第20話 ご挨拶
王室には魔力を感じられないので玉座の間へ行くことにした。そっちにはそれなりに魔力が集まっていた。それもそこそこ強そうなヤツらが……まぁおれから見れば大したものではないけど。
おれは部屋の扉を蹴り飛ばして堂々と侵入した。すると、騎士はおれに剣を向け、国王は大声を上げた。
「なッ……!? 何者だ!? ウーラリード! 貴様は何をしている!?」
「……うるせぇ。……おれはネフィル=エスト、これで充分だろ」
「は……!?」
おれは一言そう言って、国王の顔の横に『白天』を撃ち込んだ。下手に動くな、そういう忠告だ。
周りの騎士どもには高密度の魔素で押さえつけ、身動きを取れないようにしていた。動かれると何かと面倒だからな。と、そんなことを考えていると手元のウーが何やら言葉を発していた。
「そろそろ……離していただけませんか……? 死んでしまう…………」
「……別にお前の命に興味はないが……そうだな。責任を追及すべきは下っ端じゃないか」
「ッ……げほッ……!」
おれはウーを放り投げて腰に差した刀を抜いた。そして刃を国王の首に突きつける。いつでも殺してやれる。怯える王をただ見つめながら冷ややかに言葉を発した。
「殺しの趣味はないんだ。……だが、盛大な喧嘩を売っておきながら何の落とし前もつけないのは……なァ?」
「…………」
「……子供はいるか?」
「……一番上に……15になる子がいる……。それがどうした……」
「…………そうか」
「……?」
おれはそっと刀を鞘に収めた。どうしたもんか……。子を持つ親は……殺したくないな。親の愛は奪うべきではない。
……いや、これはただおれの個人的な感覚なんだけど。……だがこんなときにそんな甘いことを言っているのも、良しとは思えない。コイツは誰かの親を奪ったのだから。
「大人しく牢にぶち込まれるなら命までは取らん。拒否をするのなら……首を刎ねる。選べ」
「…………聞いていた話と違うではないか!! この私がこんなことになるとは…………!!」
「!?」
急に国王が叫び出したかと思えば、彼の首を何かが貫いた。棘か刃物かは分からないけれど、誰かが後ろから突き刺したのだ。
おれは警戒を強め、一度玉座から距離を置いた。そして玉座の裏から人影が現れたかと思うと、その女は頭を下げて話し始めた。
「お初にお目にかかります。第二の魔神・“傲慢”のルシフェルの子、ネフィル=エストとお見受けしますが?」
「……第二……? ……確かにおれはエストだが……お前はなんだ……?」
「私は第七の魔神・“色欲”のアスモデウスと申します」
「魔神だと……!?」
魔神……それは昔、おれ達がやっと討ち倒した存在……。ルシフェル以外にも魔神は存在したのか……? それも第七ということは……最低でもあと5人はいる。……その数も問題ではあるが、なぜ今になって動き出したのだ……? いや、それ以上に……ミスロンに手を出したのはコイツか……?
「おっと、そう警戒なさらないでください。今あなたと衝突するつもりはございません。殺されたくはありませんから。あなたの方もお疲れでしょう。しかし……聞いた話とは違いましたね。しっかり問いただしておきますか」
「……?」
消えた。速いとかではない。たぶん、別次元に移ったんだろうな。後を追おうと思えば追えるだろうけど……アスモデウスの言う通りおれはもう戦えるほどの体力は残っていない。今にも身体が壊れてしまいそうだし……ここは大人しく退くべきだろう。
おれは息の切れている様子を見せないようにしながら騎士の方を振り向いた。
「……王の子はどこに?」
「……王子達は部屋にいらっしゃいます……」
「王が死んだとはいえ、このまま終わらせる訳にもいかんだろ。兵士はミスロンで預かっておく。国が落ち着いたら向かうように伝えておけ」
「……承知致しました……」
返事を受け取り、おれはウーの首を再び掴んで転移門を開いた。ウーは驚いた様子であったが、魔力の流れを確認した術を模倣することは、おれにとっては容易いことだった。もちろん、昇華しているからだが。
門に足を踏み入れる瞬間、おれは言い忘れていたことを騎士に伝えた。
「今起こったことはしっかり世界中に知らせておけ。おれのことと…特にアスモデウスのことはな」
おれはそう伝えて門を潜った。セリアの声がかろうじて聞こえたものの、視界には映らないままおれは地面にうつ伏せになっていた。心臓はなんとか動いている。呼吸は薄くなりつつも、意識すればなんともない……肝心なのはその意識がなくなっていくことなのだが……。
ダメだ。もう何も考えられねぇ。もはやこう考えているのが、現実なのか夢の中なのかすら分からない。あぁ……こういう感覚は……本当に久しぶりだな…………。




