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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第六章 襲来
32/72

第32話 分断

「あなたには私達の相手をしてもらうわよ」


「……!!」


「ッ……セリア!!」


「問題ない! 私はっ……!」


 どこからともなく現れた第七の魔神・“色欲”のアスモデウスがセリアを蹴り飛ばし、それにベルゼブブがついていった。この一瞬に王城は一部崩壊し、残されたグラとジルアード、パルセンダがアスタロトと対面した。


「……儂らが貴様の相手をすればええのか。……能力スキルは使えないんじゃろ? それで儂ら3人を相手できると思ってるのか?」


「竜帝・ジルダ=グラダルオだな。どうだろうな……。まぁ何もない空間にエストは長時間幽閉されているんだ。解放したところで精神が狂っちまってるだろうよ」


「…………」


 何もない空間にいる人は、どれだけの間正気を保っていられるのだろうか。この数秒のうちに何十年、急がなければならない。


 一刻も早く、エストを解放しなければ。グラ達はそう思って能力スキルと魔力を全開にした。


「『断風タチカゼ』!!」


「? おぉ……痛えな」


「おい、ジルアード! 城をあまり壊すな!!」


「そんな余裕があるんならな」


 ジルアードが斬撃をアスタロトに向けて放ち、それはアスタロトごと城壁を切り裂いた。が、肝心のアスタロトは薄皮が斬れた程度だ。そんな化け物相手に周囲を気にしている余裕はない。


「『バク』!!」


「なるほど、鎖か」


「ッ——『竜爪炎(ドラグ・ハル)』!」


 パルセンダが魔力の鎖で魔神を拘束し、その隙にグラが竜人形態で殴りかかった。最高硬度の肉体での攻撃はたとえエストであろうとも直撃は避ける。


 が、能力スキルの使えないアスタロトは防ぎもせずに攻撃を喰らい、家屋を破壊しながら吹き飛ばされた。


「あぁ〜……しんどいな、縛りプレイは。……帰ろうか。……いや、アイツを封じ込める条件に“戦闘する”ことも入ってるかもしれんか。……めんど」


 森まで吹き飛ばされたアスタロトは、天を仰ぎながらひとり呟いた。彼は本来、“怠惰”の名の通りの怠け者であった。


 戦闘を楽しむことはあれど、己の好むままに戦うのがよかったのだ。制限のかかった戦闘は彼にとって面倒事でしかなかった。


「思いっきり殴ったんじゃが……どう思う?」


「硬いなぁ。俺の斬撃も大して効かないようだし……でも能力スキルが使えないっていうなら戦いようはあろうな」


「僕の拘束はあまり効きそうにないなぁ」


 どうしたもんか、彼らは考えながらアスタロトの方へと飛んでいった。無防備な状態を攻撃しても大した有効打にはならない。能力スキルを発動させるほど焦らせるにはどうすればよいか……。


「貴様、魔力の感じからして第三の魔神・アスタロトじゃろ。セリアの方には2人、第一の魔神を除いてもあと1人いるはずじゃよな?」


「ん? ああ……マモンのことか。アイツは今ごろ裏側で暴れてるだろうな」


 裏側……ハーラン大陸のことであろう。こっちには3人で来ておきながら向こうは1人か。こっちの戦力を理解した上で攻めてきたということだ。


「さぁ、俺はさっさと終えて寝てたいんだ。……始めよう」


「……!?」


 寝転がっていたはずのアスタロトは瞬く間に3人の前に接近し、パルセンダの首を掴んで放り投げ、残りの2人は蹴り飛ばした。魔力で肉体を補強していただろうが、身体強化系の術は使っていなかった。それでもなお、彼の攻撃は素早く重いものであった。


「げほッ……はぁ……はぁ……」


「グラダルオ、お前は2年前に三界と戦っていたか。防御が間に合ったのは経験があったからかな?」


「ジルアード、パルセンダ! 気をしっかりしろ!!」


 2年前、手も足も出なかった我界デスバルトよりも圧倒的に強い。エストが言っていた。“第三以上の魔神は格が違うようだ”、その意味をグラは理解した。


 魔力の大きさが、生命としての肉体の強さがまるで違う。能力スキルを使わなくとも、ソイツは“異常の領域”に足を踏み込んでいた。けれど……。


「儂の“勝利”は貴様に勝つことではない。貴様に能力()を使わせることじゃ。……エストなら貴様に勝てる……!」


「そうか、やってみろ」


 グラは身体から炎を吹き出し、そしてそれを硬化した。実体のないものを硬化すれば、それは“破壊力”という新たな力を持つことになる。即ち、その炎以下の硬質、エネルギーの物質が炎に触れればたちまち抉られ、崩壊する。


 もちろん、炎以上のエネルギーであろうとも“何事もない”ということにはならない。川が地形を削るように、炎は物質を削っていく。


「“硬炎”!! 『竜撃ドラゴン』!」


「おっと、それはマズそうだ」


 炎を纏った爪を鋭く尖らせた一撃は、アスタロトに手首を掴まれることで停止した。とてもじゃないが、まともに勝てる相手ではない。隔絶した差が、壁が、そこには何枚も存在していた。


 アスタロトの残ったもう片方の腕はグラの腹にめり込み、グラは血を吹き出しながら叩き落とされる。そしてその一瞬を狙うように、目を覚ましたパルセンダが鎖の輪を回転させながら投げた。


「『縛鎖バクサリン』!!」


 鎖の輪は高速回転によってあらゆるものを切り裂きながらアスタロト目掛けて直進した。が、それもまた手を振り下ろしただけで破壊されるしかない。


「……お前の鎖は魔力を封じるものだな。だが容量を超える魔力に対しては何の拘束力も持たないようだ。……なぁ?」


「ぐふッ……!!?」


 そしてその鎖の残骸を、背後から斬撃を発生させようとしたジルアードに突き刺した。一瞬、ジルアードの魔力は乱れ、防御することができないまま頭に強烈な蹴りを喰らった。致命傷にはならない。が、彼の意識は吹き飛びかけていた。


 なす術ナシ、少なくともこの状況は、そう言う他にはなかった。もはや格が違うなど、そんなレベルではない。


「所詮この程度なのだ……。身の程も知らずに……俺に挑むのが間違っていたな」

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