探してみてはいたけれど、ここにはそこまで重要そうな情報の記されたものはなかった。


 となると、もうこの屋敷を出ておれの家のじいちゃんの部屋を漁るくらいしかないな。そこに“果ての地”か根源ルートの情報があればいいのだが……。なかったとしたらまた適当に練り歩くしかなさそうだ。


「じゃあ世話になったな、アミシア。お前が血の気の多い魔族じゃなくて助かったよ」


「現世に攻め込んでいないということはそういうことだ。大人しかったからまだ生きているんだ」


「ははっ。それもそうだな」


 現世に攻め込んできた魔王は、全て現世で殺されている。つまりアミシア以外の魔王はもう全て殺されている。だからこその“最後の魔王”だ。


 ……ああ、いや、そういえばおれも魔王ではあるけどな。そう思うと……。


「あんたに会えて良かったよ。アミシア」


「ああ、私もだ。お前が生まれたころ、すぐに捨てられてしまったが……あのとき助けられなかったことをずっと後悔していたんだ。弟を守るのが姉の務めだろうに、ただ一人の弟なのに……とな。愛情を持った魔族なんて……そんなことを知られたら、私が除け者にされると思って、怖くて助けられなかった。だからこんな私が姉と名乗ることは許されないだろうが……まぁなんだ。お前が生きていてくれて嬉しかったよ、エスト」


 ああ、そうか。初めてアミシアを見たときに彼女の持っていた恐怖心は、おれやサタンに対してではなく、おれを見捨てた過去の彼女自身に対するものだったのだな。


 魔族にも愛情があるのか。その答えはおれやユリハを見れば明らかではあるが、それは確実に少数派であるはずだ。凶暴な種族である魔族の中にそんな平和的な感情を持つ者が現れれば、そいつは間違いなく嫌われ迫害される。ゆえに幼い彼女が己の感情を周りから隠していたことは、自己防衛のために必要なことであったはずだ。


 それを今更責める気もないし、記憶にもないものをどう言うつもりもない。


 ただ、“弟”という響きはなかなかに心地の良いものだった。おれに対して、そういう庇護的な感情を示してくれたのは今までにじいちゃんくらいしかいない。


 おれを弟と呼ぶ者に会うのはアミシアが2人目であったが、彼女の声には確かな愛情が籠っていた。思えば彼女はおれのことを敵として見ていなかった。だからだろう、おれは彼女を身内として認識するのに抵抗がなかった。


「ああ、またな! 姉さん!」


「!! いつでも遊びにこいよ! 今度はお前の友達でも連れてさ!」


 おれはアミシアに手を振って屋敷を出た。会えて良かった。おれは確かに、心の底からそう思った。


「聞いた? “今度は”だってさ。ボクはにーさんの友達じゃないのかな?」


「そうだな。良くて悪友ってとこだ」


「悪ゆ……ッ!!?」


 おれとサタンは屋敷を出てから数時間ほど南へ下り、そして開けたところに家を出した。じいちゃんの部屋を調べれば何か分かるかもしれない。けれど、何も分からないかもしれない。


 期待と不安の感情を入り混ぜながら、おれ達は一つの部屋へと足を入れた。

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