第34話 強欲の魔神
「報告致します! 魔界にて魔神が3体出現したとのことです!! そしてエスト様が封印されたと!!」
「!! そうか! よし、ウーラリード! 魔界に転移する門を……ん?」
それは少しばかり時を遡る。魔界に3体の魔神が現れた直後、その知らせは北大陸に届いていた。こちらに備えられていた主な戦力はイリアとデモンゲート、そして転移用のウーラリードであった。3体……残る5体のうち、半数以上が魔界に出現したのは幸運であった。が……。
「魔界には3体出たのか!?」
「は、はい!!」
「……だとしたらあと2体、いや、1体はこっちにくるはずだ。魔界に行くのはやめだ! 警戒態勢を……!!」
途端、どこかから巨大な魔力が発生した。安定していない、嵐のような魔力であった。そしてその魔力が風を吹くように建物を、大地を揺らした。
「!! 全員伏せろ!! 吹き飛ぶぞッ……!」
イリアの声を聞いた全員が、姿勢を低くした。次の瞬間、魔力によって地面から1メートル高い地点から上にある全てのものが吹き飛び、一帯は更地と化した。
北大陸も一般市民は他国に避難しているため被害は出ていないが、それにしたって規格外な破壊規模であった。そして上空に、ただ1人、何者かが立っている。言うまでもなく、その魔力の持ち主。
「ウーラリード!! 全員連れてどっか遠くに逃げてろ! ここは俺とデモンゲートだけでいい!」
「そうだな。足手纏いだからとっとと逃げとけ」
イリアは大声で、そしてデモンゲートは淡々とそう伝えた。事実、大抵の人は魔神に対して有効打を与えられない。それどころかこれだけの魔力に当てられれば意識を保つことさえも厳しいかもしれない。
指示を受けたウーラリードは、見張りなどのために残された一部の者を引き連れてどこかに転移していった。今のは能力ではないからそう遠くまでは転移していないだろう。だが避難できればいい。
「お前は何だ? ……ああ、いや、まずはこっちが自己紹介してやろーか。俺はシュールラ=イリア、五法帝のうちの一人だ。よろしく。…………で、こいつが同じく五法帝のデモンゲート。……んあ、今は四法帝だっけか」
イリアは自身の名前を伝え、ついでに口を開かないデモンゲートの名前も教えた。別に深い意味はない。ただの、言葉通りの自己紹介だ。尽くす必要のない、毛ほどの礼儀。
「ふん! 聞いて驚くな!! 俺様は第四の魔神・“強欲”のマモン様だァ!! せいぜいこの俺様に恐怖し、崇めながら殺されることだなァ!!!」
「…………なんだアイツ。お前に似てんな、デモンゲート」
「どこが」
「おォおい!! そんな冷めた目で見るんじゃァない!! 四番だぞ、四番!! すっごい強いんだぞ! 俺様はァ!!」
異常な相手にデモンゲートは当然のことながら、普段からテンションの高いイリアでさえも冷たい視線を送っていた。
確かに強いのだろうけど、なんか大したことなさそうだ、そういう雰囲気を醸し出していた。
「イリア、俺は一刻も早く主様の下に戻りたいんだ。足引っ張るんじゃねぇぞ」
「それはこっちの台詞だクソヤロー。俺の邪魔したらテメーから殺してやるからな」
「お、なんだお前ら。俺様に勝てるつもりなのか。……良いな!!」
「ッ……!!」
マモンは再び魔力を暴れさせて大地を平らにした。なるほど、戦いやすいことこの上ない。障害物も、地の利も存在しない。ただただ二対一という状況というわけだ。
「『停止』……」
早速、デモンゲートは時間を止めてマモンに接近して攻撃を試みた。攻撃的な能力ではないけれど、先手を取るには最強の力だ。
……そのはずだった。時間を止めようとした瞬間、マモンの姿は消えていた。いつの間に移動したのか、そう思っている間に世界は再び動き出した。
「時間にして2秒、世界を停止させる能力ってか。なかなか面白ェじゃねェか!!」
「ッ!?」
そう言ってマモンの重く鋭い蹴りがデモンゲートに炸裂した。なぜ能力がバレたのか。調べてきていたのか……だとしてもなぜ今、使ったのがバレたのか。デモンゲートは血を吐きながら疑問になっていた。
「だがもっと面白いのは……」
「『重力操作』!」
「テメェだな!! 想像を現実に引っ張ってくる能力か!!」
「!?」
マモンは天に向かって落下しながらそう叫んだ。そして、能力を解除する前に彼にかかった重力は正常に戻った。浮遊して重力に逆らったとかではなく、能力が正常な働きをしていなかった。
「……どういうことだ……?」
「スゴいだろ。俺様は魔力量だけならルシフェルよりも多いんだぜ?」
「そんなこと聞いてんじゃねーよ。なんで俺の、デモンゲートの能力を知ってる? なぜ最初っから対抗できたんだ?」
「うん? そんなことか……。教えてやっても構わねェぜ。俺様はなァ、他人の力を無制限に自分のものにできるんだ!! 欲しいからな!!」
「欲張りな野郎だ。つまり奪えるってことか?」
「雑魚ならな。テメェらみてェな奴は力の一部くらいしか貰えねェよ。実際、能力は問題なく使えてるだろ?」
力の一部……マモンの言う通り能力が使えない状態ではないが、いくらか弱くなっているようだった。
一つの力を2人で使っているような感覚だ。もっとも、そんな経験はしたこともないが、つまり部分的に奪われている。それを“問題ない”なんて……奪う側の考えなんて分からないものだ。
「まぁ関係ねぇな。自分の力にやられるほど俺達はマヌケじゃないからな」
デモンゲートは静かにそう言って立ち上がった。炎を扱う者に炎が効きづらいように、同じ能力を有しているなら効果は明らかに薄まる。それは相手も同じであろうが、脅威に感じるほどのものではない。
「へっへっ。そう思うか」
マモンは不敵な笑みを浮かべながら、腕を構えた。




