第19話 怒りの守護者
「ふんッ……!!」
「ッ!??」
魔界に上陸したおれは、抱えていたセリアとリルを下ろし、グラ達の前に立っていた男を蹴り飛ばした。知らない顔……今のが恐らくジルアードだろう。……そこに転がっているのはパルセンダだな。
「セリア、火任せられるか!?」
「うん! 任せて!」
そう言うと、セリアの手元に国中の炎が集まっていった。これで火事は収まるだろう。……となるとおれがやるべきことは……。
なんとか冷静さを保ちながら考えていると、蹴り飛ばした男が身体をふらつかせながら起き上がってきた。
「貴様……何者だ……! 法帝でも……バンリューでもないくせに……この強さは……!」
「お前は少し黙ってろ」
「……!!」
おれは高濃度の魔素を放ちながら威圧的に言葉を放った。ジルアードは身体を震わせつつ、おれの言葉に従って静かになった。逆らえば殺されるということを理解しているのだろう。
「グラ、デム、ご苦労だった。戦いが始まってどれくらい経った?」
「……1時間ほどにございます……。申し訳ございません……。守ることができませんでした……!」
「いや、よくやってくれたよ。この程度ならなんとかなる」
「……?」
「せっかくだ。よく見ておけ。時の逆行を体験したのは世界を探してもおれだけだろうからな」
「『天地逆行』!」
おれは手元に魔素を集め、それを大地に、国に流していった。能力を完全に昇華させた状態で、あのときの感覚を模倣する。
あぁ……くそッ! 範囲が広すぎるな。ただでさえ無理して飛んできたってのに……そろそろ限界が来そうだ。身体が熱くなっていくのを感じつつ、同時に国の状態が元に戻っていくのを見た。
死にかけていた人達も、みんな治っていく。……魂の抜けた人達を除いて。そんなおれの様子を見て、倒れていたパルセンダは顔を上げた。
「…………何者かと思ったら貴様……あのときの男ではないか……!!」
「だったら何だ? ……さて、1人ずつ相手するのは面倒だ。お前ら、まとめてかかって来い」
自分でも驚くほどに冷たい声だな。魔素の塊を放ってしまえば、雑兵などは戦闘不能になってしまう。殺すつもりはないけれど、わざわざ生かすつもりもない。パルセンダは……今更相手をする必要もないな。
となるとジルアードを潰して………雇い主に会いに行かなければ。おれは圧縮した魔素を嵐のように纏い、放ちながらジルアードに接近した。
「……殺すつもりはない。……おれはな。抵抗する気がないなら黙って眠ってろ」
「!! …………」
威圧しながらそう言うと、ジルアードは意識を失った。これだけの魔素に晒されれば並の人間は意識を保つことはできない。……この男を並と評価していいのかは分からないが。
おれは自分が怒っているのは理解していた。だが、どんな目をしていたのかは分からない。おれの目は闇を孕んでいたのか、国の者は恐怖している様子だった。
突然襲撃され、当然ではあるけれど、少なくともおれのせいでそれが増幅していた。ならばおれは、彼らの不安を取り除かなければならない。
「ここ、ミスロンは!! セリアの国である! この国を侵すということは、セリアを侵すことと同義! それはこのおれ、ネフィル=エストの怒りに触れることだ!!」
「ッ!!?」
ここに来てまでおれの正体を隠す必要はない。いや、むしろ明かした方がいい。ただそれだけでこの国が平和になるのなら。
「今日この日より!! このネフィル=エストがミスロンの守護者だ!!」
「…………エスト……だと……!? 大魔王様……!??」
……さて、あとおれがやることは……!? ……マズいな……。力を使いすぎた。もうすぐ意識が飛びそうだが……ちゃんと挨拶はしねぇとな……。おれは転がっているウー……なんだっけか。パルセンダの部下を首を掴んだ。
「ここに来たのはお前の転移だよな? お前らの雇い主のとこに連れてけ。どっかの王だろ?」
「は……はい。……お連れ致します……」
随分と素直になったものだな。まぁそっちの方が早く済むからいいんだけど。
ウーは空間を歪めて転移門を生み出した。ここに入れば、首謀者のところへと転移される。……帰ってくるときのために真似できるようにしないとな。
「エスト!」
「すぐ戻るよ。敵の兵士達は好きにしてくれ」
無茶をするなとでも言いたげな顔をしてセリアがおれに声を掛けた。止めても無駄なのは分かっているから、何も言いはしない。それでもおれを落ち着かせるように名前を呼んでくれたのかもしれない。
転移先は大きな城の前だった。立派なものだな。ウチの惨状も知らねぇで。そのくせ軍隊はほとんど出張しているせいで中はスカスカだ。おれはウーに王の部屋を尋ねて、彼の首を掴んだままそこへ向かった。




