第25話 神死炎剣
「お前らは全員おれのことは知ってるんだろ。まずは自己紹介くらいしてくれよ」
「では私から。既に一度挨拶をしておりますが、第七の魔神・“色欲”のアスモデウスと申します」
「私は第六の魔神・“嫉妬”のリヴァイアサンです」
「我は第五の魔神・“暴食”のベルゼブブ」
「俺ァ第四の魔神・“強欲”のマモン様だ!」
「そして俺が第三の魔神・“怠惰”のアスタロトだ。よろしく」
アスタロト……“怠惰”の名前に負けない怠け具合であるが、他の4人とは格が違う。かつて戦ったデスバルトや復活したばかりのルシフェルよりは確実に強い。だがそれ以上に気になるのは……。
「第二が親父だったんだろ?第一の魔神はなぜいない?」
「アイツはなぁ……ああ……あれだよ。自分勝手なんだ。だからあれだ……いないんだ。アイツはもはや破壊神にすら従わないからな。面倒なヤツだろ?」
「人を呼んでおきながら勝手だな。まぁいい。それで、おれとしたい話ってのは?」
「世間話はいらないか。まぁそっちの方が楽でいい。えっと……俺は面倒だからベルゼブブ、お前が話せ」
「え、おう。あぁ……まず我らの目的だがな……」
「それは知ってるから省いていいよ。破壊神を現世に降臨させるんだろ? ……あ、いや、待て。なんで現世なんだ? 獄境の方が楽じゃねぇのか?まぁ獄境に降臨させるって言っても止めるがよ」
「破壊神は破壊の象徴だぞ。破壊する意味のない獄境にわざわざ降臨させるわけがないだろう。それに破壊神ともなると存在力が並ではないからな。莫大なエネルギーを使って獄境に降臨させるなど、そんな無駄なことはしない」
「存在力?」
知らない言葉だ。聞いたこともない。
「その名の通り存在するだけで発しているエネルギーのことだ。破壊神や創造神というのはこの存在力が膨大であるため天界から降りることはまずない」
存在力が大きいとそれだけ世界に縛られやすいということか。確かに彼らが世界を跨ごうとすればそれだけで世界が消滅しかねない。つまりエネルギーの無駄遣いをしたくないと、そういうわけだな。
「で、話を戻すが我らが破壊神を降臨させようと思っても貴様が邪魔なのだ。かつてルシフェルが勢力を広げていた頃もそうであったが……ヤツの場合はその行為も破壊神の降臨に繋がるものであった。だから、いくら神に匹敵する力を持っていようと野放しにしておいて良かったのだ」
「だが貴様は違う。貴様がいてはそもそも破壊神を降臨させることが難しい。我らの邪魔をする上に、貴様の力では破壊神を降ろさないからな」
「……聞くだけ聞こうか」
「貴様、我らが同胞にならないか? “傲慢”の名を継ぐのなら、貴様にも、貴様の大切な者にも手を出さないと誓おう」
「……そんな話に乗るとでも?」
「お前は元々こちら側の者だろう」
アスタロトが閉ざしていた口を開いた。閉じていた目を開き、おれに向かって語り始める。良いところだけ奪っていくタイプだな、コイツは。
「お前を初めて見て驚いたものだ。まさか魔力を持たない者がいるとは、とな。だが、本来そんな者は存在しない。つまりほら……あのー……お前は元々、能力を破壊神に与えられていたんだ。それを創造神が魔力を奪うことでその力を封印し、お前を己の影響下に置いたのだ。根源の力を借りてな。まーその力もそろそろ抑えきれていないようだが……」
「は……?」
能力が……なんだって? 破壊神と創造神様が……いや……。
「……まぁいい。とにかく……あれだ。お前が俺達の同胞と戻るのなら、俺達は無駄な殺生はしない。お前が求めるならな」
「それが交渉だってんならやっぱり決裂だ。おれは運命だとか宿命だとか、そんなもののために戦うんじゃない。お前らが敵だから戦うんだ」
「……やはりな。残念だが、期待はしてなかったさ」
「!?」
交渉決裂だな、アスタロトがそう言った瞬間、5人の魔神は一瞬にして姿を消した。家にでも帰ったのか、いや違う。魔力を追っていたから行方は分かる。現世だ。
……なるほどな。おれを現世から離して戦いを始めるという算段か。転移の速さ以外は想定内だな。
「『天地逆行』」
おれは席に座ったまま、右手を腰に差したままの刀にのせた。そしてほんの2〜3秒、時間を巻き戻す。この程度を一度発動するくらいなら大して問題ではない。もちろん連発をすることはできないだろうが。
「!? なッ……!??」
「!」
おれが刀の柄を握っているのを見て、第六の魔神・リヴァイアサンが瞬時に反応し、どこからか三叉槍を取り出しておれを突き刺そうとした。戻ったとき、たまたま視線がおれに向いていたのだろう。攻撃されると瞬時に感じて、誰よりも早く反応してしまった。
「!! 待て! リヴァイアサン!!」
「『神死炎剣』!」
姿勢を低くして槍を躱し、そのまま刀で垂直方向に円を描いた。地獄の刀は炎を纏いながらリヴァイアサンの首に触れ、そのまま頭を落とした。
なるほど。初めての経験だったが、条約を破った者に対する攻撃は、その威力が格段と高まるらしい。おれは刀を鞘に納め、この一瞬の出来事を見ていた魔神達は、警戒しながらも臨戦体勢にはならなかった。
「先に手を出したのはそっちだからな。制裁を加えてやっただけだ。文句は言わせねぇぞ」
「……ああ、分かってるさ。ここは手を引くとしよう。ここで戦り合うのは互いに面倒だ。そうだろ?」
「流石に4対1は分が悪いからな。次会うときはせいぜい作戦でも立ててやがれ」
おれはそう残して部屋を出て、そして獄現門へと向かった。あそこで戦闘にならなかったのは良かった。勝ち目がない……とは言い切らないけれど、確実に有利なのは魔神達だった。
おれは誰の能力も知らないから。魔神達はおれの能力を把握しているだろうけど、それだけに被害を考えればそう簡単に手を出すこともできなかったのだろう。
「どう思う? アスタロト」
「想像以上だ。時間を巻き戻すこともできるとは……。何より厄介なのはヤツの解放の力だな。能力による影響を受けないってのは面倒だ。それに加えてあの魔眼、厄介なんてもんじゃないな。俺でも勝てると断言はできなさそうだ」
「じゃあどうするんだ? 我ら全員で相手をするか?」
「……いや、それは邪魔になる。だから……そうだな…………面倒ではあるが、封印することにしようか」




