第29話 己にできること
「おお……こ、これは……!!」
「ウーラリードの能力だ。この前来たときにマークしていたからな」
それにしたってやっぱり便利な術だな。マークしていないと使えないって制限があるけれど、それを差し引いてもまぁ便利だ。
「さぁ、おれ達が来たことを王子にでも伝えてこい」
「は、はい! 承知致しました!」
そう言うとアルト達、ズーザミア国の使者は王城の中へと駆けていった。王子は確か……上が15歳とかだったか。まだ子供だっていうのに大変だな。
そう考えていると、城門の奥から1人の少年がやってきた。ここの王子だろう。少年はおれ達の前までやってくると、頭を下げて挨拶をした。
「この度はご足労頂きありがとうございます。私はこの国の王子、ルア・ズーザミアと申します。本来であれば私がお伺いするべきであったのに……申し訳ございません」
「いや、構わないよ。こっちの方が都合が良かったからね」
「そう言って頂けるとありがたいです。さぁ、どうぞこちらに」
少年はそう言っておれ達を城の奥へと案内してくれた。そして到着した部屋にはいくつかの椅子が置いてあり、それなりに飾られた部屋であった。……飾られているというよりは綺麗にされているって感じか。
「まず、言っておかなくてはならないことがあるな」
「……?」
「君の父親、ズーザミアの国王の命を救ってやれなくて本当に申し訳ない……!!」
「えっ……!? え?」
おれは深く頭を下げた。あのときは頭に血が昇っていたとはいえ、落ち着いていれば魔神の気配にも気づけたかもしれない。何かしら、対処できたかもしれない。
「お、お気になさらないで下さい! 操られていたとはいえ、父のしたことは許されることではありません。むしろそれに気づかなかった私達に責任がありますから……」
「それにしたってだ。君のように若い子から親は奪うべきではない。おれが殺したわけではなくとも、おれは君に謝罪しなければならない」
「…………父は……決して褒められるような人間ではありませんでした。彼は魔族の脅威が去ってからは何度も何度も戦争を仕掛け、そして勝利してきました。冷酷で残忍で……一国の王としては……ある意味ではそれもまた一つの正解なのかもしれません」
「ただどちらにせよ、およそ人の心を持っているような人物ではありませんでした。私達だって跡継ぎとして育てられただけであって、親子の情などというものはありません。愛情なんてものもありませんでした。……彼は正義は背負っていたのかもしれませんが、少なくとも善人ではありませんでした」
「……いや、個人としていうなら明らかな悪人です。そんな人だから、魔神に利用されて殺されてしまったのです。悪というものはより大きな力に潰される運命なのです。それが遅いか早いかの違いであって……なので気に負わないでください」
ルアは優しい顔でそう話した。彼の言葉に嘘はない。ズーザミアの王が非道だというのは知っている。だからアスモデウスの催眠やら何やらが効きやすかったのだろう。
おれだってそんな者が殺されるのは当然だとも思うけれど……彼のこれは言い訳だな。おれが言いたいのはそういうことじゃないんだ。
「君はまだ若いんだ。国を担うにも、人の命を考えるにもな。だから心に蓋をする必要はないよ。おれ達は君が何を言おうと別に咎めたりはしないさ」
「……!! …………私は……確かに父を尊敬などしておりませんでした。でも……だからこそ、父には心を入れ替えて欲しかった……! そしてもっと私達に……親としての愛情を注いでほしかったです……」
ルアは悔しそうな声でそう言った。親という存在は、子供にとっては世界そのものだ。だからそれは、そんな簡単に失われていいものではない。たとえ親がどんなものであろうとも、良くも悪くも簡単に扱っていい存在ではないのだ。それには他の何よりも理想を抱くだろうし、何よりも求めるはずだ。
「もう一度言う。君の父親を助けてやれなくて申し訳なかった。詫びと言ってはなんだが……おれにできることなら何でもしよう。いくらでも君達に力を貸すよ」
「ちょっとエスト、それ私にもちゃんと相談してよね。勝手に約束しちゃって……」
「あ、え!? 国には迷惑かけないから! いいだろ?」
「いいけどね。いいけど! そういうのは先に私に伝えてくれてると嬉しいな!!」
ああ……そうか。そうだよな。あんまり勝手なことはしない方がいいか。まぁおれが少し動いたくらいでそんな問題は出ないだろ。
「……力をお貸ししていただけるというのなら……ズーザミアにお名前を貸していただけませんか? 今は国力が落ちて不安定なので……庇護していただきたいです」
「ん? おう。それくらいなら構わないけど……。つっても世界的には大層なもんか。だがそれだけでいいのか?」
「えっと……その、できればもう一つ……」
「?」
下を向いてモジモジしながら口を開こうとしている。なんだ? なんか……言いづらいなにかを求めようとしているのか?
「あの、妹がですね。エスト様に憧れておりまして……よろしければぜひ会っていただきたいのですが……」
「はっはっ! なんだ、それくらいなら構わないよ。なんだ、もっと何か……とんでもないこと言うのかと思ったら」
「では、連れてきますね! 少々お待ちいただけますか? すぐに戻りますから」
なかなか元気な少年だな。感情の起伏が激しいというか、会ったばかりの仮面を被ったような顔から年相応の顔に戻ったみたいだ。
「なんか、昔のエストみたいね。大人ぶってるようで、でも芯は年齢通りの子供っていうか」
「……それっておれよりセリアじゃない? おれはフツーに大人だったよ」
「私の方が大人だったわよ。でもエストは世間知らずだったから似ても似つかないか」
失礼な……! 常識を持っていなかったのはおれのせいでもなかったのに。まったく……。
ルアの連れてきた妹はおよそ5歳前後の子であった。目をキラキラとさせながらおれ達を見つめてくるので、少しばかり昔話をしてやった。どんな人と出会ったのか、どんな街に行ったのか、思い返してみれば色んなことがあったな。
その後はルアとセリアが何やら書類のやり取りをしていたので、おれはルアの面倒を見ていた。一通りのすべきことを終え、ルア達に別れを告げておれ達は数日かけてミスロンへと帰っていった。




