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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第六章 襲来
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第31話 問題

「あっ…………」


「えッ!? ちょッ……!!?」


 なんだ……? さっきまで張り切っていた身体が、今この瞬間に糸が切れたように……。迫り来る炎の剣をなんとか受け止めようにも……身体を動かせないな……。


 セリアがすんでのところで軌道を逸らしてくれ、その斬撃は結界にぶつかった。今のが直撃してたら流石に危なかった。……だがどうしたのか……。まだ限界は来ないと思っていたのだけれど……。刀に魔素を食わせ過ぎたか?


「ちょっとエスト!! 危ないじゃない! ……大丈夫?」


「おう。見ての通り何も問題ない」


「見ての通りだと問題大アリなんだけど」


「そうか。ところで起こしてくれないかな? 力が入らないんだ」


「問題大アリじゃない」


 なんだかんだ言いつつも、セリアはおれの腕を引っ張って起き上がらせてくれた。グラ達の結果も解除され、今日の特訓はこれで終了だ。


「はぁ……でもなんかスゴイ感じだわ。力が底上げされたっていうか、上限が引き上げられたっていうか……とにかくそんな感じね」


「昇華は神に与えられた力を己の支配下に置くこと。浸透はそれを己の肉体・精神と融合させること……簡単じゃないはずだけど思ったよりも早く完成したな」


「でしょ!? もっと褒めてくれていいわよ!」


 セリアは子供のような顔で、目をキラキラと輝かせながらそう言ってきた。実際これは相当……いや、とんでもなくすごいことだ。おれはセリアならできるだろうと言ったものの、正直賭けの部分が大きかったから。たったの20歳の人間が成し遂げられるようなことではない。本当に天才だよ。


「あとは能力スキルにもよるんだけど、力を自由に集中・発散する“厳凱ゲンガイ”まで至れば境地としては完璧だな」


「……え? 浸透で終わりじゃないの?」


「まぁほとんどその認識で合ってるよ。おれは指先に力を集中させれば身体強化系の技を使わなくても、指を弾くだけで山を削れたりするけど……まぁ実用的じゃないから厳凱は趣味の範囲だね。そこまで気にしなくていいよ」


「ふぅーん。そっか。ま、いいや! それより見てよ!! 目! エストとお揃いで真っ赤よ!」


 セリアは顔を近づけてそう言った。いつの間に鏡なんて見たのか。いや、違うな。剣を覗いたのか。別にそこまで興奮することでもないだろうに……テンション上がってんのかな。


「エストが金髪だったらもっとお揃いなのに……仕方ないか」


「拘らなくてよくないか? ……染めないぞ」


「そんなのお願いしないわよ! ………強要はしないわよ」


 思ったより揃えたいのか……? まぁダメってわけでもないんだけど……。面倒臭いからな。おれはお洒落をするような性格でもないし。……おれに金髪って似合うかな。


「おーい、お前ら! いちゃつくのは勝手にしたらいいが、儂らに感謝の一つくらい言ったらどうじゃ」


「ああ、ありがとうな! 安心して暴れられたよ」


「大丈夫なのか? 急に倒れたみたいじゃが」


「うん。大したことないよ。たぶん思ったより力を使ってたんだろうな。今日はもう休むよ」


 結界を張っていたグラとジルアード、パルセンダに感謝を伝えておれは部屋に戻った。……しかしそんなに力使ってたかな……? 人の能力スキルは真似てないし、ただ刀に魔素を纏っていただけだ。


 それだけでこんなに疲れるとは思ってなかったんだけど……変な感じだな。しっかり眠れば治るかな。……治るといいんだけど……。


 その日は早く眠りにつき、翌日にはすっかり疲れが取れていた。身体に異常があったとか、そういうのではなかったらしい。言ってて恥ずかしいが、単に疲れただけだった。


 セリアが浸透してからは特訓の量を減らし、魔神がいつ来ても対応できるようにしていた。この数日で国民にもズーザミアの方に避難してもらったから安心だ。魔界からも魔神についての報告はない。北大陸(イリア達)からも何も報告がない。


 でも、だからこそ油断してはいけない。油断はしていなかった。なのに一瞬、セリアから目を離した瞬間、彼女の背後に魔神が立っていた。


「セリア!! 後ろ!!!」


「!!」


 クソガキのような分かりやすい容姿……あれは第五の魔神・“暴食”のベルゼブブだ。獄境から門を開いて直接やってきたのか。だから簡単に背後を取られてしまった。……少し遠い。


 だがセリアなら自分の身は守れるだろう。守れるだろうけれど、魔神の強さも尋常ではない。


 それが敵の思う壺だった。だからセリアの方に気を取られてしまい、その一瞬を敵に突かれてしまった。


「上手くいくかな……」


「ッ!?」


「エスト!!」


 おれのすぐ隣に現れたのは第三の魔神・“怠惰”のアスタロトであった。異常なほどに魔力を纏ったアスタロトの掌がおれの視界を覆い、気づいたときにはおれは何もない闇の中に落ちていた。


「ッ……お前!! エストをどこにやった!?」


「あー……そう怒るなよ。死んじゃいないさ」


「……?」


 セリアが剣に炎を纏ってアスタロトに斬りかかった。だがそれも容易く受け止められ、剣を弾かれて距離を取られた。すると、アスタロトは揚々と話し始めた。


「おっと、これが条件かな……。俺の能力スキルはな……まぁ分かりやすく言えば対象に流れる時間を遅くするってもんなんだ。それを応用して極端に時の流れが遅い空間にエストを送ったってわけよ」

「だがアイツに直接作用する能力スキルはそうそう効かないだろ? だからアイツをその空間に閉じ込めている間は能力スキルを使えないって条件でアイツを封じ込めるほどの魔力出力にしたってわけよ。ま、それでも足りねぇから今説明する必要があんだけどな」


 「じゃあお前に能力スキルを使わせるか殺せばエストは解放されると?」


 「そうだ。とはいえ向こうの精神はこの数秒のうちに何十年も経ってるだろうがね。何もない空間で」

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