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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第六章 襲来
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第37話 雨の降る大陸

「痛ったー!! ッ〜!」


 2人の魔神によってグラ達と分断されたセリアは地面に叩きつけられた。何本もの大木を折りながら飛ばされたため、当然、背中に激痛が走っていた。


「ッ——!! …………女の魔神……あなた、“色欲”のアスモデウスよね。それとあなたは?」


「我は第六の魔神・“暴食”のベルゼブブだ」


 そう言って、ベルゼブブはどこからか真っ赤な槍を一本取り出した。いや、恐らく作り出した。


 今の感じからするに魔力を血液に変換する能力スキルだろう。そしてその血液を自由自在に操るってところかな。


「ふふっ……私のことは知ってたのね」


「みんな知ってるわよ。ズーザミアの国王を殺した女の魔神。良かったわね、有名人よ」


「そう。……それにしても可愛い顔ね。ズタズタに切り裂いてあげたいわ……。毒に侵されて死ぬのと、刃に貫かれて死ぬの、どちらがいいかしら?」


「なんでそんなに強気なのか知らないけど、私は死なないわよ。死んだらエストが悲しむもの」


「ふーん……。悲しみに暮れればいくらか殺しやすくなるかしらね……」


 アスモデウスはそう言って微笑んだ。そしてそれと同時に、セリアも剣を抜き、炎を纏った。セリアの能力スキルは『炎の剣帝フレイ・ソードマスター』、彼女の剣は炎そのものであり、炎は剣そのものでもある。つまり身体中から溢れ出る炎は、熱と斬撃を伝える。


「『裂火剣スラッシュ』!!」


「ッ!! “血槍けっそう”!!」


 セリアはアスモデウスに接近して斬りかかり、ベルゼブブが槍でそれを防御した。が、槍ごと上半身を切り裂かれた。防御できるような斬術ならば、彼女はEXランクなどとは呼ばれない。


「ぐッ……!!」


「あなたを斬らなきゃ彼女は倒せないのかしら? ベルゼブブ」


 相手にしているのは第六と第七の魔神。本来なら力が余っているうちに上位の魔神を倒しておきたいところであるが、そんな簡単にはいかない。


 さっきからアスモデウスの身体から出ている妙な霧、それは恐らく毒だろう。既に森中が霧に包まれ、回避することはまず不可能。今はまだ指先が少し痙攣する程度で収まっているが……時間を掛けるのはマズい。


「……ハァ……魔法系ではなく……剣技系の能力スキルであったな。その炎も、それそのものが斬撃というわけか。……いや、それにしても少し変だな……」


「?」


 今度は両手に槍を持ち、セリアに襲いかかった。そしてその横からアスモデウスが濃度の高い毒の液体を飛ばしてくる。


 アスモデウスの能力スキルは間違いなく“毒”だ。しかも、中には催眠毒もあるはず。ならば時間を掛けたくはないが……。集中して一撃を当てれば重傷を負わせられるだろうが、そんな隙はなかなかできなかった。何度槍を斬っても、二度目はないと言わんばかりにすぐに反撃してくる。


 そしてそれでセリアの剣を弾いたところで、横から毒を飛ばしてくる。厄介な戦法だ。


「……お前の能力スキル、グランデュース家特有のものかと思っていたが……どうやらそれだけではないらしいな」


「何言ってるの? 私はグランデュース家の継承能力者インヘリットよ」


「エストに触れた影響か、あるいは元からか……。エネルギーを消滅させる(焼き尽くす)光の王の力を纏っているな。」


「光の……は?」


「アスモデウス!! コイツは想像以上に危険だ!! 本気で行くぞ!!」


 セリアにはよく分からなかったが、ベルゼブブは彼女を危険と判断したようだ。そして血の鎧を作り出して、槍もさらに強化した。槍は4本、8本、16本と増えていき、ベルゼブブの近くのそらに構えられた。それに対抗するように、セリアは炎の刃を無数に作り出す。


「『果てなき(エターナル)神秘の炎剣(ヘステス・イア)』!!」


「ッ!!」


「うッ!」


 空間を歪ませるほどの魔力を纏った何本もの炎の剣が、セリアを中心に渦巻くようにして2人の魔神を切り刻んだ。肉体の弱いアスモデウスは距離を取り、ベルゼブブは鎧を刻まれながら槍を振るった。


(……血液……か)


 ベルゼブブには何度も何度も刃を入れていた。傷は浅くないはずだ。それなのに大して怯む様子がなかった。


 恐らく傷を負ったその瞬間に血液を作り出して回復しているのだ。魔の者特有の高い生命力に加え、回復もするとなると即死の攻撃でしか殺せないかもしれない。


 セリアは攻撃をしながら手に握った剣に少しずつ魔力を溜めていった。彼女が長年鍛えてきた剣は、宝剣とも言えるほどに魔力を込めることができた。


「『フラグ……』ッ!?」


「ふッ……そろそろかッ!!」


 セリアが溜めに溜めた斬撃を出そうとしたところ、急にガクンと膝から力が抜け、魔力が分散した。おかしい……倒れるほどの力は使っていないのに……。


「うぐっ……」


 体勢が崩れたところを、ベルゼブブが握っている剣ごとセリアを蹴り飛ばした。剣はセリアの手から離れ、大地の割れ目へと落下していった。


「ハァ……ハァ………がはッ……!! ——ッ! なんで……。魔力は回してた……こんなすぐに毒が回るわけが…………ッ!!」


 セリアの身体は毒に侵され、いたるところから血を吹き出した。だが、魔力を回していれば治癒力も上がるし、能力スキルによって作られた毒ならば効きが悪くなるはず。それなのに、想定以上に早く毒が回っている。


「あなた、私の能力スキルが毒を作ることだと思ってるでしょ。残念、正確には毒に変換する力なのよ。酸素も魔力も、肉体さえも。私に近づいた時点であなたに勝ちはないのよ……ッ!!」


「うぐッ!! ああああ!!」


 アスモデウスはそう言ってセリアの腹部に蹴りを入れ、ベルゼブブの槍で肩を貫いた。セリアはなんとか立ち上がり、呼吸を乱しながらも強い眼光で2人を見つめた。


「はっ……はっ……」


「痛いでしょ? 感覚を鋭くする()にも侵されているでしょうからね。ただ蹴るだけでも、身体が抉れるような痛みがあるでしょ?」


 アスモデウスは笑みを浮かべながら話した。趣味の悪い女だ。抵抗するセリアを、このまま可能な限り苦痛を与えて殺すつもりだった。


「剣も失い、身体の自由もない。お前はもう我らと戦うことすらできんな。大人しくその首を差し出すというのなら、礼儀としてせめて楽に殺してやろう」


「ッ…………私が……どれだけ長く、近くで、最強を見てきたと思ってるの……? 知らないわけでもないでしょう……。私はネフィル=セルセリアよ……!!」


 セリアは力の入らない足でなんとか立ち上がり、そして拳に炎を纏って構えた。視界はぼやけ、そよ風にさえ痛みを覚えた。炎の剣を作り出す魔力も精神力も残ってはいない。けれど戦いを放棄するわけにもいかなかった。


「そうか……。流石だな」


 セリアは無い力を振り絞って魔神に突撃した。アスモデウスは後ろに下がり、ベルゼブブは手を天に上げて、空を埋めつくすほどの毒霧を含んだ血の槍を作り出した。


 5分間、赤い雨が降り注いだ。赤い雨が止んだかと思えば、熱気で乾燥していた空気が湿りだし、本物の雨が降り始めた。

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