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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第六章 襲来
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第42話 イカれてる

「話し合いだと……?」


「そ! 言葉の通りただ少し話にきた。でもにーさんとボクの2人でね。悪いけど他の人に聞かせるつもりはないよ」


「……分かった。ついて来い」


「ヤッタ!」


 おれはグラに、誰も部屋に近づけないように伝えてサタンを連れていった。話し合いなんて気は乗らないけれど、コイツの気分を害するよりはよっぽどいい。


 間違いなく、コイツは今まで戦ってきたヤツらとは次元が違っていた。おれが本気で戦って足止めができるかどうか……だから絶対に怒らせるわけにはいかない。


 幸いにも敵意はないようで、本当に話をしにきただけらしい。サタンを連れておれの部屋に到着し、向かい合うように椅子に座った。


「いきなり部屋に連れ込むなんて……にーさん意外と大胆だね!」


「……帰りたいのか?」


「すみません、うそです」


 調子が狂うな……。本当にこんなヤツが最強の魔神だってんだから困ったもんだ。


「一つ言っとくけどな、おれは話し合いなんてするような気分じゃないんだ。知ってるだろ、つい先日アスタロト達(お前の仲間)が攻めてきたからな」


「分かってるよ。承知の上さ。……ねぇ、客には茶菓子でも出してもてなしたら?」


「突然の来訪者は客なんて言わねぇ」


「うー……ん……。でもお腹空いたよ!! なんかないの!?」


「悪いな」


 騒がしいヤツだ。何か……あったか……。いや、ないな。大したもんは持っていなかったから、空間収納アイテムボックスから紅茶だけ出してそれを飲ませた。お茶だけかと落胆しているのがまたムカつく。


「で? 話ってのは?」


「アスタロト達がなんで現世に攻めたのかは知ってるね? 破壊神ディアゴルを降臨させようってことだったんだけど、ついさっき創造神サマが破壊神ディアゴルの力に制限をつけたんだよ。ま、端的に言えば封印だよね。それで“破壊神ディアゴル”って存在自体がもはや薄くなったんだよ」


「……じゃあつまりなんだ? お前らの目的は達成不可能になったと?」


「そ。アスタロトももう現世にちょっかいはかけないんじゃないかな。少なくとも当分はね」


「アイツに関しては一度おれ達と敵対したからな。アイツ自身が興味を失くそうとおれは許すわけにはいかねぇよ」


「だろうね。ま、それは本題じゃないよ」


 本題じゃないんかい。話をしろって言ってるのになぜ最初に寄り道をするんだ。


「元々第三以上の魔神はね、それより下の魔神とは存在としての格が違うんだよ。破壊神()の命令に背くことだってできる。まぁアスタロトは自分で考えるのがめんどくさくて従ってたけどね」


「へぇ。それは力が主に匹敵してるからなのか?」


「そう。まぁアスタロトとルシフェル、ボクの間にもそれぞれ隔絶した力の差があるから、実際に破壊神ディアゴルと対等以上の力があるのは封印される前のルシフェルとボクくらいだけどね」


「…………やっぱりお前は破壊神ディアゴルよりも強いのか?」


 被造物が創造者の力を超えることは珍しくない。けれど創造神や破壊神という絶対的な力を持っている存在を超えるということはあり得るのだろうか。


「そうだよ。で、話をちょっと戻すけど。主の存在を失くしたアスタロトはね、何か自分のやりたいことを見つけたっぽいんだ。そしてそれは聞いたところによると“世界を平らにする”こと。ふっふっふっ……まったく、面白いよね」


「平らにって言うと……全てを滅ぼすつもりか? んなことはさせねぇよ」


「だろうね。今のにーさんならアスタロトを止めるくらいなら造作もないでしょ? それはアイツ自身も分かってるよ。だからアイツは今、“果ての地”を探してるのさ」


「“果ての地”? なんだ、それ」


「三つの世界が重なる点、全ての世界に通じていながらどの世界でもない点。要は世界の外側から力の溢れてくる場所を探してるのさ」


「読めねぇな。それが何なんだ?」


「だからさ、世界の外側に存在する力を取り込もうとしてるんだよ。根源ルートから直接力を受けようってことだね」


「!? ……んなことできんのか?」


「世界に干渉する能力スキル根源ルートに近しい存在だからね。可能性は限りなく低いだろうけど、時間を遅くできるアスタロトならどうにかできるかもしれない」


 根源ルートはすなわち全ての始祖だ。神よりも上位の、世界という枠組みさえも作り出した、全てを支配している概念。それの力を借りるとなると……つまり神という存在をも超越するということになる。


 ……そんなヤツとは戦いたくないな。それこそなんでもアリな力をつけてくるかもしれない。


「でね、ボクもその“果ての地”には興味があるんだ。だって誰も知らないものだよ? 気になるでしょ?」


「……ならねぇって言ったら嘘になるけどよ。実際ずっと昔から創造神セスフ様や他の人達も存在を認知できなかったんだろ? お前もアスタロトも、十中八九見つけられねぇだろ」


「でも不可能とは言い切れないでしょ? それにホラ、にーさんの能力スキル、それって“世界に囚われない”力なんだし」


「あぁ……なるほど? つまりお前が言いたいのは……」


「ボクがアスタロトを殺しておいてあげるから、にーさんはボクに協力してよ。で、“果ての地”を見つけて根源ルートに触れられたら……殺し合いでもしない?」


 ……どこから突っ込めばいいのか……。同じ魔神である以上、おれよりもサタンの方がよっぽどアスタロトを見つけやすいだろう。それを片付けてくれるってんなら話としてはいいけれど……。


「やだね。お前が今以上に力をつけるとなるとどうしようもなくなっちまう。それにおれは殺し合いをしたがるほど戦闘狂じゃねぇのよ」


根源ルートから力を受けたとしても現世には手を出さないと約束するよ。いや、獄境にも、天界にも、相手がボクに手を出さない限りは何もしないよ。むしろボクがにーさんに勝ったら代わりに世界の全てを守ると約束する」


「……なんでそこまでして?」


「ボクはね、楽しいことがしたいんだ。根源ルートに近づいてみたいし、にーさんとも戦いたい。もはやにーさん以外の人じゃ面白くないからね。ボクが他所に手を出すメリットもないってわけさ」


 ……嘘はついてなさそうだ。コイツが世界を守ってくれるっていうならそれはそれでも良い気がするが……それを承諾したらおれも本気で協力して戦わなきゃいけないな…………。


「……いいだろう。お前がおれに代わって世界を守るっていうなら、それ以上の適任はいないだろうからな」


「ははっ! やっぱり乗ってくれると思ったよ! ……にーさんも大概イカれてるよね」


 おれはサタンと手を交わした。おれ以上に強いヤツが守ってくれるならおれが死んでも安心ってもんだ。……頭ではそう考えていても、実際おれが考えていたのは、今は責任も考えずに思う存分に発散したいということだったかもしれない。

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