第49話 親
「おじ様!!」
「ユリハ! 元気にしてたか!?」
獄境に入り、ユリハの城に到着すると彼女は待っていたかのように飛び出してきた。元気いっぱいなのを見ると嬉しいな。頭を撫でると、やっぱりこの子も子どもなんだなと思う。
「お話は聞いています。旅に出るとか……なのでもう少しこのままでいさせて下さい」
「構わないよ。だけどたまには帰ってくるから。そんなに悲しまなくてもいいよ。……あ、そうそう」
ユリハに会いに来たのはこの指輪を渡したかったからだった。2つのうち片方をおれの空いてる指にはめ、もう片方はユリハに渡した。
「ユリハ、これを上げるよ」
「これは……?」
「指輪だけどね、ウーラリードの……転移術を付与してあるんだ。元々マークしたところに転移するって術なんだけど、それを応用してどれだけ離れていても音を送る魔道具を作ったんだ。指定された二つの魔石でしか音を飛ばせないけどね。距離や使う時間にもよるけど少なくとも2〜3回は使えるはずだよ。何か困ったことがあったらこれを使っておれを呼ぶんだよ。いいね?」
本当はもっと量産しておきたかったのだけれど、術の付与はなかなか上手くいかない上に、上手くできたとしても体力の消耗が並ではなかった。“闇の王”の力だかなんだかが覚醒して今まで以上に緻密な魔素の操作が可能になった今でもなお、それは簡単ではない。
「あ、ありがとうございます。……でもこんな貴重なもの、その……いただいていいんですか?」
「? 何言ってんだ。当たり前だろ。お前はおれ達の大事な娘なんだからな。危険がないように守るのは当然、むしろもっと過保護にしたいくらいなんだから」
「……!!」
ユリハの喜ぶ顔を見るだけで、おれは空いた心が。おれの実の娘ではなかったが、そんなことは関係ないほどに大事な存在だった。
この子自身はおれを親だなんて思ってないだろうし、そのように接した時間はあまりにも短いけれど、それでもやはり、おれとセリアの娘はユリハしかいなかった。
「ありがとうございます! お、お父様……!」
「“おと……”ッ!!」
頬を赤らめながら言われた“お父様”という言葉に、おれは心臓を貫かれた。これが……これが“破壊力”というものなのだと、おれは初めて理解した。
「お、おう……。くれぐれも、使うのを惜しむなよ。使い切ったらまた作ってやるから」
「はい! またお会いしましょう!」
「フリナ、ユリハのことはこれからも任せたぞ。おれから言うことでもないだろうけどさ」
「ああ、当然だ! 私はお前以上にユリハを娘だと思ってるからな!!」
そうだな、そうだよな。この2年、誰よりも支えてくれたのだから……。おれが今更頼まずともフリナはユリハを助けてくれるだろう。
だけど頼まずにはいられなかった。ユリハに危険が及んだとき、おれが守りに行くまでの少しの時間はフリナにしか守れないのだから。
「じゃあ頼んだぞ! またな、2人とも!!」
「ああ! せっかくの旅なんだ! 楽しんでくるんだぞ!」
手を大きく振っているユリハとフリナに挨拶をして、おれは城の外にいるサタンの下へ向かった。
合流すると、おれ達は半日ほど北に進み、夜は焚き火を焚いて今日は野宿することにした。おれはシチューを作りながらサタンに話を振った。
「とりあえず、一応これからのことを復習っておこうか。まずお前は世界の外側、根源を見てみたい。でもそこに至るのはたとえお前でも難しいから、世界に縛られない、つまり根源に至れる可能性が高いおれが協力すると。そして根源に至れた暁にはお前はおれと殺し合いをする、でいいよな?」
「そうだね。……あ、いや。一つ訂正っていうか追加だけど」
「? 何かあったっけ?」
「美少女との2人旅でにーさんはだんだんとボクに恋をしていく」
「しねぇよ。おれは生涯一途だ」
つまんないの、と笑いながら言うサタンに、おれは出来立てのシチューを装った椀を放り投げた。くだらないことを言い合うような暇はない……こともないけれど、そんなことを言うほどの仲でもないだろうに……。
おれは多少の居心地の良さと悪さを感じながら自分の分のシチューも椀に装った。そしてそんなおれの様子をサタンはチラチラと見ていた。いや、厳密に言えばおれの腰に差している刀を。
「にーさん、前から気になってたんだけど、その刀ちょっと見せてくれない? いや、人の得物を見せろなんて失礼だとは思うんだけどさ」
「これか? まぁ見せるくらいなら構わないけど」
そう言いながら刀を腰から抜き、サタンに手渡した。彼女は恐る恐るその刀を受け取り、そして鞘から半分ほど刃を抜いてまじまじと見つめていた。
刃の輝きや魔力の伝導性を見ているようだ。そんなに気になるものなのだろうか。
「ねぇにーさん、これって“鬼火舞”だよね? 地獄の名刀……」
「お、知ってるのか? 昔地獄に行ったときにさ、なんか山のてっぺんに突き刺さってたんだよな。誰も抜けないって言われたんだけど、思ったよりあっさり抜けてさ」
「…………名剣とか名刀っていうのはさ、作り手がいない、世界に固定されたものなんだよ。“世界に縛られない”力を持ってたにーさんだったから抜けたのかも知れないけど……まぁそこはいいや」
「そのときは昇華してなかったけどな。まぁその力が潜在的に存在してたんだろうけど」
「ボクが言いたいのはさ、作り手がいないってとこなんだよ。有名な鍛治師が作ったとかじゃなく、誰も作ってないんだよ。それこそ創造神もね」
“じゃあ誰が作ったと思う?”とサタンは聞いてきた。お前が誰も作ってないと言ったのではないか。あらゆるものを作った創造神でも、どこぞの鍛治師でもないともなれば……それは…………世界か? ……いや、違う! ……そういうことか!
「そ。それらは世界の外側から来たもの、つまり根源が直接この世界に送り込んできたものなんだ。神々以外の直接根源と関わっているもの。つまりこれはもしかしたら……」
「根源の情報を持っているかもしれない! …………いや、喋れないんだし情報なんて得られなくないか?」
「喋れなくとも問題はないよ。だってこの刀の力を辿れば……辿り着く可能性がある!」
興奮気味のサタンとおれは、互いに手を打ち合わせた。正直、可能性としては決して高くはない。けれど、何の手掛かりもない状態ではなくなった。
これならいくらでも試すことができたというわけだ。まだまだ旅は始まったばかりだというのに、少なくともこの瞬間は、おれ達は大きく進歩したように感じた。




