第05話 神の子
「おれ別に悪いことしてないんだけど……許してくんない……すかね? ウー……」
「ウーラリードだっつってんだろ。俺に喧嘩売っときながら悪くねぇって?」
「いや、別に売ってねぇじゃん……じゃないっすか」
おれは牢屋の前に残されたウーに話しかけていた。ここに残ったのは彼と取り巻きの2人だ。全く……先に突っかかってきたのはコイツだって言うのに。なんでおれの方が牢に入れられているんだ。
「それとも何すか。こんなくだらないことに時間を割けるほど暇なんすか」
「……こんなくだらないことをする奴なんていねぇんだよ……!」
やっぱり機嫌が悪いな。コイツはいつでもそうなのか。……だったらわざわざここにいる義理もねぇ気がするなぁ……。
「とはいえ、別に拷問しようって訳じゃねぇよ。俺達ゃそんな野蛮じゃねぇからな。お前が二度と俺達を侮辱した行動を取らねぇってんならすぐに解放してやるよ。なんなら傘下に入れてやっても構わんぜ」
「だから謝ってんじゃん。……すか。ホントすんませんでしたって」
「誠意が感じられねぇよ。……じゃ、今から5秒ごとに指の骨でも砕いてくから、心の底から謝るんだな。全部砕いたら回復薬使ってもう一回やってやるから安心しろ」
「拷問じゃねぇか」
ウーはそう言ってでっけぇハンマーを取り出した。……指の骨って言ったくせになんでそんなにでけぇんだよ。頭おかしいんじゃねぇか?
……さて、どうしようか。こうなると穏便に、とはいかないよな。もう普通に脱出してしまおうか。どうせセリアの元まで行けばそれ以上追われることもないだろうし。……まぁそもそもそんなに追われるかも分からんけど。
っていうかこの鎖はパーセンダが離れても消えないのな。おれじゃなかったら厄介この上ないな。
「ッ!? なッ……!??」
ウーが牢の扉を開けた途端に、おれは時間を停止させて3人を牢にぶち込んだ。おれの能力は常に昇華している状態だ。全力を出せる時間は限られているけれど、人の能力を模倣するなんてのは朝飯前だ。
……それにしてもデモンゲートの能力は便利なものだな。本家と違っておれの場合は1秒程度しか止められないとしても、その間は悪いことし放題だ。連発できないのが欠点か。……それにしたってだよなぁ。
「悪いね。誰かが来るまでおれの代わりに捕まっといてくれ。少々役不足かも知れんがな」
「何しやがったテメェ!?」
叫ぶウーを無視して、再び時間を止めて外に出た。これでおれの行く先は誰にも見られていない。これなら安心して旅を続けられる。
……と言っても隣町に行けば港があるからな。まずはリンシャさんに会うとして、魔界に着くのもあと数日だろう。おれは急ぎ足で隣の港町へと向かった。
半日ほど歩いて、街のベンチに腰を下ろした。東大陸へ行く船は30分後だ。それまで身体を休ませておこう。
「ふぅー……。疲れたな……」
おれは額に手を当てながら空を眺めた。能力を発動する間隔が短すぎたかな。あまりに疲れちまった。魔神と戦ってから適度に力は使ってるけど……やっぱ慣れても無駄というか、身体の限界というか……。
今更ではあるけれど、肉体が弱ってるのは好ましくないな。……魔族とも和解した今、大した脅威がある訳でもないけれど。それにしたって衰えを実感するのは悲しいものだ。
脱力した状態でベンチに座っていると、後ろで何かを呼ぶ声がした。
「ーさん! にーさん! 聞いてる!?」
「うん? ……どちら様で……?」
頭上から声がしたので目を開けてみると、知らない少女がおれの顔を覗き込んでいた。歳は20かそれ以下ってとこかな。ツインテールの桃色の髪の少女だ。なんだか活発そうな雰囲気だな。
「長い白髪に赤い瞳。やっぱパルセンダさんのとこが探してる人じゃん!」
「え……。おれって探されてんの?」
「そりゃあもう……逃げられたって騒いでたよ。“これじゃあウチの面子が立たんやろうが”って怒ってたよ」
あぁ……怒らせちゃったっぽいな。まぁいいか。どうせすぐ東大陸に行くんだし。
「君は……おれのことを捕まえに来たのかい?」
「まさか! 英雄様に手を上げたらどうなるか分からないからね」
「……何者だ? 君は」
「神の子。にーさんと同じようなもんだよ」
神の子……ってことは天使か。敵対するつもりじゃないなら何者でも構わないが……。
「おれに何か用か?」
「別に? 天界じゃ有名だからね。傲慢なあのルシフェルを殺したって。堕天とは言っても天使が殺されることはそうそうない。しかも創造神や破壊神にも並び得る魔神ともなると……天界じゃ知らない子はいないよ。だから一目見てみたかったんだ」
死んだ魔の者は“地獄”へ行き、聖なる者は天界へ行く。要は天国のようなものだ。ただし、天界には神々も住んでいる。むしろ神々の住む土地に死者が招かれているようなものだ。
天使達は天界と現世を自由に行き来できるようだが……おれを見るためにわざわざ来たのか? ……まぁそんなこともあるか。
「光栄だね。天使様がわざわざ会いに来るなんて」
「でもがっかりだ。いや、仕方ないけどね。にーさん、随分弱ってるでしょ? 確かに本気を出せば今でも魔神と戦えるだろうけど……長く保たないでしょ」
「そりゃ悪かったね」
「でも気を抜いちゃダメだよ。いつまた戦うか分からないんだから。これはボクからの忠告ね。ボクだってにーさんが弱いと面白くないから」
「?」
少女はそう言って姿を消した。名前を聞くのを忘れてたが……まぁいいか。それより随分と明るいヤツだったな。一言で天使と言っても個性があるようだ。その辺は人間と、生き物と同じなのかな。……そりゃそうか。
……と、いつの間にかそろそろ時間だ。乗り間違って会うのが遅れたなんて、洒落にもならねぇ。




