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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第六章 襲来
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第45話 やっぱり

「そうだな……。私達はね……」


 ダルゲートさんは瞼の湿りを拭って口を開いた。どこか嬉しそうで、どこか悲しそうな目をしていた。


「私達はね、ギルバートもセリアも、冒険者になってからはいつ死んでもおかしくはないと思っていたんだ。覚悟はしていた。けれどやはり……こう短い間に2人とも失うのは……辛いことだな。そしてそれ以上に……。セリアの最期に立ち会ってくれたのが君で良かったよ。本当に……ただ1人悲しく魔神に殺されていたかもしれないと思うと……あの子が心の底から愛していた君と、最期に会えて本当に良かった。ありがとう……! 私からは、ただそれしか言えないよ……!」


 感謝されるようなことはしていない。けれどそれは、人からすれば感謝するほどのこと、あるいは感謝してもしきれないほどのことだったりする。


 本当は、おれはもっと謝りたかったのだけれど、どうやらそれは失礼になりそうだ。おれは大人しく感謝の言葉を受け入れ、そしてそれ以上に感謝の言葉を伝えた。


 ただでさえこの空間は辛いんだ。せめて言葉だけでも、幸せなものにしたっていいじゃないか。


「おれ、セリアから能力スキルを受け継いだんです。たぶん、セリアが継承能力者インヘリットだったのに加えて、おれには魔力回路が存在しなかったからできたんです。本当はこれは……グランデュース家の方に渡したかったんですが……」


「!? ……不思議なこともあるもんだな。だが、それは君が受け取ったものだろう。心配するな。セリアが誰よりも愛していたのは君だし、セリアを誰よりも愛していたのも君だ。あの子のことに関して、君が遠慮することなど一つもないのだよ。父親として、心からそう思う」


「そう言ってもらえると嬉しいです。渡したいのも本心として、手放したくないのも本心でしたから」


 実際に手放すなんてことは不可能だけれど、能力スキルに関して黙っておくわけにはいかなかった。隠し事をするわけにはいかなかった。


「エスト君、今日はここに泊まっていくといい。空き部屋ならいくらでもあるからな。それと……2、3日ほどエリスの面倒を見てくれないか? 少しでも……これ以上子を亡くすことがないようにしたいんだ……」


 子が親より先に死ぬなどということは、この上なく辛いことだろう。おれは親ではないけれど、その気持ちは理解できる。……彼らの苦しみを完全に理解しているなんて言えないだろうけど、少なくとも分からないなんてことはない。


「さっき、簡単な結界はかけておきました。エリスに害を為すものは全て弾きます。……あくまでも、おれの力を大きく超えない限りは、ですが」


「はっはっ。それなら問題なさそうだね。ありがとう」


 ダルゲートさんの言葉はどれも重かった。おれは2000年も生きていながら、彼ほど大きな存在にはなれていないような気がした。精神の成長が遅いのは、寿命の長い者の欠点だな。おれは深く頭を下げて部屋を出ていった。


「はぁ……彼にはもっと感謝しないといけないのに……私はダメだな。感謝の涙より、悲しみの涙の方が流れてしまうなんて……」


「ダメなもんですか。……悲しむことは……悪ではないんですから。どんな立場でも……泣いたっていいんですよ……」


「君はいつも私を支えてくれるな。……ありがとう……ティア……」


***


「お、エリスか。どうしたんだ?」


 ダルゲートさん達との話を終え部屋を出ると、そこにはエリスが待っていた。ダルゲートさん達に会いにきた……ってわけじゃないよな。雰囲気からするにおれを待っていたようだった。


「義兄さん……少し……いいですか?」


「ん? ああ、おれはいいけど」


 おれはエリスに腕を引っ張られ、彼女の部屋へと案内された。泊まろうと思っていた部屋からは反対方向であった。


 そして椅子に座らされると、エリスは何かを話そうとしていたけれど、どうにも話し出せずにいた。あぁ、なるほど。そりゃそうだよな。


「…………セリアのことかな? おれで良かったらなんでも話してごらん。悩みを晴らせるかはわからないけどね」


「……お姉様が亡くなってから私……どうしたらいいのか分からないんです。……私はお姉様をすごく尊敬していて、大好きでした。だから……お姉様が亡くなって、悲しいって思うのは当たり前だと思うんですけど……。1週間経っても、立ち直れなくて……この世界に……希望が持てないんです……。いつか、私の(チカラ)をお姉様に褒めてもらうのが……認めてもらうのが夢だったから……。でも、いつまでもこのままじゃ、それこそお姉様に怒られちゃうから……私も立ち直ろうと頑張ってるんですけど……やっぱり…………」


 エリスは泣きながら、途中途中言葉にならないほどに泣きながらそう話した。まだ小さな子が、大好きな人を亡くしたらどれだけ辛いか。おれはじいちゃんと別れたときのことを思い出した。


 自分を導いてくれる人の死というのは、照らされていた世界が急に闇に包まれるような感覚だ。それはたとえ何年経とうとも、ふとしたときに蘇るほどに辛いものだった。


 そんなとき、セリアがおれを助けてくれたのだけれど、自分を助けてくれる人に会えるかどうかは運任せだ。じゃあ会えなかったらいつまでも闇の中なのか。闇の中から出られないとしても、それは悪いことなのか。おれはそうは思わない。


「エリス、いいかい。辛いことは、何も乗り越えなきゃいけないわけじゃないよ。ときには目を逸らしたっていいんだ。逃げたって構わない。事実を認めて、それを乗り越えるまで自分の中で強く保っておけばいい。ただ自分が死なない(負けない)ように、逃げて、ときどき立ち向かって、それでいつか勝てればいいんだよ」


「……いいんですかね……。今は負けてても……」


「“今”を急ぐ必要なんてないよ。生きてるのは“今”だけど、生きるのは“未来”なんだから。」


 おれはそう言ってエリスの頭を撫でてやった。おれの答えが、答えとして正しいのかは分からない。幼い少女にかけるべき言葉は他にあったのかもしれない。けどやっぱり……のらりくらりと生きていた方が、楽じゃないか。

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