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神話の英雄譚/神々の楽園  作者: わらびもち
第四章 新勢力
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第23話 “サタン”

 条約は書面上でも成立する。ヤツらが敵対しないと言うならしないのだろう。そういうものなのだ。


「どうするかはお前に任せよう。正直罠だとは思うが……1人で来いというなら儂らが同行するわけにもいかない。じゃからお前に任せる」


「……行くよ。訳も知らずに戦うのもどうかと思うしな。……もし、分かり合えるならそれが一番だ」


 この手紙を見るに、平和にいこうとか、そんなものではないだろう。ヤツらは破壊神を降臨させるために現世を支配しにくるだろう。どんな条件を出そうが、人を傷つけるなら認めるわけはない。


 けれど万が一、だれも傷つけないと言うなら話を聞く価値もあるのかもしれない。


「ねぇ、また1人で行っちゃうの?」


「うーん……仕方ないだろ? 2人で行ったとしたらそれこそ危険だから。まぁ安心しててよ。ヤツらもおれのことは攻撃しないから安全さ」


「お前がそう言うなら止めはしない。じゃがくれぐれも気をつけるんじゃぞ。2日後、一応は獄現門までは見送るぞ」


 グラはそう返して部屋を出ていった。セリア達が不安になるのは分からないこともない。おれだってセリアが呼び出されていたら心配しただろうし止めていただろう。でも相手の機嫌を損ねて一気に侵略された方が厄介だ。


 話し合いで終わらなくとも、戦闘時の条件を突きつけるくらいはしてやった方がいい。可能ならば、“民間人には危害を加えない”など。


 まぁ、そんな条件を出したら相手もなんらかの有利な条件を出すだろうけれど。無いよりはマシだろう。


「今日はもうゆっくり寝ようかな。セリアも飯食ってちゃんと休め」


「……そうするわ。……あ、そうそう。一月後くらいにズーザミアの王子がミスロン(ウチ)に来るらしいわ。エストが呼んでおいたんでしょ?」


「操られてたとはいえ王が攻撃してきたんだからな。それなりの対応はしなきゃいかんだろ」


 おれは最後にそう言って眠りについた。魔素を身体中に巡らせたおかげでいくらか身体は楽になったけれど、その分どっと疲れが押し寄せてきた。


***


 獄境のとある土地、6つの魔神が一堂に会していた。すでに死んだ二番(ルシフェル)を除いた第一から第七までの魔神が。


「ねぇ、あなたから聞いた話とはとても違ったのだけれど。あれが脅威じゃないって?」


「そうだよ? 彼の全力はほんの数分しか保たないだろうから」


「その数分を耐えれる奴がどれだけいるってのよ! あなたの脅威でなくとも私からすれば充分脅威よ!」


「アスモデウス、落ち着いてくださいよ。実際のところどうなんです? どれくらい強いんですか」


「リヴァイアサン、私とあなたは相手にならないでしょうね。2人同時で相手すれば時間稼ぎくらいはできると思うけど……人間達と戦うなら得策じゃないわ。アスタロトとマモンで彼を、私とリヴァイアサン、ベルゼブブが他の奴らの相手をするのが現実的か……。あなたは戦力に数えない方がいいからね」


「勝手にしてよ。面白そうなら参加するから。まったくね……君達は破壊神ディアゴルサマがどーのこーのって考えすぎなんだよ。もっと楽しまなきゃ損だよ?」


「貴様! 己が宿命も忘れたかッ!!」


「めんどくせーな。ケンカしてんじゃねぇよ。はぁ……」


「アスタロトの言う通りですよ。2人とも仲良く……はしなくてもいいけど、とりあえず言い合いはしないでください。ちょうど条約も成立したようですし」


「!! ほう……面白ぇじゃねぇかよ。どう見ても罠にしか見えねぇだろうに……余裕ってか?」


「互いに攻撃しないという条約ですから。確かにダメ元ではありましたがね」


「そっか。じゃあボクは帰るよ。もう話すこともないだろ?」


「待て!! サタン! アイツ……本当に帰ったのか……」


 “サタン”と呼ばれた者は、一瞬のうちに姿を消した。そして、話すことのなくなった残りの5人の魔神もその場から散っていった。


***


「もっとこう……ゆっくり使うんだ。“ぐぐっ”て。“ぐぐぐっ”てさ」


「うーん……分かった! “ぐぐっ”ね!」


 おれはセリアと共に王城の特訓場に来ていた。周りに人が多いのは、珍しくも国王が特訓場に赴いているからなのか、おれに会いに来たのか……。どちらにせよ人が集まっていた。


 おれはセリアと打ち込んでおり、そのついでに昇華の“浸透”を教えていた。浸透とはつまり、昇華した能力スキルを強化したものとして扱うのではなく、普通の能力スキルとして扱えるようになることだ。


 おれで言えば浸透して身体能力が常時、異常なほどに高くなっており、容姿も変わっている。『融合身体強化バースト』のように能力スキルを応用した術は発動する必要があるけれど、それでも浸透していた方が負担は少ない。まぁ…『融合身体強化バースト』で言えばそれにしたって負担は大きいのだけれど。


「……気持ちを落ち着かせたままだ。昇華させると多少高揚するのも分かるけど、いつも通りの感覚で使うんだ」


「うーん……。難しいな」


 おれはセリアの剣と炎を捌きながら感覚を教えていった。あくまでも打ち合いだからなかなか激しい攻撃をしてくるが、動きをよく見てほんの小さな隙を突くように攻撃の軌道を逸らした。


 どの技も洗練されているけれど、まだ粗が残っている。……それもまぁ、おれくらいに速く精密な動きができる者から見ればだけれど。


「ふぅ……。一旦休憩しよう。焦っても一朝一夕で習得できるもんでもないしな。何よりおれの体力が限界だ」


「分かった。……やっぱり難しいわね」


「そりゃそうさ。おれの知ってるのでもバンリューやデスバルト、ルシフェルくらいしか浸透までは行ってないからな。あとはまぁじいちゃんか。昇華が“真に力を我が物にする”ことなら、浸透は“力を異能力でなく身体能力にする”ことだ。神から与えられた力を元より備わっていた力とすること。そりゃ簡単じゃないよ」


 おれはセリアにそう伝えた。簡単じゃない。けれど不可能ではない。少なくともセリアのように才のある者であれば。


 その後もおれ達は一日中、打ち合っては休み、打ち合っては休みを繰り返した。たった1日であったけれど、セリアは確実に成長していた。

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