第53話 知ってる
「お手並み拝見と行こうか」
「? 何か?」
「いや、サタンの話だ」
魔物の大群はまるで軍隊のようであった。前方は狼型や猪型のうちやや小型な魔物が、そして後方には竜型の大きく、そして強大な魔物がいた。そしてその全てがBランクを超える魔力を有している。
これほどの魔物の暴走が現世で起きようものなら、法帝が出ない限りは街も国も滅びることであろう。それゆえに恐ろしさもあるが……さて、果たしてサタンはどう対処するのか。
いや、彼女ほどの力を持っていれば魔力放出だけでも殲滅することはできるだろうけど、どんな芸を見せてくれるか。
「じゃあやろうか。にーさん、たぶん一瞬だから目を離すんじゃないよ」
屋敷のベランダから魔物の大群を眺めていたサタンは、おれが作った目玉にそう話しかけ、魔力を練った。彼女の魔力は世界を侵食し、そして能力は発動した。
「『怒りの殲滅』」
「『召雷』!!」
サタンがそう唱えて腕を振り下ろすや否や、天空から雨のように雷が《《降り》》注いだ。何十万もの魔物を殲滅するまで絶え間なく雷が降り、世界中に鳴り響く轟音とともに大気を蒸発させた。
ほんの数十秒、雷が降り注いだ後は大地に巨大な穴が空き、空間の歪みを修正するために世界が唸っていた。
「す、スゲェな……! これほどとは……!!」
正直侮っていた。いや、サタンの力は恐ろしいものだとは思いつつ、それでもその力の一端はおれの想像を遥かに超えるものであった。
見渡す限りの焼け抉られた大地、消滅した大気、そしてサタンに支配された天空。アスタロトやルシフェルのような世界の法則に逆らうような力ではなく、世界そのものを完全に支配する力、それがサタンの能力だった。
世界の有する潜在能力そのものが、サタンの力の領域なのだ。恐ろしいほどに大きく強い力におれは恐れながらも、おれを遥かに超える偉大な力に高揚していた。
ほんの片手間に駆り出される技が、おれの全ての力を凌駕していた。恐ろしい、面白い。これほどまでに“ワクワクする”という言葉が当てはまる感情はない。
おれは視界を右目に戻し、料理を仕上げた。料理と呼べるほど手の込んだものでもないけれど、味としては申し分ない。食卓に皆を呼び、そこにスープとパンを並べた。
「うん! 美味しい! さすがだね、にーさん。それで、どうだった? ボクの技は?」
「想像以上だったよ。この前言ってた“第三以上の魔神にはそれぞれ隔絶した差がある”って言葉の意味を理解できた。お前はおれが今まで見た何者よりも圧倒的に強い」
「ははっ! そんなに褒められたら照れちゃうな」
実際、大抵の術なら模倣できるおれでもあれほどの技は模倣できない。絶対に。あの威力を再現することはできたとしても、魔力の支配域や流れを写すことは不可能だ。
「ま、それは置いといて。アミシアちゃん、一つ尋ねたいことがあるんだけどいいかな?」
「私に答えられることなら何でも構いませんよ」
「ボク達ね、あのー……“果ての地”っていう世界の外側に繋がる場所を見つけるために旅をしてるんだけどね。その手掛かりを何か知ってたりしないかな? 何でもいいんだよ。獄境で違和感のある土地でも何でも」
「世界の外側……申し訳ありませんが、私が生活してきてこれまで世界に違和感を抱いたことはなかったですね。その“果ての地”とか世界の外側について少し詳しく伺っても?」
サタンはざっくりと根源の説明をした。
三つの世界が交差する地点が世界の外側に繋がっている、つまり“果ての地”が恐らくどこかに存在しているということ。
その地を見つけることができればあらゆる物、法則の原点である根源に至れるであろうということ。
ただその“果ての地”というのは神々を含め未だに誰も見つけられておらず、根源というのも力や概念として存在しているだけで“見つける”ことができるものなのかすら分からないということ。
「……話を聞いても心当たりは……。書庫に行けば何かしら獄境中の情報が書いているものはあると思いますけど……そもそも実在するので? 世界を掌握している創造神ですら知らないのであれば至れるものだと思えませんが」
「まぁそれはそうだよな。おれもそこは疑ってるけどよ、まぁロマンだよ」
「でも実際その問題は考えないといけないよね。まぁ埋められない穴があったら隠すだろうけどさ、だれも見つけられない隠し方っていうと……幻術とか、認識阻害の結界とかそんなところかな? 例えば人の魔力に直接作用して認識させないとか」
「だがそういった術は何かしらの刺激を得た上で発動するものでしょう? 何かを見るとか触るとか……接触がトリガーになるはず。だとしたら噂程度にはなると思いますけどね」
「だよねぇ……。やっぱボクらの理解には及ばないナニかに隠されてるのかな……」
おれは幻術やら結界術やらには疎いのだが、認識を阻害する、つまり他者の脳に働きかけるにはトリガーとなる何かしらの刺激が必要ということなのか。何者かの魔力や魔素が直接他者の脳に影響を与えることはないのだな。…………ん? ……あれ?
「あの……」
「どうしたの? にーさん?」
「おれ……刺激を与えずに認識を阻害する結界を知ってる……っていうか見たことあるかも」
「…………えっ??」




