第43話 伝言
「……それで、“果ての地”を探すっつってもどうすんだ?」
「力の偏り具合からするにこの星を出ることはないだろうね。もし出たとしてもボク達じゃどうしようもないし。ま、ボクがアスタロトを片付けるまでは自由にしてていいよ。その後は獄境で探そう。獄境は基本的に地続きだから現世よりはいくらか探しやすいんじゃないかな」
「そうか。じゃあとっとと帰ってくれ」
「待って! まだお茶飲み切ってない」
サタンはカップに注がれた紅茶をグイッと飲み干した。別にそこまで急がなくたっていいんだが……。まぁでも早く帰ってくれるならそれに越したことはない。おれはサタンを城から追い出し、グラとジルアードのところに向かった。
「話は済んだのか?」
「ああ。しばらくしたらアイツと一緒に獄境を旅することになった。だから長いこと空けることになるかな。あ、でもアスタロトのことは片付きそうだから国民帰ってきても大丈夫だと思う」
「なんでそうなったのかが気になるが……まぁお前も旅に出た方が気分も楽になるかもしれんからな。好きにしろ」
「旅というのなら私もご同行……」
「お前は国を頼むよ」
「くぅッ……!!」
「いや、嫌なら出てってもいいけど……」
「いえ! 主の命令とあらば私はそれに従います!」
「お前ホントデムに似てきたよな」
どうしておれを慕うようなヤツはみんな変になってしまうのだろうか。……おれが変なヤツだからか? いや、これほどまでではないだろう。たぶんこう……変なヤツだけを惹きつけるフェロモンみたいなのが出てるのだろう。
「でも旅に出るのはもう少し後のことだから……それまでにイリアの見舞いとグランデュース家に挨拶でもしてこようかな」
イリアはデムの件で気に病んでいるかもしれないし、グランデュース家の方にはちゃんと知らせておかなければいけない。
「かなりの遠出じゃな。そんなに余裕があるのか?」
「いや、短い距離を転移しながら向かおうと思うよ。だからそんなに時間はかかんないかな。イリアに伝言でもあるなら伝えてくるけど?」
「別にないな。……とっとと元気になれとでも伝えてくれ」
「そうか。……もしおれがいない間にサタンが来たらおれの部屋を自由に使うようにしてくれ。帰ってくれるならそれが一番いいけど、たぶん帰ろうとしないから」
「了解じゃ。気をつけていけよ」
大丈夫だよ、と言っておれは部屋に戻り、外出の準備をした。今から出たらイリアのところへは今日中に到着するだろうが、プリセリドまでは行けないはずだ。帰ってくるのにも1日かかるだろう。
おれは金やら食料やらを空間収納の中に入れ、白銀狼のリルを連れて国を出た。
***
「イリア様、エスト様がお見えになりました。お通ししますか?」
「エストが? ……ああ、通してくれ」
大きな病室のベッドに、彼女は寝ていた。未だに傷が癒えないようだ。おれは重い扉を押して部屋に入った。全身に包帯を巻いていて痛々しい姿だ。
「よう、元気か?」
「この姿を見てそう聞くのはアンタくらいだろうな。まぁアンタよりはよっぽど元気さ」
「目ぇ悪くなったか? おれはどこもケガしてねぇよ」
「いくらかケガしてた方が心配しねーんだけどな」
おれは苦笑しながらイリアの横に座った。だいぶマシになったとは思ってたんだが……まだ顔に出てるのかな。それか雰囲気が暗いかのどっちかか。
「治してやろうか? 欠損は無理だけど、組織を回復するくらいならできるぞ?」
「……いや、いいよ。治すつもりならとっくに治してる。これは俺への戒めだ。……デモンゲートの件、悪かったな。俺がもっと強ければ……」
「そう自分を責めたっていいことないぞ。デムは勝つために戦ったんだ。お前がいなくてもアイツは死んだし、お前がいたからアイツは勝ったんだ。だからむしろ胸を張れ」
「エスト様の仰る通りだ。お前ごときがこの俺を守ろうなぞ100年早いわ」
「本人もこう言ってるんだし…………!?」
本人……? おれは声の主を確認するために振り返ると、そこには確かにデムが立っていた。気づかなかった。一切の音がしなかったのに……いつだ? いや、それ以上になぜ生きている?
「お前……死んだんだよな? 生きて……るわけじゃねぇのか?」
確かに姿も形も、魔力の感じもデムのものだけれど……何かが違う。雰囲気か……魂の形が何か変わっているようだ。
「確かに、私は殺されました。私自身も驚きましたよ。まさか天使を喰らっていたために一時的に天使に転生するなどとは……。ゆえに力はほとんど封じられておりますが、こうして再び現世に舞い降りることが可能となりました」
「ああ……なるほど?」
そう言えばコイツは“神喰らい”だったか。天使の魂でも継承しちまったのかな。良いのか悪いのか……。
「ま、そういう訳だからよ。あんま自分を責めるなよ。それを糧に強くなるのはいいけどよ」
「…………そうだな」
「エスト様も、セルセリア様が仰ってましたよ。自分を責めるなと。エスト様が来たからこそ安心できたと……伝言でございます」
「……天界で会ったのか。…………そうか」
「人のこと言えねーんじゃねーかよ」
実際に会えはしなくても、話を聞けるだけで嬉しいものだ。ただの伝言だというのに、少しばかり目頭が熱くなった。しばらくの間先の戦いの話をしていると、おれは言われていたことを思い出し、空間収納からリンゴを取り出して渡した。
「そうだ、伝言と言やぁグラが“とっとと元気になれ”だとよ」
「はっ! 上から目線なヤローだぜ。……ありがとうな。気が楽になったよ」
良かったよ、と残して、おれは部屋を出ていった。1時間くらい話していただろうか。意外と長く喋ってしまい、外に出ると少し空が暗くなっていた。
「デム、お前はいつまで現世にいるんだ?」
「今日中には引き戻されますよ。今無理して出てきてますから」
「なんか幽霊みたいに言うのな」
おれは今日はこの街で過ごすことにした。デムが天界に帰るまでは2人で適当に過ごし、そして別れた。デムは言葉の通りに光になり、そして天に帰った。




